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実はJeepではない、フォード・M151A1とは?
戦争映画は軍用車の宝庫であり、同時にJeepの貴重な映像が映っていることが多い。今回紹介する「グリーンベレー」もそのひとつである。
ジョン・ウェインが製作総指揮、主役を務めている同作品はベトナム戦争を描いているが、反戦とは真逆のものだ。むしろ、当時で世論の中心だったアメリカ軍の介入反対、反戦を封じ込めるために創られたものだ。ジョン・ウェインはバリバリのタカ派だったのである。
グリーンベレーとはアメリカ陸軍の特殊部隊のひとつで、実際にドンパチを行うよりは紛争地域で親米組織に戦闘教育を行ったり、破壊工作など主たる任務とする部隊だ。映画が製作された当時は同じく陸軍系の特殊部隊デルタフォースや第75レンジャー連隊がなかったため、陸軍の花形と見られていた。
特にベトナム戦争では北ベトナムから迫害された少数民族への戦闘教育や、ラオスやカンボジア国境を越境しての非正規作戦に従事したと言われており、その模様は「地獄の黙示録」に描かれている。
さて、映画はいかにジョン・ウェインらしい懲悪ものだが、ミリタリーマニアには人気のタイガーストライプ迷彩が登場することから人気が高い。これも深掘りすればキリがないが、ベトナム海兵隊パターンやジョン・ウェインパターンが登場する。
さらに軍用車マニアを惹きつけるのが、劇中で散々登場する「M151A1(:MUTT、ケネディジープとも)」という小型軍用車の存在である。一般的にはJeepと呼ぶ人が多いと思うが、厳密に言うとJeepとは見なされないクルマなのだ。
タミヤ本社には、完全にレストアされた車両が展示
まず、この車両はフォード社が開発・製造を担当したからだ。第二次世界大戦中に使われたJeep/GPWもフォード製ではあった。しかしこれはあくまでも、ウイリスオーバランド社が開発したJeep/MBの生産が同社だけでは間に合わないと判断したアメリカ軍が、フォードにも生産をサポートさせたからである。つまり、Jeepの“版権”はウイリスにある。
ウイリスはMBをM38/M38A1というモデルにスイッチした。これはJeepの歴史上で最も評価されたモデルだったが、アメリカ軍で活躍した時期は意外と短かった。
これに取って代わったのがM151A1だ。このモデルは輸送を考えて、小型軽量化が図られたのが特徴だ。Jeepと言えばボディオンフレーム構造が特徴だが、M151A1は鋼板をフレーム上に成形したプラットフォームとボディを組み合わせた、いわゆるモノコックボディであった。これに合わせてサスペンションもインディペンデント式を採用。フロントはダブルウイッシュボーン+コイルプリング、リアはスイングアクスル式となっていた。
M38/M38A1に比べるとボディが小さく、コイルスプリングにしたおかげでオーバーハングが短い。また低床で、まるでミニ・モークのようなフォルムなのが特徴だ。どこかJeepには似ているものの、縦型スリットはウイリスが版権を持っていたため横型に変更。そのため、今もFCAのJeepのヒストリーには入っていない気の毒な“ジープ”だ。
しかしこのM151A1、画期的な構造ではあったが問題が多いクルマだった。まずコイルスプリングを使った独立懸架式だったため、トラベル量が少なくてすぐにスタックしてしまうのである。しかも、スタック時に牽引フックにワイヤーをかけて牽くと、なんとボディが簡単に歪んでしまったのである。
さらに高速で走ると、リアのスイングアクスルのイン側が伸び上がるジャックアップ現象が発生し、なんと横転してしまうという事故が多発した。その改善策として、リアサスペンションを変更。操縦安定性が高いセミトレーリングアーム式に変えることで、問題を解決した。これがM151A2である。
四輪駆動車ファンからは、M422マイティマイト(海兵隊仕様の1/4小型トラック)と並んでダメ車に認定されているが、なんとアメリカ海兵隊などは90年代までバリバリに使っており、未だ現役の車両も存在するようだ。
日本でも、“ぶった切り”状態で米軍から払い下げられた再生して乗っているマニアがおり、非常に良好なコンディションを維持している。また、同車のプラスチックモデルキットを発売しているタミヤ本社には、完全にレストアされた車両がロビーに展示されているので、機会があったらぜひご覧いただきたい。