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■スズキとGMが共同開発した70MPa高圧水素タンクが認可取得
2004(平成16)年8月5日、スズキとGMが共同開発した「MRワゴン・FCV(燃料電池車)」用の70MPa圧縮水素タンクが、日本で初めて高圧ガス保安協会の認可を取得したことをスズキが発表。年末には、FCV(FCEV)として国土交通大臣の認定を取得した。
スズキは、世界戦略車の共同開発のためにGMと提携
スズキは、1981年にGMと資本・業務提携を締結。1970年代の排ガス規制強化やオイルショックなどの影響で、燃費の良いコンパクトカーの必要性に迫られていたGMと、世界進出、とりわけ米国進出を狙っていたスズキの思惑が一致したことによって、提携締結に至ったのだ。
共同開発の成果となった最初の世界戦略車は、GMの助言を受けながら1983年に誕生したコンパクトカー「カルタス」である。FFの3ドアハッチバックボディに、排気量1.0Lの3気筒エンジンを搭載し、1986年には高性能DOHCエンジンを搭載した「カルタスGT-i」が登場、モータースポーツで大活躍して存在感を示した。
カルタスは、欧州では「スイフト」と名乗り、2000年には日本でもカルタスの後継車をスイフトと名乗るようになり、2024年現在も続く人気モデルのスイフトが誕生したのだ。
GMの協力を得てMRワゴンベースのFCV(FCEV)誕生
スズキは、提携以降共同開発や共同プロジェクトを手掛けていたが、FCV(FCEV)についても先行するGMの協力を得て、2001年から本格的な開発をスタートさせた。GMの燃料電池とスズキが開発した高圧水素タンクを組み合わせ、2003年には35MPa高圧水素タンクを搭載した「MRワゴン・FCV」の認可を受けて公道試験を行った。
FCVのベースとなったMRワゴンは、2001年にデビュー。当時大ヒットしていた「ワゴンR」のようなハイトワゴンでなく、オーソドックスなセダンの軽である。
35MPaに続いて70MPaの高圧水素タンクが、2004年のこの日高圧ガス保安協会の認可を取得し、年末にはFCVとして国土交通大臣認可を取得した。MRワゴン・FCVの最高出力は38kW、最高速度110km/h、満充填時の航続距離は35MPa仕様の2倍に相当する200kmを達成した。
その後、2008年には小型燃料電池車「SX4-FCV」を開発し、国土交通大臣の認定を取得。SX4-FCVは、70MPaの高圧水素タンクを搭載し、減速回生や加速時の燃料電池負荷を軽減する、軽量コンパクトなキャパシターの採用により、航続距離は250kmまで向上した。
高度な技術とコストを要する高圧水素タンク
FCV(FCEV)で使用する水素は、そもそも気体で密度が低いので航続距離を延ばすためには、圧縮して高圧にして貯蔵する必要がある。ところが、水素には高圧にすると金属を腐食させる「水素脆化」という厄介な特性を持っている。これは、径の小さい水素分子が金属の結晶構造の中に浸透し、亀裂を発生させて劣化させる現象だ。
着火性が高い水素が漏れてしまえば爆発するリスクがあるので、通常水素タンクは高圧に耐えられるように樹脂製のタンクをCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やガラス繊維、炭素繊維などを何重にも巻いて強度と耐久性に優れた特殊なタンクが求められる。
2014年に市販化されたトヨタ「ミライ」と2016年のホンダ「クラリティ・フューエルセル」も、70MPaの樹脂製高圧水素タンクを搭載している。CFRPなどを使用するので高圧水素タンクは非常に高価で、燃料電池とともにFCV(FCEV)のコストを引き上げている部品なのだ。
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スズキは、2008年11月にGMとの提携関係を解消したが、現在も地道にFCV(FCEV)の開発は続けているようだ。ちなみに、その後GMはホンダとFCV(FCEV)の共同開発を進め、今年(2024年)1月に合弁会社を設立し、本格的な燃料電池の生産を開始した。ここで生産される燃料電池は、今夏に発売予定の新型FCV(FCEV)「CR-V e:FCEV」に搭載される。FCV(FCEV)の開発には、膨大な金銭的、人的リソースが必要なので、単独で開発するのは難しいのだ。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。