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AXCR挑戦3年目……成長したチームで必勝を期す
チーム三菱ラリーアートは、2022年にAXCRに参戦することでモータースポーツ活動の復活を、同ラリーの優勝を飾ることで内外に強くアピールした。続く2023年はフルモデルチェンジを果たした新型トライトンを投入。日本人クルー・田口勝彦選手と保井隆宏選手ペアを加え、連覇に挑んだ。競技車両としては開発途上の新型トライトンは最上位は3位(チャヤホン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組)に留まるが(田口/保井組は8位完走)、チーム力は確実に向上してきた。
そして、3年目のAXCR2024に挑むチーム体制の発表が、2024年7月16日(火)、千葉県のオートランド千葉ダートトライアルコースで行われた。
参戦体制は2022年から引き続き増岡浩総監督の元、タイの現地チーム「Tant Sport Thailand」がオペレーションを担当。クルーは2022年から引き続きチャヤホン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォン組を軸に、2023年に続き田口勝彦/保井隆宏組、サクチャイ・ハーントラクーン/ジュンポン・ドゥアンティップ組、小出一登/千葉栄二組の4台体制となった。
王座奪還に自信を見せる増岡総監督と田口選手
増岡総監督は3年目を迎えたチーム体制について「やはりスポーツはチームワーク。総監督してチームが力を発揮できるような体制づくりを行ってきた中で確実に力を付けてきており、本戦が楽しみ。これまでは土地柄のんびりしたところもあったものの、今ではすっかりプロの仕事を見せてくれるようになった。チームの雰囲気もとても良い感じです」と手応えを感じている様子。
2023年にチーム三菱ラリーアートに加入し、初めてとなるクロスカントリーラリーに出場した田口選手だが、未知のコースを走ることについてはあまり違和感を感じていなかったそうだ。とはいえ、ピックアップトラックのラリーカーについてはやはりドライビングスタイルは変える必要があったという。
セッティングもチャヤポン選手とは逆で、チャヤポン選手がセンターデフをフリーにしてハンドリングを重視するのに対し、田口選手はセンターデフロックでトラクション重視。その分、曲がりにくくなるのはブレーキバランスをややリヤよりにしているとのこと。
そんな田口選手は「昨年も(エースの)チャヤポン選手を食ってやろうと思ってましたが、ミスコースから出走順が後になって前走者の土埃で前走者が抜けずにズルズルと遅れてしまいました。前走車も後から来ているのは気がつきませんし。スピードは負けてないので、いかにクルマにダメージを与えず勝負所で仕掛けることができれば、自ずと成績はついてくると思います。作戦もナビと相談しています」と意気込みを語った。
増岡浩の直弟子、三菱自動車トップテストドライバーがついにエントリー
三菱自動車のテストドライバーラインセンス所持者は社内で約2000人くらいいると言う。市販車開発に携わるエンジニアにもこのライセンス所持者も多く、この”走れるエンジニア”の存在が三菱のクルマづくりの強みになっている面もある。
このテストドライバーライセンスには段階があり、トップライセンスの所持者は20人ほど。その中でテストドライバーの指導役でもある小出一登氏は、まさに三菱テストドライバーの頂点にいる人物だ。
小出選手は増岡総監督の薫陶を受け、チーム三菱ラリーアートでは総監督とともに競技車両の開発も担ってきた。今回のAXCRでは第四のエントラントとして、メインである3台がスタックした際のレスキューなどのクイックサポートの役割も担うことになる。
田口選手は小出選手について「走りのセンスはありますが、流石に(競技)ライセンスを取得したばかり。タイの国内戦を走りましたが、知らない道を走るといった経験はまだまだこれから」と評した。
増岡総監督も「今年は初めてなので役目を果たしつつ無事完走して、来年に繋げてほしい」と語る一方で、サポートカー以外の3台は2024年の最新スペックとなっており「ある意味全員に平等にチャンスがあるので、楽しみですよ」と語った。
増岡総監督以来、ワークスドライバーとして競技に出場する社員ドライバーがいなかっただけに、三菱自動車社員が小出選手に寄せる期待は大きいようだ。増岡総監督も、小出選手の活躍が社員の活力やモチベーションにつながることを期待している。
ライバルよりも小排気量のエンジンを補う優れたハンドリング
そんなチーム三菱ラリーアートとトライトンに立ち塞がるのは、昨年の優勝車であるトヨタ・フォーチュナーといすゞD-MAX。いずれもエンジンはディーゼルターボで共通だが、前者は2.8L、後者も3.0Lとトライトンの2.4Lを大きく上回る。
そこで、トライトンの美点であるハンドリングと走破性、ドライバビリティをより高めることでライバルに対抗している。特に2023年は市販車に近いレベルまでしか開発が進んでいなかったが、2024年仕様はシーケンシャルシフトを採用。シーケンシャルシフトについては、ドライバーの田口選手も「操作性が向上しシフトミスも無くなる」とその効果を実感している。
さらにトレッドを90mm拡大。これにより悪路走破性が向上すると共にコーナリング性能も高まった。実は2024年仕様車は1997年のパリ・ダカールラリーで優勝したリヤリジッドサスだったパジェロのジオメトリーを、当時の設計図を発掘して踏襲しているという。
増岡総監督は「2023年仕様はほぼ市販車でしたが、2024年は競技車両として開発しており、ようやく土俵に立てた。しかし、トライトンのポテンシャル的には競技車両としては85%から90%といったところで、まだ余力を残しています。今年実績を残してさらに開発を進められればと考えています」と語った。
「今回の開発は、やりすぎたかな?と思ってたら、トヨタも同じくらい開発を進めていているので、勝負はイーブンかな。ライバル2台は排気量も大きく直線が速いですが、我々はハンドリングが良い。ツイスティなコースでは我々が有利です。マッドになればさらに有利なんですが、僕が晴れ男でね(笑)。本来なら雨季なんですけど、ここ2年はピーカンで……」と増岡総監督は続けた。
田口選手も、リヤサスペンションがリーフスプリングからコイルスプリングのツインショックアブソーバーになったことで、パワーオーバーで立ち上がった際の収まりがわかりやすく、とても乗りやすくなっていると言う。
「ドライ路面となるとクルマへのダメージがさらに大きくなるので、本当にしっかり作っていかないとダメですね」と増岡総監督が語る一方、田口選手は「今年のクルマはかなり良いです。昨年と同じところでテストしてみると、昨年は全開できなかったところが全開で行けるようになっていたり、コーナーリングスピードも向上していて、全ての面で一段階進化しています。ウェットならパワー差は無くなるし、AYCによる走破性とハンドリングがさらに生きてきますね」とクルマの仕上がりに満足しているようだ。
AXCR仕様 | ベース車両(タイ仕様・ダブルキャブ) | |
全長 | 5320mm | 5320mm |
全幅 | 1995mm | 1865mm |
全高 | – | 1795mm |
ホイールベース | 3130mm | 3130mm |
トレッド(前/後) | 1730mm | 1570mm |
エンジン形式 | 4N16型直列4気筒DOHC MIVECターボディーゼル | 4N16型直列4気筒DOHC MIVECターボディーゼル |
ターボチャージャー | 三菱重工 | – |
燃料噴射装置 | 高圧コモンレール | コモンレール |
排気量 | 2442cc | 2442cc |
最大出力 | 150kW(約204ps※)以上 | 150kW(約204ps※) |
最大トルク | 470Nm以上 | 470Nm |
トランスミッション | 6速シーケンシャル | 6速MT |
駆動方式 | フルタイム4WD+CUSCO製機械式LSD | フルタイム4WD +AYC・電子制御リヤLSD |
サウペンション(前後) | 前:ダブルウィッシュボーン+コイルスプリング独立懸架 後:4リンクリジッド+コイルスプリング | 前:ダブルウィッシュボーン+コイルスプリング独立懸架 後:リーフスプリングリジッド |
ショックアブソーバー | CUSCO製ツインダンパー+油圧式バンプストッパー | – |
ブレーキ(前後) | ENDLESS製ベンチレーテッドディスク+モノブロックキャリパー | 前:ベンチレーテッドディスク 後:ドラム |
ホイール | WROK製CRAG T-GRABIC-II 7J 17インチアルミホイール | 18インチアルミホイール |
タイヤ | 横浜ゴム製GEOLANDAR M/T G003(245/75R17) | 265/60R18 |
■その他ラリー仕様装備
HKS製低背圧マフラー
ENEOS製競技用エンジンオイル
FORTEC製競技用クーラント
Moty's製ギヤオイル
FORTEC製競技用ブレーキフルード
CFRPフロント/リヤドア、ボンネット、フェンダー、荷台(リヤゲート取り外し)
ポリカーボネート仕様サイド/リヤウインドウ
レギュレーション対応装備(ロールケージ、シート、ハーネス、消火器)
通常ラリー装備(アンダーガード、マッドフラップ、スペアタイヤ×2、ウインチ+牽引バー、シュノーケル)
ARMプロダクツ製ラリーコンピュータ(日本人クルー車)
いよいよ開幕間近に迫ったアジアクロスカントリー2024。チーム三菱ラリーアートの活躍はもちろん、田口選手や小出選手といった日本人選手の活躍にも期待したい。