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フロンクスの秘密は“ホイールベース/トレッド比”にあり?
スズキ フロンクスを見ると、車幅が広く、長さが短めの“ワイド&ショート”のプロポーションが印象的です。これは同社のジムニーに見られるように、SUVと言うよりもショートホイールベース版の実用RV的なプロポーションです。かつてのSX4やエスクード、スイフトなども同様で、ここにフロンクスというクルマのキャラクターを解く手掛かりがありそうです。
さて、車両のホイールベース長とトレッド幅(前後トレッドの平均値)の比率のことを“ホイールベース/トレッド比(以下、W/T)”と言い、大雑把に車の運動性能を示す指標のひとつとして用いられます。その値が“1”に近いほど回頭性が高く、“2”に近いほど直進走行時の安定性が高まると考えられます。
この比率は2019年に発売されたトヨタ スープラで「ホイールベースとトレッドの比は1.55」と発表された際に広く意識されるようになりました。ちなみにスポーツカーの代表格であるポルシェ911カレラ(2023年モデル)のW/Tは“1.56”でスープラと同等、同様にメルセデス・ベンツSLCが1.56、フェラーリ488GTBが1.58ですので、スポーツカーの場合はこのあたりの数値が“黄金比”と呼ばれる理想的な数値となっています。
同様に、さる自動車メーカーの技術者氏によると、SUV型車両のW/Tに関する一般的な解釈は、下記のようになるとのこと。一概にW/Tは低ければ良いというわけではなく、良否を判断する指標ではありません。それぞれの車両のキャラクターを大まかに理解する指標として役立てるものです。
SUV型車両のW/Tに関する一般的な解釈
・低い比率(1.647-1.672)の車両は、狭い道での取り回しがしやすく、スポーティなハンドリングが期待できる。いわゆる“スポーティ”志向。
・中程度の比率(1.673-1.693)の車両は、安定性と機動性のバランスが取れており、日常のあらゆる状況で優れたパフォーマンスを発揮することが期待できる。いわゆる“黄金比”が1.68近傍。
・高い比率(1.694-1.748)の車両は、高速道路での直進安定性に非常に優れ、長距離ドライブなどでの快適な乗り心地が期待できる。いわゆる“ラグジュアリー”志向。
それではフロンクスとライバル車とのW/Tを比較し、それぞれのキャラクターを探ってみましょう。なお、各車種の短評には“全幅/重心高さの簡易的計算値(ルーフ高さの1/3)”および各車種の運動性能に対する技術的特長(ステアリングなど)も加味してあります。
各車種のデータ
全幅(mm) | トレッド 前/後(mm) | ホイールベース(mm) | 最小回転半径(mm) | |
スズキ フロンクス(*) | 1765 | 1520/1530 | 2520 | 4800 |
VW T-クロス TSIスタイル(FF) | 1760 | 1525/1510 | 2550 | 5100 |
トヨタ ヤリスクロス G(4WD) | 1765 | 1525/1520 | 2560 | 5300 |
ホンダ ヴェゼル e:HEV X(4WD) | 1790 | 1545/1550 | 2610 | 5300 |
マツダ CX-3 15Sツーリング(4WD) | 1765 | 1525/1520 | 2570 | 5300 |
プジョー 3008 GTハイブリッド(FF) | 1840 | 1580/1590 | 2675 | 5600 |
日産 キックス X Four(4WD) | 1760 | 1520/1535 | 2620 | 5100 |
シトロエン C3エアクロス マックス(FF) | 1765 | 1515/1490 | 2605 | 5500 |
上記のデータをもとにW/Tを計算すると下記の通りとなります。なお、計算値はモーターファン編集部によるものです。
各車種のW/T
ホイールベース/トレッド比(W/T) | |
スズキ フロンクス(*) | 1.651 |
VW T-クロス | 1.680 |
トヨタ ヤリスクロス | 1.681 |
ホンダ ヴェゼル | 1.685 |
マツダ CX-3 | 1.687 |
プジョー 3008 | 1.687 |
日産 キックス | 1.714 |
シトロエン C3エアクロス | 1.733 |
W/T比較結果
フロンクス(1.651)<T-クロス(1.680)<ヤリスクロス(1.681)<ヴェゼル(1.685)<CX-3=プジョー3008(1.687)<キックス(1.714)<C3エアクロス(1.733)
*モーターファン編集部の計算値による序列
W/Tから見る各車両のキャラクター
1. スズキ フロンクス(W/T=1.651)
・低いW/T比で機動性が高く、少しやんちゃな性格か?
・俊敏なハンドリングが期待でき、面白い走りが期待できそう。
2.VW T-クロス(W/T=1.680)
– 中程度のW/T比で、安定性と機動性のバランスを取ろうとしている。
– 都市部での取り回しと高速道路での安定性の両立を図ろうとしたか?
3. トヨタ ヤリスクロス(W/T=1.681)
– 中程度のW/T比で“黄金比”中の“黄金比”に近く、安定性と機動性のバランスが良い。
– 都市部でも高速道路でもバランスの取れた性能を発揮。
4.ホンダ ヴェゼル(W/T=1.685)
– 中程度のW/T比で直進安定性の向上が図られており、快適性が意識されている。
– 高速道路での安定した走行が期待できるが、機動性がやや抑えられる可能性も。
5. マツダ CX-3とプジョー 3008(W/T=1.687)
– 比較的高めのW/T比率で直進安定性が意識されており、快適性の向上に効く。
– 設計によりコーナリング時の俊敏性も維持されており、結果としてのバランスは悪くない。
6. 日産 キックス(W/T=1.714)
– 高いW/T比率で非常に安定した直進性と快適性を実現しようとしている。
– 機動性がやや低下する可能性があるが、どちらかと言うと快適な乗り心地を重視したか?
7. シトロエン C3エアクロス(W/T=1.733)
– 非常に高いW/T比率で、今回の比較車両の中で直進安定性が最も高い。
– 高速道路での快適な走行が期待できるが、機動性が犠牲になる可能性も。
こうして見ると、フロンクスのワイド&ショートなプロポーションはハンドリングマシンとしてのキャラクターが際立つものと考えられます。また、一般論ですが、ホイールベースが短いと、路面のこぶや岩などを乗り越える際に車体下部との接触のしづらさを示すブレイクオーバーアングルが大きく取れるというメリットがあります。極悪路を走るならともかく、フロンクスはそういう性格のクルマではないのであまり関係は無いと思われますが、スズキがグローバル展開する小型車に見られるワイド&ショートのプロポーションの根底には、インドや東欧の郊外などの「いささか悪い路面の田舎道での使いやすさ」が意識されているのかもしれません。
駐車の際や狭い路地での取り回しは?
次にもう一つ、駐車適性指数(Parking Suitability Index / PSI)を見てみましょう。これは全幅/最小回転半径の比率で、その名の通り駐車の際や狭い路地での取り回しやすさを大雑把に示す指標です。あまり一般的に用いられる指標ではありませんが、小回り性の指標として用いている自動車メーカーもあります。おおむね0.33~0.35あたりが“黄金比”となるようです。
先述のデータをもとにPSIを計算すると下記の通りとなります。なお、計算値はモーターファン編集部によるものです。
各車種の駐車適性指数(PSI)
PSI | |
スズキ フロンクス(*) | 0.3677 |
VW T-クロス | 0.3450 |
日産 キックス | 0.3450 |
ホンダ ヴェゼル | 0.3377 |
トヨタ ヤリスクロス | 0.3330 |
マツダ CX-3 | 0.3330 |
プジョー 3008 | 0.3285 |
シトロエン C3エアクロス | 0.3209 |
PSI比較結果
フロンクス(0.3677)<T-クロス=キックス(0.3450)<ヴェゼル(0.3377)<ヤリスクロス=CX-3(0.3330)<3008(0.3285)<C3エアクロス(0.3209)
*モーターファン編集部の計算値による序列
PSIから見る各車両のキャラクター
1.スズキ フロンクス(PSI=0.3677)
– 高いPSIを持ち非常に良好な駐車適性を示す。最小回転半径が小さく、狭い駐車スペースや狭い路地での取り回しがしやすい。
2. VW T-クロスおよび日産キックス(PSI=0.3450)
– 中程度のPSIながら、取り回しの良さを評価されて良い車両。
3.ホンダ ヴェゼル(PSI=0.3377)
– 中程度のPSIで駐車適性は良好。狭い駐車スペースでの取り回しも悪くはない。
4. トヨタ ヤリスクロスおよびマツダ CX-3(PSI=0.3330)
– 中程度のPSIで駐車適性は良好。駐車や狭い路地での運転は比較的容易。
5.プジョー 3008(PSI=0.3285)
– 中程度のPSIで駐車適性は良好。取り回しの良さと駐車のしやすさのバランスが取れている。
6.シトロエン C3エアクロス(PSI=0.3209)
– 比較的低いPSIで駐車適性は平均的。全幅が広く、狭いスペースでの駐車にやや不利かもしれない。
こうして見ると、個々の数値データはまったく異なるものの、比率として捉えた場合には、フロンクスはかなりT-クロスとキャラクターが近接しているように思えます。やはりグローバルモデルとしてのスタンスゆえの事でしょうか。いずれにせよ今秋のお目見えに期待せずにはいられません。