【BYDシール◯△✕判定】◯はEVセダンらしい走りの良さ。✕が無いって本当!?

BYDは、DOLPHIN(ドルフィン)、ATTO3、という2台のSUVを日本に上陸させていたが、第3弾に選んだのは、セダンのSEAL(シール)だ。同ブランドを牽引するリーダー役を担うSEALは、販売前から販売店への問い合わせが多いという期待のモデルである。EVメーカーとして世界一をうかがうBYDの本気度が伝わってきた。

【新型BYDシール◯は?】走りの自然さとトータル性能の高さに注目!

2024年6月25日に発売されたBYD SEALは、発売約1か月で累計受注台数が300台を超え、縮小しているセダン市場で気を吐いている。日本における2023年の販売台数は1446台と発表されていることを考えると、順調な滑り出しといえる。なお、SEALのCEV補助金は、リヤ駆動の「SEAL」が45万円、4WDの「SEAL AWD」が35万円となっている。

「e-Sport Sedan」を標榜するSEALだが、街中や高速道路での乗り味はキャッチコピーから想像するよりも快適で、動力性能も驚くほどではない。2WD(RWD)の「SEAL」はもちろん、システムトータルで530PSを誇る「SEAL AWD」のマナーも普通に走らせる分には常識的な範囲に収まっていて、スポーティさを感じさせるのは、それなりにアクセルを踏み込んだ際のみ。もちろん、バッテリーEV(BEV)らしく瞬時に加速感が立ち上がり、高速道路の法定速度まで一気呵成に速度を上げることも可能だが、他メーカーのスポーツ系EVのような、ドライバーでさえ酔いを誘うような加速力は上手く抑制されている。

高速道路では、150km/hまで設定可能なアダプティブクルーズコントロール(ACC)の加減速に違和感がない一方で、レーンキープアシストの介入は唐突感がある場合もあり、普通に走らせているのに急に介入されて驚くこともあった。なお、ワインディングでのハンドリング、高速域での直進安定性も並のレベルを超えているものの、とくにRWDモデルでは軽快感が勝ちすぎで、直進安定性はもう少しという印象。ハイパワーはもちろん、ハンドリングや直安などの走りのバランスで選ぶなら、AWDモデルを指名したい。

逆に乗り心地は、RWDモデルは比較的ソフトである反面、AWDモデルはハイパワー化に対応するためか、やや引き締まっている。とくに路面状態の変化に対して、過敏に反応し、低速域では揺すぶられるような感覚も伝わってくる。しかし、動力性能や乗り味は、初めてのEVとしても違和感を抱かせることは少ないはずで、十分に○といえる。静粛性も高速道路の120km/h区間でもロードノイズ以外はよく抑えられていた。

操作性では、回生ブレーキ用のパドルシフトがなく、回生ブレーキは「強」と「スタンダード」を用意。回生ブレーキの強度を「強」にすると、回生エネルギーを増やすことができる。「強」でも乗員の酔いを誘うような減速感は抑えられている印象で、回生フィールのマナーも上々だ。また、「コンフォートブレーキ」機能をオン、オフにしてもその違いはほとんど分からなかった。いずれにしても回生と油圧を含めたブレーキフィールは良好なので良いのだが。

そのほか、メーター表示では、「エコ」、「ノーマル」、「スポーツ」の表示が少し分かりにくく、一瞬でどのモードになっているのか視認しにくく感じられた。なお、前方と後方の視認性は、前方はまずまずで、後方は真後ろがそれなりという印象。ただし、俯瞰映像などを含めたアラウンドビューモニターが高精細で、自車周辺のサポート性は上々といえる。

こちらのメーター表示は「スポーツ」モード。
高精細なアラウンドビューモニター。

【新型BYDシール△は?】広い後席に潜む課題

ミドルサイズのDセグメント級に相応しい後席足元空間の広さも美点だ。身長171cmの筆者が運転姿勢を決めた後には、膝前にこぶしが縦に3つ以上の空間が残る。なお、ヘッドクリアランスはこぶしが縦に1つ分残り、足元も頭上も広々している。また、フロアトンネルがないため、後席の3人掛けも無理なくこなしてくれそうだ。シートサイズも大きく、長身の方でも窮屈さを抱かせないはずだ。

一方で、ひとつ惜しいのは、前席下への足入れ性で、前席のシートハイトを上げてもほとんど足先も入らない点。後席は、床面から座面前端部の高さ(ヒール段差)も低めで、広さは十分に確保されているものの、快適性や姿勢の自由度という点では「△」という評価にならざるを得ない。前席は、シートサイズとホールド性のバランスもよく、操作性も含めて違和感を抱かせるシーンはなかった。

トランク容量は400Lで、ボンネットフード内にも50L分の収納を用意する。後席の6対4分割式シートの操作性は、前倒し時の段差も含めてDセグメントのセダンでは平均的で、BEVとしては容量も健闘しているといえる。

【新型BYDシール✕は?】意外にも欠点のない優等生キャラ

短時間の試乗であったため、音声操作に対する精度などは試すことはできなかったが、大半のユーザーにとって初めてのBYD車になるはずで、よくできた普通の内燃機関車のように乗れるのはSEALの美点だろう。逆に言えば、走りに関しては、もっと突出した美点があった方が、より印象に残るのかもしれない。しかし、作り手の良心が伝わってくる良作なのは間違いない。その証ではないが、限られた試乗時間では明確に「×」といえる瑕疵は見つけられなかった。

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著者プロフィール

塚田 勝弘 近影

塚田 勝弘

中古車の広告代理店に数ヵ月勤務した後、自動車雑誌2誌の編集者、モノ系雑誌の編集者を経て、新車やカー…