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地道な作業でわかった、サイドアンダーミラーに映るエリア
私は「バカなことだ」「答えはわかりきっている」ということでも、「やってみなければわからない」という考えの持ち主で、何事も実際に試してみることにしている。
この「ラウンジ」の第1回で、「手入れをするとワイパーはどれだけ持つか」の解説をしたが、これなど実際に試さなければわからないことで、これも実験の一環であり、いま現在も継続中だ。
それはさておき、私の旧ジムニーシエラの左フェンダー上には、サイドアンダーミラーがついている。運転席から死角に入る左側方を映し出す、育ちすぎたしいたけみたいな形をしているヤツだが、あまり役に立っていない。
そもそもサイドアンダーミラーの映している範囲は、車両を外から見たときのどのエリアなのか? を、誰にも頼まれていないのに試したのでレポートしよう。
サイドカメラ装備車には存在しないサイドアンダーミラー
この4月に発売されたランドクルーザー250から、従来のランドクルーザープラドで全車に与えられていたアンダーミラー(カタログ名「補助確認装置(2面鏡式)」がなくなった。
プラドではディスプレイオーディオ+T-Connectナビを選んだ場合、おまけでマルチテレインモニターもくっついてきたのでアンダーミラーは非装着だったが、そうでなければ全機種標準でついていた。逆に新型250はパノラミックビューモニターが全車標準になったため、アンダーミラー付車は存在しない。
このように、360度タイプであれ、サイド限定であれ、生産ラインでの組立時に何らかのカメラ(とナビ)がつくクルマは、物理的なサイドアンダーミラーは装着されない。見えないサイド部分を見せる機能が重複するからだ。
逆にナビなしカメラなし、サイドアンダーミラー付きのクルマを買った後、カー用品店で汎用ナビ&サイドカメラをつけた場合は、サイドアンダーミラーとサイドカメラ、両方でサイド死角部を得ることができることになる。
結論からいうと、左サイドの死角を見せる機能はサイドカメラの勝ち。筆者がジムニーの前に使っていた日産ティーダには「サイドブラインドモニター」がついており、左ドアミラーに備えられたカメラが左前輪付近の様子をナビモニターに生中継したが、鏡の場合と違って正像であること、目の前のモニターに適正サイズで映し出していることから、大いに役立ったものだ。
厳密にいうと、サイドカメラとフェンダー上のしいたけミラーの映す範囲は必ずしも一致しないのだが、死角の低減のためにはあるほうがいい。ただし、壊れた、故障したなどの際には、値段が高い点でカメラの負けとなる。
では実践・・・
冒頭で記した目的に戻る。
サイドアンダーミラーに映っているのは、車両を外から見たときのどのエリアなのか? 相当に難儀するはずだと覚悟しながら、調べる方法を考えた。
【方法1】
1.自前の折りたたみ携帯電話の背面フラッシュランプを点滅させ、運転席ヘッドレストにゴムバンドで固定する。
2.車両左にしゃがみ、会社支給のiPhoneのサブカメラ(液晶側カメラ)を地面からアンダーミラーに向け、アンダーミラーを介してヘッドレストのフラッシュ点滅がわかる範囲をiPhone液晶内で確認する。
3.iPhoneを地面に這わせ、液晶を見ながら、アンダーミラーの枠周囲でフラッシュが消えかかる場所にさしかかったら、そのポイントの地面にチョークで印を付ける。
4.これを繰り返す。
つまり、(2024年)4月に公開した「やってみよう! 難しそうでじつは簡単にできる!? 前のクルマのドアミラー角度が合っているかを知る方法」の記事中で述べた、「こっちからそっちが見えるなら、そっちからもこちらが見える」の道理をそのまま転用したのである。
ただしこのときは、ヘッドレストにかぶせた不織布をドライバーの目に見立てたが、サイドアンダーミラーは像が小さくなって暗くなることから、わかりやすさを求めて、フラッシュランプに変更した。
・・・・・・。
失敗であった。
iPhoneに映るアンダーミラーが相当小さくなること。ゆえにミラーからさらに遠い、ヘッドレストのフラッシュランプはなお小さくなってしまう。小さくなるのがわかっていたので、ランプ光が明確にわかるように点滅させたのだが、どのみちまったく無意味だった。
そしてこのサブカメラがズームができないのには参った。iPhoneに詳しくないので知らなかったのだが、これじゃあ見づらくてしょうがない。
というわけで、次の「方法2」に変更だ。
【方法2】
1.自前の折りたたみ携帯電話の背面フラッシュランプを点滅させ、運転席ヘッドレストにゴムバンドで固定する。 → 「方法1」と同じ。
2.車両左にしゃがみ、コンパクトデジタルカメラを地面からアンダーミラーに向け、液晶モニターいっぱいに映しながら、アンダーミラーを介してヘッドレストのフラッシュランプがわかる範囲をデジタルカメラモニター内で確認する。アンダーミラーは液晶いっぱいにズーム。
3.カメラを地面に這わせ、液晶を見ながらアンダーミラー枠周囲のフラッシュが消えかかる場所にチョークで印を付ける。
4.これを繰り返す。
「方法1」と異なるのは、iPhoneをデジタルカメラに変え、ズーム拡大してサイドアンダーミラー&ミラー内のフラッシュランプ=ヘッドレストを見られるようにしたことだけだ・・・これで何とかいけるだろ。
サイドアンダーミラー内のランプ点滅をミラー枠に持っていくようにカメラを地面に這わせ、その位置での地面とカメラの接触部(※)にチョークで印をつける。
これを繰り返し、繰り返し、なお繰り返す・・・その途中経過がこちらだ。
だんだんらしくなってきた。この地面の線が、運転席から見たアンダーミラー周囲枠と一致するはずだ。念のため、クルマに乗り込んで確認してみる。
原因を探ってみよう。察しのいい方は、さきの(※)をお読みになってすぐにお気づきになっただろう。
カメラのレンズ、カメラ内部の撮像素子、地面・・・それぞれの位置が異なることがズレの原因だ。最初にiPhoneを使ったのは、サブカメラが本体の上端にあるiPhoneを逆さにすれば地面に近づけることができるからだったのだが、想像以上に映る像が小さかったため、ズレの懸念を認識しながらもデジタルカメラに変えたのだった。
「まあ、何とか形になるだろう」と甘く考えたのが運の尽き。指先ほど小さくてズーム&ワイド自在のCCDカメラと、それを映し出すモニターがあればいいのだろうが、この実験だけのために用意するわけにはいかない。
しかたない、別の方策を考える。やりたくはなかったが、禁じ手を使うか!
【方法3】
1.父親を使う。
誰がいい出したものか、「立っているものは親でも使え」という言葉がある。「急ぐ用事のあるときは、誰でもよいからそばに立っているものを使ってもいいのだ」という意味だ。この実験、別に急ぐ用事でもないのだが、父ちゃんの手を借りることにした。
そばにいなかったので家に上がりこんだら、父はソファに座って新聞を読んでいたが、趣旨を話して立ち上がってもらった・・・いや、いただいた。
カメラ作戦も難儀だったが、父ちゃん作戦も困難を極めた。しかし、いちばん確実な方法でもあった。
父には猛暑の中クルマの横に立ってもらい、筆者はクーラーガンガンの運転席に座り、まずは適当に動いてもらってアンダーミラーに父の足先が映るポイントを探す。ミラーに映る車体部分探しも同じで、フェンダー上を指で撫でてもらい、それぞれ映る場所映らない場所の境界線を探った。
参ったのはここから。「右!」「左!」「ちょい前!」「下がって!」などと頼むのだが、ミラー像は左右が逆になるほか、より広い範囲を映すためにミラー面の曲率が高くなっているため、「こうだ」と思って指示したところで、地面上、フェンダー上での直線の動きはミラー内では曲線となってしまい、映る映らないの境界ポイントが思うように見つけられないのだ。
それでも手さぐり足さぐりの試行錯誤を繰り返し、地面なら足先が消えかかったところで私が外に出て、その位置にチョークで印をつける。フェンダーなら指の消えかかった場所にひもをテープで固定する・・・その連続でエリア出しを進めたが、地面のマーキングの際、さきほどのズレた線の失敗作がいくらかの指標にはなったのは望外の喜びであった。
と、炎天下の悪戦苦闘では終わらず、作業は翌朝にまで持ち越したのだが、なんだかんだで最終的にはこの写真のようになった。
●考察
ミラーの四隅と地面上の白線に囲まれたエリアの相関関係を、写真を加工して表してみた。室内から撮ったミラー写真、チョーク線の範囲外の芝生が映ってしまっているが、実際、筆者の運転席からの目にはミラー内に映ってはおらず、ミラー枠上辺とチョーク線は一致しているので、ご了承いただきたい(レンズを目の高さに合わせるのを忘れた。)。
【考察】
1.ふだん、左車線にクルマが存在している状態では気づかないが、平面で見たとき、クルマの側面(この場合はタイヤ)から2mを超える範囲まで映していることがわかった。
2.小さいミラーだから意識していなかったが、車両最後端よりもさらに後ろの範囲までも映していることもわかった。
3.ミラーが角の丸い四角形でも、エリアの形はいびつなホームベース型となる。
4.鏡面の、球面に近いほどの歪みの影響と、主に地面を上方から下方に向けて映すことから、ドアミラーと異なり、映る像は、左右ばかりか上下(=奥行き)も逆になる。
5.したがって、ミラーの四隅位置と実際の地面の四隅位置は、頭の中で変換する必要がある。
すべて筆者の測定値。おおよそのものとお考えいただきたい。クルマの横は2m、さらに車両の斜め後ろまで映していたのは意外だった。
さて、これらをどう考えるか。
冒頭で述べた、「カメラの勝ち」を実証する形となった。
サイドアンダーミラーのチラ見で鏡像を見ても、車両の外側での光景が実際にどのようになっているのかが即座に把握しにくい理由がよくわかった。すべてはミラー面の高い曲率が災いしているのだ。
そして左右のみならず、上下が逆像になるのは「何となく想像していたようなしていなかったような」だったのだが、実際に確認してみたら「なるほど、こういうことか」と理解することができた。
いままでいかにいい加減に、中途半端にしか解釈していなかったかということ、そして極度な曲面の鏡になるだけで、洗面所にある平面鏡を見るのとはまったくの別ものになることを実感させられたしだいだ。
私は、故障したら厄介、そしてその修繕費用が高いという点がカメラ式のウィークポイントだと思っているのだが、きちんと周辺把握をしたいなら、これらの欠点に譲歩してでもカメラ式を選ぶのが賢明のように思う。
私は日ごろ、旧ジムニーシエラのアンダーミラーを、左側だけとはいえ、ボディ外側の位置と、車両のおおよその先端位置を把握することにしか使っていないのだが(本当はオーバーフェンダーのほうがアンダーミラーよりも外側にあるにしても)、どうやら明日以降も本来の使い方をすることはなさそうである。
それにしても、従来のランクルのフェンダーや、新型ジムニーのドアミラーにある2分割式のアンダーミラーなど、本当の意味で役立てているひとはいるのだろうか?
なぜアンダーミラーが要るのか?
そもそもなぜアンダーミラーが登場したのか? これは車高、というよりも着座高の高いクルマはウエストラインもそれなりに高く、普通の乗用車よりも車両サイドがなお見にくいということから取り付けられた。
目安は高さ1m、直径30cmのポール(6歳児に相当)を車両横に立てたとき、運転席から直接でもミラーを介してでもその存在がわかるようにというものだ(直前側方運転視界基準)。
では、高さ1mのものが車両サイドにあるとき、運転席からどのように見えるのかを試してみた。高さがほぼ1mの三脚があるので、これを6歳児に見立てて鏡像エリア内に置き、直接視界とアンダーミラーを通しての間接視界から6歳児がどう目に入るかを写真でお見せしよう。
まず助手席サイド。サイドアンダーミラーには鏡面いっぱいに映り、助手席ドア越しに目視しても頭が確認できる。
次に車両左から2m近く離れた位置となると、ミラー左上にかろうじて映り込むが、目視ではセンターピラーに隠れ、完全に見えない。
その位置からちょい後ろにずらしてみる。ミラーでの見え方に大差ないが、リヤガラスに頭がわずかに見えてきた。
次にミラーエリアの最後端でクルマに寄せる。地面上での移動量はわずかであるのにもかかわらず、ミラー内では枠の角から内側に向けて半分以上移動している点が惑わされるところだ。リヤガラスからの見え方はさきと似たりよったり。
上下が逆になることの真相は?
さて、考察の4で上下が逆になると書いたが、正確には「逆になったという錯覚に陥る」というべきだ。サイドアンダーミラーは上から下に向けているため、鏡面の上下は、鏡の中の奥行きを映している。これが運転者の感覚をよそに、実際の光景に対して上下が逆になったと錯覚する理由だ。だんだんわからなくなってくる。
百聞は一見にしかず。子供が地面に寝そべっている想定で、地面に人型の線をひいてみた。
なんだか殺人事件の現場検証みたいになってしまっているが、地面の線は寝そべっている子どもだ。この状態で乗り込み、運転席からアンダーミラーを見ると…。
さきに書いたとおり、これは上から下に向けて奥行きのある地面を映しているがゆえに起きる事象だ。よく考えればあたり前のことが起きているだけなのだが、ドアミラーやルームミラーでは得ることのない感覚なので、頭がこんがらかることのないように。
おおよそ結果はわかっていても、やはり何事もやってみなければわからないものです。やればやったなりの収穫はあるのですから。やはりやってみるものだ。