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自衛隊新戦力図鑑

生産数の少なさがメーカーを圧迫

今年3月、海上自衛隊第1術科学校(広島県江田島市)が主催したイベントにて救難飛行艇US-2の着水と離水が披露された。同機はずんぐりとした巨体に似合わず、わずか300mという驚異的な短距離離着水能力を持ち、来場者たちを驚かせた。自衛隊の救難機としてはUH-60Jヘリ(航空自衛隊)が知られているが、US-2は固定翼機ゆえにヘリより速度、航続距離ともに各段に優れており、日本本土から遠く離れた太平洋上での救難に活躍している。

3月の江田島のイベントにて離水するUS-2。わずか300m程度の距離があれば離着水できる。驚異的な短距離離着水能力であり、この日も多くの来場者を驚かせていた(写真/鈴崎利治)

海上自衛隊ではUS-2を7機保有しているが、2005年度以来、数年おきに1機という不規則な調達ペースは、生産設備を維持するメーカー側を悩ませてきた。しかも、将来的な調達数も決まっていないため、計画的な部品調達も不可能だ。生産数向上のため、輸出を目指して積極的な売り込みも行なわれたが、飛行艇という機種そのものに需要が乏しいため成功はしていない。ついに昨年にはメーカー側の「製造能力を維持するのは困難」との見解が報道されてしまう。

さいわい、8月30日に公表された来年度防衛予算の概算要求では新規調達1機が盛り込まれており、生産終了の危機もとりあえずは回避されたようだ。

令和7年度防衛予算の概算要求によれば1機あたり219億円。高性能な機体ではあるが、かなり高価であり、海外への売り込みが振るわない理由のひとつと言われる。なお、以前の調達価格は150億円前後であり、円安や部品調達の問題が価格を上昇させたと思われる(U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Yosselin Perla)

アメリカ空軍が飛行艇に注目!?

さて、ここ数年、アメリカ空軍の特殊任務部隊である空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)は「奇妙な」航空機の開発を進めていた。「MC-130J コマンドー2 水陸両用能力(通称MAC)」と名付けられた航空機で、戦術輸送機C-130の特殊作戦型であるMC-130J コマンドー2に、着脱式の巨大なフロート(浮き舟)を追加し、飛行艇と同じ能力を持たせようというものだ。

AFSOCが計画していたMC-130J飛行艇型、通称「MAC」。MC-130Jにフロートを追加して水陸両用能力を持たせたもの(3D CG/Air Force Special Operations Command)

なぜ、このような航空機が求められたのか? 中国のような近代的軍事力を持つ国との大規模な紛争を想定したとき、長射程ミサイルなどの攻撃に晒される固定の基地や飛行場は安全とは言えない。そこで、アメリカ軍は部隊を広く分散させる戦い方を考えている。太平洋地域でいえば、広大な海洋が舞台であり、遠く離れた島々に戦力を展開させ、展開した先に物資を輸送し、また迅速に別の場所へと移動させる手段が必要となる。こうした島々は必ずしも充分な飛行場を備えているとも限らず、前述したように破壊されている可能性もある。つまり、滑走路に頼らず運用できる輸送機が必要なのだ。

滑走路に依存しない「MAC」の能力は、太平洋における作戦の柔軟性を増大させると期待されたが、2024年に計画は凍結されてしまった(3D CG/Air Force Special Operations Command)

残念ながら、MACは予算の制限から計画が凍結されてしまったが、飛行艇の需要そのものが消えたわけではなく、アメリカ軍は代替案を検討しているとも聞く。あくまで可能性の話だが、US-2も選択肢のひとつになり得るのではないだろうか。先に「飛行艇の需要が乏しい」と述べたが、中国の脅威が増大したことで、アメリカ軍の戦い方が変化し、新たな需要が生まれた、と言える。実際、2021年にはAFSOC副司令官が、海上自衛隊のUS-2部隊を訪問し、飛行艇の運用ノウハウについて調査までしている。「アメリカ空軍特殊作戦仕様のUS-2」……もし実現するなら、とても興味深い機体となるだろう。

2021年、海上自衛隊のUS-2部隊である第31航空群 第71航空隊を訪れたAFSOC副司令官のヒル少将。水陸両用機のノウハウについて調査を行なったようだ。US-2がアメリカ空軍に採用される可能性はあるのだろうか?(U.S. Air Force Photo by 1st Lt Rachael Parks)
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