ホンダ・オデッセイ2021年生産終了で振り返る初代オデッセイのデザイン

初代ホンダ・オデッセイが目指したのはパーソナルジェットの心地よさ!

1994年に登場した初代オデッセイ。それ以来、5代にわたり進化を遂げてきたが2021年を以ってそのブランドに幕を閉じるという。ここではエポックメイキングな存在であった初代オデッセイのデザインについて、かつての三栄の雑誌を参考に、改めて見てみたいと思う。

当時は日産プレーリー(1982年)、三菱シャリオ(1983年)マツダMPV(1988年)そしてトヨタ・エスティマ(1990年)が登場し、RVの中でもミニバン市場は十分な認識がされていた。ましてやそれ以前からのRVブームと言われる中では、トヨタ・ハイエース、日産キャラバン、三菱デリカなどを頂点とするワンボックスによる多人数乗車モデルは多く存在していた。

これまでのミニバンとは一線を画するフォーマルさも魅力の初代オデッセイ。

その中で、RV色や荷搬兼用的、またMPVやエスティマとも一線を画する存在感を示していたのが初代オデッセイだった。

それまでのミニバンと大きく異なるのは、リヤドアをフロントと同じスウィングドア式としていることと、そして低いフロア。ここでふるいにかけると、競合として残るのはシャリオのみ。しかし、出発点は大きく異なった。

オデッセイはミニバンというカテゴリーに浸かるものの、目指したものは新たなセダン像だった。

全席均等の快適性を目指す。リヤドアはスライド式ではなく、スウィング式。

ファミリーカーの新たな形であることに間違いはないが、これまでミニバンというと、どうしても運転手=お父さんが脇役になってしまうことは否定できなかった。それのお父さんをいかに主役(全てのパッセンジャーが同等)にするかがポイントの一つでもあった。さらにいうなら、一人で乗っていても「サマ」になる車を目指したのだ。一般のミニバンがジャンボジェットのような大型の旅客機、それはなんだか自分のものではない感じもある。対するオデッセイはいわば「パーソナルジェット」を目指した。キビキビしたスポーティさがあり、何よりも自分のものという感じがいい。

まずパッケージとして必要となったのは、2列目、3列目ともにアコードのリヤシートと同程度の快適性を備える広さを持つこと。また、前席が孤立しないように自由に移動できるウォークスルーを実現するために、フラットなフロアとともに、室内高としては1200mmほどが必要となった。それでいて全高はできるだけ低く。これまでのミニバンはどうしても走りを犠牲にしていて、その点にも物足りなさがある。これらを是正することで初代オデッセイは、大勢で乗れるセダンを模索した。

ベースとなったのはアコード。この時代にはもはや前後ともにダブルウイッシュボーン式サスペンションを採用しており、オデッセイもその恩恵を授かることになった。床面の高さはフラットなフロアを実現するために、アコードより108mm高くなったが、一般的なミニバンよりも100mmは低かった。そこから室内高1200mm程度を確保し、全高は1645mmに抑えた。これまでのミニバンでは難儀だったルーフに「ものを載せる」ということも容易にできる高さとなった。

この底全高によって、オデッセイの走りは高速でもセダン並みに快適なものとなった。実は走りのよさを実現するために、ニュルブルクリンクでの確認も行われていたのだという。

さて、そんな新時代のセダンに与えるべきボディだが、3ナンバーだからといって余裕のあるものではなかった。全幅の1770mmは余裕ある広さに見えるが、しっかりとした大きめのシートとウォークスルーを実現すると、室内幅はギリギリのサイズで、サイドウインドウはかなり外に張り出した。そのため、ボディサイドの造形幅は軽自動車と同等レベルに狭い。さらには通常のセダンよりもドアの高さがあることから、豊かな面の印象を作り上げるのは至難の業だったという。ボディサイド中央の強い凹面を境とすることでその上下ともに豊かさを表現し、さらにドア下のサイドシル部分を絞ることでも、立体的な造形の印象を作り上げたという。また、微妙につまみ上げられたフェンダーフレアとのコンビネーションが、立体的な造形と安定感に大きく寄与しているようだ。

リヤの見え方も吟味。リヤゲートのオープニングラインは左右にあることから、後ろからは見えない。

リヤ周りは、3列目シートが2人用でホイールハウスより内側にあることから、リヤクォーターウインドウ(リヤドアの後ろの窓)を3次元的にかなり絞り込むことができた。このことはリヤピラー上部が内側に大きく傾いていることでもわかるが、これまでのミニバンにはない絞られたスポーティな造形を実現した。開発段階では、さらに絞り込まれた時期もあったが、あまりにリヤビューがコンパクトに見えてしまうことから、少し絞りを抑えたという。

しかし絞り込んでもリヤゲートは大きく開くように、オープニングラインは後ろではなく、左右に回り込んでいる。

そして最大の特徴となるのが、あまり気づかないのだが当初から狙っていたスーパラウンド・フロントエンドの実現だ。これはフロント左右が後方へ回り込む、大きなラウンド形状のフェイスとするもの。現在では多くの例をみるが、当時のスペース優先のミニバンでは思い切った造形だった。つまりは、アコードやシビックでやるべきスタイルを、オデッセイでも積極的に取り入れたのだ。

セダンライクのラウンドした形状のフロントまわりが特徴。

ただし、それほど斬新に見えなかったのは、ボンネットの形状にもあった。この時代、先行したエスティマなどの例を見るまでもなく、モノフォルムとするべくボンネットとフロントピラーが一直線に見える造形が未来的と感じられていた時代だった。その中で、オデッセイは従来的なノッチのあるボンネットを独立させたような造形とした。

実はここには理由があった。当初はモノフォルムもトライしたが、使い勝手や視界をスポイルする部分があるとわかった。そのことから安全を目に見える形とし、ボンネットが意識できるようにノッチをつけたのだという。

上面をフラットにしたウイング形状のインパネ。メーターバイザーが独立していないのでスッキリ。

インテリアに関しても、極めて個性的だ。実はパーソナルジェットというキーワードが生まれたのは、インテリアの方からだった。機能的でクオリティの高さを感じさせるものとするべく、前方に突出するフロントウインドウによって出窓感覚を表現。左右にフラットに広がるダッシュボードを持つ、ウイング形状インパネを具現化した。ポイントとなるのは、メーターバイザーをできるだけなくすことで、メーター類を奥に配置することで、左右均等のバイザー形状を実現した。また、シフトはATのみで、しかもコラム式として、ウォークスルーを容易にすることに貢献。

上から1列目、2列目、3列目シート。3列目は2つ折りにしてから、
後方に倒し床面下に完全に格納できる。

さらに3列目シートは床下に格納し、荷室を完全にフラットに拡大可能。左右に跳ね上げるのが一般的だったミニバンに衝撃を与えた。

この初代から5世代までを経て2021年12月生産を最後に幕を引くことになったのだが、個性的であり続けたミニバンでもあったが、オデッセイの役割はこれで終了した。この初代オデッセイに多くの思い出を持たれている方も少なくないと思うが、その思い出をずっと持ち続けていただくためにも、オデッセイの話をちょっとだけまとめてみた。 

(参考:三栄書房刊 モーターファン/モーターファン別冊 オデッセイのすべて/カースタイリング)

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著者プロフィール

松永 大演 近影

松永 大演

他出版社の不採用票を手に、泣きながら三栄書房に駆け込む。重鎮だらけの「モーターファン」編集部で、ロ…