スズキ・ワゴンRスマイル 見た目の質感のみならず居住性と実用性も出色の出来。【最新の軽&コンパクトはファーストカーとして使えるか?】

ターボさえあれば…!ワゴンRスマイル400km試乗インプレ

コロナ禍以後、プライベートな空間を保ちながら自由に移動できるマイカーの良さが見直されつつある。そこで初心者にオススメなのが、安価かつ狭い道でも扱いやすい軽自動車やコンパクトカーだが、肝心の帰省や旅行でも家族みんなが快適に過ごせるのだろうか?

「最新の軽&コンパクトはファーストカーとして使えるか?」と題したこの企画、6台目はリヤ両側スライドドアを持つスズキの背高軽ワゴン「ワゴンRスマイル」。最上級グレード「ハイブリッドX」のFF車で、横浜市内~印旛沼(千葉県)周辺を往復する、高速道路約250km、一般道約150kmのルートを走行した。

REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、スズキ、ダイハツ工業
ダイハツ・ムーヴキャンバス。全高は1655mm
ダイハツ・ムーヴキャンバス。全高は1655mm

軽自動車やコンパクトカーに数多くの新ジャンルを生み出してきたスズキだが、ことこのワゴンRスマイル、リヤ両側スライドドアを持つ背高軽ワゴンに関しては、完全にフォロアーの立場となっている。言うまでもなくこのジャンルの先駆者は、2016年9月に発売されたダイハツ・ムーヴキャンバスである。


またその成り立ちも、ワゴンRスマイルはムーヴキャンバスのそれに酷似している。いずれも「ムーヴ」「ワゴンR」という背高ワゴンの車名を冠していながら、ボディ構造やパッケージングはむしろ、リヤ両側スライドドアを持つ“超”背高軽ワゴン「タント」(先代・三代目)あるいは「スペーシア」に近い。

ダイハツ・ムーヴ。全高は1630mm
ダイハツ・ムーヴ。全高は1630mm
スズキ・ワゴンR。全高は1650mm
スズキ・ワゴンR。全高は1650mm

もっと大雑把に言ってしまえば、ムーヴキャンバスはタント、ワゴンRスマイルはスペーシアのチョップドルーフ版だ。ただし全高は、ムーヴキャンバスの1655mmに対しワゴンRスマイルは1695mmと、やや高く取られている。

ダイハツ・タント(三代目)。全高は1750mm
ダイハツ・タント(三代目)。全高は1750mm
スズキ・スペーシア。全高は1785mm
スズキ・スペーシア。全高は1785mm
【スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX】全長:3395mm、ホイールベース:2460mm、最低地上高:150mm、最小回転半径:4.4m
【スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX】全長:3395mm、ホイールベース:2460mm、最低地上高:150mm、最小回転半径:4.4m
全幅:1475mm、フロントトレッド:1295mm
全幅:1475mm、フロントトレッド:1295mm
全高:1695mm、リヤトレッド:1300mm
全高:1695mm、リヤトレッド:1300mm

こうしたワゴンRスマイルの出自は、スズキ一流のポップかつ上質でレトロモダンな外観を眺めるよりも、車内に乗り込んだ方が体感しやすい。各窓ガラスが天地方向に浅いうえ、その下端が前後シートのヒップポイントに対して高いため、良く言えば包まれ感、悪く言えば閉塞感がやや強いのだ。そのためボディ下方の死角が少なくなく、ミラーはもちろんカメラやソナーでも補う必要がある。もし次期モデルが開発されるならば、他車種との共用箇所を減らしてでも改善してほしい。

運転席まわりの質感は高いものの閉塞感はやや強め
運転席まわりの質感は高いものの閉塞感はやや強め

一方でその室内をつぶさに観察してみると、各部の質感が他の軽自動車やスズキ車と比較しても高いことが見えてくる。今回のテスト車両に装着されていたネイビーブルーやカッパーゴールドの加飾はもちろん、キルティング模様のルーフライニングや、ステッチ風の模様が施されたインパネ天面やドアトリムも技ありだ。

またアイボリーのステアリングやシフトレバーまわり、「ハイブリッドX専用」のライトグレーファブリックシート表皮も、室内を明るく彩るのに一役買っている。それ以外のブラックの樹脂パネルも、表面の処理が巧みになり、見た瞬間に安っぽいと感じることはなくなった。

フロントシートはサイズこそ小さいがフィット感は上々
フロントシートはサイズこそ小さいがフィット感は上々
後席も小ぶりだが最前端でも居住性は申し分なし
後席も小ぶりだが最前端でも居住性は申し分なし

そしてシートは、見た目だけではなく肝心の掛け心地も上々だ。前後席ともサイズは決して大きくないものの、クッションは表面が柔らかく奥は固めで、フロアとヒップポイント、座面前端の段差が適切に取られているため、身体全体の収まりが良く、かつ不自然な姿勢を強いられることがない。

とりわけ後席は、10mm×16段の前後スライド機構を用いて最前端にセットしても、身長176cm・座高90cmの筆者でも膝まわりには約20cmの余裕があるうえ、膝の裏は座面から浮かず、太股全体を座面にフィットさせたまま両脚をしっかりと伸ばせるのだ。後席がこれ以上に広い軽自動車は他にもあるが、これ以上快適な姿勢で座れる軽自動車は決して多くないだろう。

後席左側を最後端、同じく右側を最前端にセットした状態の荷室。奥行きはそれぞれ28.5cm、45cm(筆者実測)
後席左側を最後端、同じく右側を最前端にセットした状態の荷室。奥行きはそれぞれ28.5cm、45cm(筆者実測)
後席を格納した状態の荷室。奥行き×幅×高さ=136×89.5×89.5cm、開口部地上高は68cm(筆者実測)
後席を格納した状態の荷室。奥行き×幅×高さ=136×89.5×89.5cm、開口部地上高は68cm(筆者実測)
荷室床下のラゲッジアンダーボックス。奥行き×幅×深さ=27×50.5×21cm(筆者実測)
荷室床下のラゲッジアンダーボックス。奥行き×幅×深さ=27×50.5×21cm(筆者実測)

それでいながら、荷室の使い勝手が決して犠牲になっていない所も、このワゴンRスマイルの大きな長所。5:5分割可倒式リヤシートを倒せば座面も一緒に沈み込むため、その際の荷室床面は若干の傾斜こそあるもののほぼフラット。倒さずとも10mm×16段の前後スライド機構とラゲッジアンダーボックスを駆使すれば、食料品の買い物程度なら荷物の置き場に困ることはまずないはずだ。


スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX
スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX

では、実際に走ってみるとどうか。頭上に10cm程度の余裕を残す程度まで運転席の座面を上げてみると、前述の閉塞感と死角の問題が若干緩和されるとともに、ボンネットの両端が見え、前端の位置も掴みやすくなる。この状態でポジションを合わせて運転すれば、急坂急カーブが多く道幅も狭いうえ、大型路線バスとすれ違う頻度が高い横浜市内の下町でも、何ら不安を抱くことなく通行できる。

フロントサスペンションはストラット式
フロントサスペンションはストラット式
リヤサスペンションはFF車がトーションビーム式。4WD車は「I.T.L.」(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)と呼ばれるフルトレーリングアーム式
リヤサスペンションはFF車がトーションビーム式。4WD車は「I.T.L.」(アイソレーテッド・トレーリング・リンク)と呼ばれるフルトレーリングアーム式

一方でこうした道は、背が高くエンジンも非力な軽自動車にこそ厳しい環境だが、1人乗車であれば決して不足はない。ステアリングギヤ比が高いため交差点を左折する際などの舵角は大きめだが、操舵レスポンスはクイックすぎずダルすぎない丁度良い塩梅。ロールのスピード・量とも穏やかかつリニアで動きを読みやすかった。

「ハイブリッドX」はR06D型直3NAエンジンとCVT、マイルドハイブリッドとの組み合わせ。廉価グレードの「G」にはマイルドハイブリッドが備わらない
「ハイブリッドX」はR06D型直3NAエンジンとCVT、マイルドハイブリッドとの組み合わせ。廉価グレードの「G」にはマイルドハイブリッドが備わらない

加速性能も、R06D型直3NAエンジンとCVT、マイルドハイブリッドの協調制御が巧みなためもあり、60km/h以下であれば物足りなさは感じにくい。またストップ&ゴーの多い市街地では気になりやすい、アイドリングストップからの復帰が極めてスムーズなのも、マイルドハイブリッドならではの美点に挙げられる。


テスト車両は155/65R14 75Sのダンロップ・エナセーブEC300+を装着
テスト車両は155/65R14 75Sのダンロップ・エナセーブEC300+を装着

さて、ワゴンRスマイルのようなクルマであれば、実際に購入するユーザーが求めるのはむしろ快適性の高さと思われるが、その点については悪くないが手放しに褒められるほどでもない、というのが正直な所。

細かな凹凸はキレイにいなすものの、大きな凹凸ではリヤからの突き上げがやや強く、後席の住人は大丈夫だろうかと若干心配になるレベル。荒れた舗装路や石畳路ではロードノイズが大きめで、速度が上がるにつれて風切り音がそこに上乗せされていく傾向が見られた。


ワゴンRスマイルのADAS「スズキセーフティサポート」はステレオカメラ(写真)と前後各4個のソナーなどで構成される
ワゴンRスマイルのADAS「スズキセーフティサポート」はステレオカメラ(写真)と前後各4個のソナーなどで構成される

さらに高速道路では、ボディサイズ・形状から予想される通りと言うべきか、早々にエンジンが空気抵抗に負けるうえ、横風に煽られやすいのも気になる所。となればせめて、アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線中央を維持するレーントレースアシストで補ってほしいものだが、ワゴンRスマイルには車線からのはみ出しを防ぐレーンキープアシストさえ設定されていない。

加えて、全車速追従機能付きACCが中間グレード「ハイブリッドS」以上で装着可能なのは良いものの、その制御が従来のスズキ車から何ら進化していない。加速だけではなく減速さえも制御が入るタイミングが遅く、加減速の強さも甚だ不充分で、後続車からの追突を誘発しかねないため、今回も早々に使用するのをやめた。

なお、約400km走行後のトータル燃費は22.4km/L。急坂急カーブの多い一般道を多く含んだコースとしては良好な結果を得ることができた。


スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX

このようにワゴンRスマイルは、ADASにこそ致命的な問題を抱えているものの、それ以外の基本性能はほど良くバランスされており、試乗後の満足感は望外に高かった。「これは欲しい!」とさえ思った、というのが偽らざる本音である。

ただしその場合、前述のADAS以外に、もう一つ改善してほしい点がある。それは、ターボエンジンの設定がないことだ。街乗り限定で2人乗車までならNAでも事足りるが、3~4人でドライブに出掛けるには明らかに役不足。高速道路では1人乗車でもパワー・トルク不足を感じてしまう。そして、「そんな所までムーヴキャンバスと同じにしなくてもいいのに…」とガッカリしたのは、きっと私だけではないだろう。

スズキ・ワゴンRスマイル「こんなクルマがあったらいいなぁ」を具現化した両側スライドドアであまり背高でない軽ワゴン

スズキの新型ワゴンRスマイルは、ハイトワゴンでありなら両側スライドドアを採用した新しい軽ワゴンだ。ワゴンRスマイルはダイハツ・ムーブ・キャンバスを意識して開発されたクルマだが、果たしてその完成度はどうか? TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

■スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX(FF)
全長×全幅×全高:3395×1475×1695mm
ホイールベース:2460mm
車両重量:870kg
エンジン形式:直列3気筒DOHC
総排気量:657cc
エンジン最高出力:36kW(49ps)/6500rpm
エンジン最大トルク:58Nm/5000rpm
モーター最高出力:1.9kW(2.6ps)/1500rpm
モーター最大トルク:40Nm/100rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:ストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ディスク/ドラム
タイヤサイズ:155/65R14 75S
乗車定員:4名
WLTCモード燃費:25.1km/L
市街地モード燃費:22.6km/L
郊外モード燃費:26.2km/L
高速道路モード燃費:25.7km/L
車両価格:159万2800円

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…