Honda 0シリーズの技術は、世界に通用するか? ホンダはどう変わるか?

ホンダは「Honda 0 Tech Meeting 2024」を開催し、2026年からグローバル市場への投入を予定している新たな電気自動車(EV)、「Honda 0(ホンダ・ゼロ)シリーズ」への搭載を予定している次世代技術を公開した。ホンダの次世代技術のすべてをジャーナリスト、世良耕太氏が解説する。その第一回。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO & FIGURE:Honda

Honda 0(ZERO) 第一弾は2026年に登場

Honda 0 SALLONコンセプト。2026年登場の0シリーズの第一弾は、このコンセプトに沿ったスタイルを纏うという。

ホンダが“第二の創業”と銘打ち、電動化への確固たる意志を持って開発したHonda 0シリーズは、2024年1月のCES 2024で、その象徴となるSALOON(サルーン)と「SPACE-HUB(スペースハブ)」の2台のコンセプトカーを披露された。Honda 0のフラッグシップとなるサルーンについては、コンセプトカーにかなり近い形で2026年の上市が予定されている。また、2030年までには小型から中大型モデルまで、グローバルで7モデルが投入される。

Honda 0 Tech Meeting 2024の会場

ホンダは「Thin, Light, and Wise.(薄く、軽く、賢く)」の開発アプローチで移動体をゼロから考え直し、厚くて重いという従来のEVのイメージをくつがえす、まったく新しいEVの開発に取り組むことにした。それがHonda 0シリーズだ。3つの開発アプローチごとに技術を見ていこう。

Thin(薄く)

専用開発した薄型バッテリーパックと超高張力鋼板を用いた薄型フロア、そして、インバーターを極限まで小型化し、横置き搭載を可能としたeAxle(イーアクスル)により、EVでは他に類を見ない低全高、ショートオーバーハングからなる魅力的なスタイリングと広い室内空間を実現。EVであってもホンダが大切にしてきたM・M思想(マン・マキシマム、メカ・ミニマム)を具現化している。

Light(軽く)

独自の衝突ロジックの進化による軽量化に加え、操縦安定性の新しい指標を構築し、コーナリング時のタイヤ荷重コントロールにボディの変形を効果的に活用することによって、軽量化と軽快で気持ちいい走りを両立。軽量化は自社EV比で100kgに達する。

 

薄型軽量化されたバッテリーやパワーユニットなどの重量物を低く、かつ車両中心部に配置することで、低重心、低慣性を実現。ホンダがクルマづくりで大切にしてきた“操る喜び”をさらなる高みへと進化させている。

 

さらに、ハイブリッド車の開発で培ったモーター、インバーター技術をさらに進化させた小型・高効率なeAxleにより、競合比で17%以上ものエネルギー損失低減を実現。新開発のアクティブエアロダイナミクスシステムを採用した高い空力性能により、走行エネルギーの低減を図っている。これらの技術により世界トップクラスの電費性能を達成することで、航続距離はEPAモードで300マイル(約483km)の実現を目指す。

Wise(賢く)

ホンダがこれまで培ってきた知見と知能化技術の進化により、クルマそのものが賢くなり、ユーザーひとりひとりの嗜好やニーズにきめ細かく対応することで、新たな移動体験を提供していく。それが、Wiseという言葉が象徴するホンダが目指すソフトウェアディファインドヴィークル(SDV)の価値だという。

Wiseに基づく技術開発によって実現を目指す重点項目は4つ。1つめはAD/ADAS(自動運転/先進運転支援システム)だ。ホンダは事故ゼロ社会を目指すと同時に運転タスクからの解放により「思わず出かけたくなる」体験の提供を目指し、どこよりも早く自動運転レベル3相当のアイズオフ(一定条件下でシステムが運転操作を代行)をすべての運転シーンに拡大していこうとしている。

2つめは操る喜びだ。ステアバイワイヤの適用による意のままに操れるハンドリング性能の進化と、内燃期間に対して圧倒的に緻密なコントロールが可能なeAxleの制御による滑らかな加速性能、さらには、ホンダ独自のロボティクス技術で培った3Dジャイロ姿勢推定と安定化制御により、車両挙動が乱れる前に安定化させることで、どのような路面環境でも安心して意のままの運転を可能にする。

重点項目の3つめはエネルギーマネジメント、4つめはデジタルUXだ。後者については知能化とデジタル技術を駆使することで、運転タスクに関するストレスは最小限にしながら、運転や車内での楽しさを最大限に引き出す、クルマの移動における新たな体験の提供を目指すとしている。

Honda 0技術搭載のプロトタイプをドライブ

Honda 0シリーズの技術が搭載されたHonda 0 Prototypeは、SUVタイプとセダンタイプがあった。

Honda 0 Tech Meeting 2024では、Honda 0シリーズの技術が搭載されたHonda 0 Prototypeを試乗することができた。SUVタイプはCR-V、セダンタイプはアコードの見た目をしているが、中身はほぼHonda 0でそう。ただし、ステアバイワイヤは搭載していないと教えられた。筆者はセダンタイプに試乗した。

プロトタイプはシングルペダル(ワンペダル)ドライブが適用されていた。アクセルペダルの踏み込み側で加速、戻し側で減速をコントロールできる機能だ。ホンダでは2020年に発表・発売したHonda eにシングルペダルドライブを設定している。Honda 0では「さらに扱いやすい」ワンペダルでの制御を目指しているという。

ワンペダルドライブの難しさは、とくに戻し側でドライバーの期待に添わせることだ。期待以上に減速Gが発生すると前のめりになって不快だし、扱いにくいと感じてしまう。反対に、減速Gが期待以下だと空走感を強く感じて不安になるし、結局のところフットブレーキを踏む機会が多くなって、ワンペダル制御のありがたみを感じにくい。

「意のまま」になるようセッティングしているとのことだが、現状、控え目な制御に感じた。一気にアクセルペダルを戻した際はブレーキランプが点灯する程度(つまり減速Gは0.13以上。Honda eは最大0.18Gだった)には減速Gが発生するが、高車速から低速まで一気に減速するシーンではアクセルペダルの戻しだけでは足りず、フットブレーキのお世話になる。一方、中車速で加減速を繰り返すようなシーンではワンペダルで事足り、ブレーキペダルへの踏み替えが要らず、楽に、楽しく走ることができる。完全停止に至る振る舞いはスムースだった。

緩やかに加速していくシーンでは、静粛性の高さが印象に残った。モーターやインバーター、あるいは減速機などに起因する高周波のノイズが聞こえることはなく、至って静かである。ただし、アクセルペダルを一気に強く踏み込んで加速するシーンでは、車速の上昇にともなって高揚感をあおるようなサウンドが耳に届く。量産バージョンではスピーカーから演出音を付加するアクティブサウンドコントロールを適用する予定だというが、プロトタイプは原音のみ。ジェットエンジンを積んだ飛行機が離陸時に発する音に似ており、気分が上がるたぐいの音だ。

プロトタイプはフロントとリヤにモーターを搭載しているし、可変制御のサスペンションを組み込んでいるので、緻密な姿勢制御を行なうことが技術的には可能だ。急加速では加速していることをドライバーに知覚させる程度にリヤを沈みこませ、急制動時はドライバーを不安にさせない程度にノーズダイブさせ、急制動している状況を体感させる。ほどよい程度だと感じた。

ターンインしていく際の動きは穏やかで、しなやかだ。ステアリング操作に対するクルマの動きはイメージどおり。アクセルペダルやブレーキペダルの操作に対する加減速もイメージどおりで運転が心地良く、だから楽しい。2モーターハイブリッドシステムのe:HEVを積むアコードもステアリング操作やペダル操作に対する車両挙動が絶妙で、一体感が味わえる。その点で共通しており、Honda 0 Prototypeは最近のホンダ車のダイナミクスの延長線上にある印象。量産バージョンの仕上がりが楽しみになる「途中経過」だった。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…