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この写真は、先代F30型BMW3シリーズのルーフである。
ルーフの両サイドに、樹脂製のモールがある。ルーフとボディのサイドパネルの接合部分を隠すように。もちろん隠すために。現行3シリーズも同様の構造だ。
ボディと同色だったり、ブラックだったりするのだが、結構これが目立つ。
と思って、最近のクルマを見てみると、このモールがないクルマもある。VWゴルフ、ルノー・ルーテシア、プジョー208、ホンダN-BOX……。
メルセデス・ベンツのCクラスやEクラス、ボルボ、MAZDA3、ホンダ・ヴェゼル……多く国産車のルーフにはほぼ例外なくモールが付いている。
モヒカンルーフとは、どんなルーフ?
モールがあるルーフをを「モヒカンルーフ」という。
大車林によると
ルーフの両サイドの雨どい構造が、モヒカン刈りの頭のイメージに似ているのからそう呼ばれる。普通のルーフの雨どいに比べて突起物がないので、空気抵抗が少ない、風騒音が少ない、見た目がすっきりしたデザイン、などの利点がある。雨どい部分が内側へ隠蔽できるためルーフレール断面は小さくなるが、ルーフへ直接スポット溶接してルーフレールを閉断面にすることで、トータル的な強度、剛性面でも大きなメリット
大車林
とある。どうやら最初にモヒカン構造のルーフを作り出したのは、ホンダH1300クーペだったようだ。
図に起こしてみた。
モヒカンルーフは図のようにスポット溶接をするわけだ。
スポット溶接は、2枚、あるいは3枚の薄板を重ねて、その1カ所を挟み込むように両側から電極を押しつけ、そこに大電流を流す。すると金属が持つ電気抵抗によって電気の流れが妨げられ、電極が接している部分が発熱する。この発熱によって金属が溶けてナゲットを形成し、接合するわけだ。
ルーフとボディサイドはこのスポット溶接で接合されている。こうするとサイドパネルの断面を大きくとれるし、ルーフパネルの左右方向が短くなるので、剛性や振動面で有利になるからだ。でも、溶接痕が残るし、段差が目立ってしまう。それで、段差を埋め継ぎ目を目立たなくさせるためにモールをはめ込むわけだ。
モヒカンルーフの例を見てみよう
では、ここでモヒカンルーフを採用するモデルを見てみよう。前に書いたが、現在のクルマのルーフのほとんどがモヒカンルーフを採用している。英語では、どうやら「The Mohican Structure」というようだ。
新型スバルBRZ/トヨタGR86
マツダCX-5
トヨタ・スープラ
日産スカイライン
日産GT-R
日産キックス
継ぎ目が見えない「レーザーブレージング」とは?
では、VWやアウディのクルマのルーフにモールがないのはなぜか?
これは「レーザーブレージング」という接合技術が用いられているからである。
レーザーブレージングは、接合したい部分に銅ワイヤー(注:アルミならアルミの5000か4000系、スチールの場合は、鉄より融点の低い銅ワイヤーと使用する)を送給しながらレーザーを照射して、ワイヤーだけを溶融しながら接合する技術だ。
スポット溶接が文字通り「点」で接合させるのに対して、レーザー溶接は「線」で接合する。
また母材は溶融させない。熱源がレーザーなので、局所的な入熱制御ができるため、ビードが細く、外観が滑らかで熱歪みも少ない。接合後、後処理なしで塗装できるのもメリットだ。
だから、ゴルフやポロのルーフにはモールがないのだ。
一般的に日本の自動車メーカーはスポット溶接を多用し、欧州メーカーはレーザー溶接を重用すると言える。生産設備の問題になるから、一概にどちらが優れているというわけではないが、自動車メーカーの主義主張もあるのだろう。
ちなみに、年式の古いクルマのルーフには、やはりモールがない。これは、レーザーブレージングを使っていたから……というわけではまったくなくて、かつては、ルーフパネルをサイドパネルを覆うようにもっと外側まで持ってきて、接合させていたからだ(これは「ドリップチャンネルルーフ」という)。
レーザーブレージングのルーフの例を見てみよう
VWアルテオン
VWゴルフ8
プジョー208
ルノー・ルーテシア
ルーフの接合は、メーカーの考え方、生産設備などが大きく影響する部分だ。メルセデス・ベンツやBMWは、おもにモヒカンルーフを採用するし、前述したように、ホンダは軽自動車のN-BOXにレーザーブレージングを使う。
いろいろ思いながらルーフを眺めると、それでもなんだかモールがないほうが綺麗でスマートに見える。一度気になると、駐車しているクルマの屋根に目が行ってしまう。
というわけで、次回、マイカーに乗る際に、ルーフ、見てみてください。