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■高性能と低燃費、安全性能を向上させた最後のインスパイア
2007(平成19)年12月21日、ホンダのスポーティなアッパーミドルセダン「インスパイア」5代目がデビューした。進化版可変シリンダー機構や各種SRSエアバッグの装備、さらに衝突軽減ブレーキなど先進技術満載の5代目だったが、この世代で日本での販売は終焉を迎えた。
ハイソカーブームの中で誕生した初代インスパイア
トヨタ「マークII」や日産「シーマ」などハイソカーブームで賑わう1980年代後半。ホンダは1989年、その流れに乗るために4ドアハードトップFF高級セダンの初代インスパイア「アコード・インスパイア」を投入した。
注目は、アウディなど一部の車種でしか採用されていない世界的にも希少な直列5気筒エンジンを縦置きにして、世界初のFFフロントミッドシップレイアウトを採用したこと、さらに国産車初のエアバッグを搭載(オプション設定)したことだった。
直列6気筒だと縦置きが難しいので5気筒として、4気筒と6気筒の良いとこ取りができるエンジン性能を狙ったのだ。マークIIのような爆発的なヒットにはならなかったが、ホンダらしい先進性が評価されて人気を獲得した。
2代目、3代目、4代目で進化を続けたインスパイア
・2代目(1995年~)
最大の特徴は、3ナンバーサイズのロングノーズのハードトップの伸びやかなスタイリングで、米国市場を意識して「マークII」や「ウインダム」より若干大きかった。直5エンジンをフロントミッドシップにするメカニズムは踏襲したが、エンジンは先代の2.0Lに加えて最高出力180psを誇る2.5L直5 SOHCが加えられた。
・3代目(1998年~)
米国で開発・生産されたワールドカーとなり、米国では「アキュラTL」を名乗り、日本へは輸入車として上陸した。米国市場を意識した上級イメージのスタイリングやインテリアを採用。エンジンは、200psの2.5L V6 SOHCに加えて、ハイグレードには225psを発揮する3.2L V6 SOHCエンジンが加わった。また、安全面ではディスチャージライトをはじめ、前席両側SRSエアバッグ、ABSが全車に装備された。
・4代目(2003年~)
積極的にホンダ独自の先進技術を採用。なかでも3.0L V6 i-VTECエンジンを利用した可変シリンダー機構と、国産車初の衝突軽減ブレーキの2つのシステムが画期的だった。6気筒⇔3気筒を切替える可変シリンダー機構は、可変バルブ機構を利用して、運転状態に応じて6気筒のうちの特定気筒のバルブリフトを極小にし、燃焼させずに休止(休筒)させて、3気筒運転で燃費を向上させる手法。また、ミリ波レーダーを使った世界初となる追突軽減ブレーキ(CMS)が採用され、トップレベルの安全性能を誇った。
最後のインスパイア5代目は、熟成のインスパイア
5代目は、これまで受け継いだ上級セダンとしてのスポーティな走りと上質さのさらなるブラッシュアップが図られた。
上級セダンとしてのダイレクトな操作感としなやかな乗り心地を実現するために、新開発のサスペンションや軽量・高剛性ボディを採用。先進性と上質を調和させたゆとりあるインテリアや運転を楽しむためのさまざまな装備が用意された。
エンジンについては、新たに開発された3.5L V6 i-VTECを搭載。これは、走行状況にあわせて6気筒/4気筒/3気筒での燃焼に切り替える進化版可変シリンダー機構である。また、徹底的な吸排気効率や燃焼効率の向上によって最高出力280ps/最大トルク34.9kgmまで向上。トランスミッションは5速ATのみで、実用燃費も大幅に向上した。
安全装備については、運転席用&助手席用i-SRSエアバッグ、前席用i-サイドエアバッグシステム、サイドカーテンエアバッグシステムを標準装備。また、追突の危険性をドライバーに警告を与えるとともに、万が一の衝突時の被害を軽減する追突軽減ブレーキとE-プリテンショナーを上級グレードに標準装備した。
車両価格は、標準グレードが330万円、ハイグレードが390万円に設定された。しかし、5代目インスパイアは、技術的には先進的でユニークだったが、セダン人気低迷の中で存在感を示すことができずに2012年に日本での販売を終了した。
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初代インスパイアはハイソカーブームの中でまずまずの実績を残したが、2代目以降は苦しい販売を強いられた。一方で米国では好調だったので、2代目以降は米国市場が好む居住性重視のクルマづくりに舵を切ったようだ。それが、ますます日本でのインスパイア低迷に拍車をかけたのか。
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