0-100km/h加速マイナス2秒! エンジン載せ替えに匹敵する駆動用バッテリー刷新の効果は特大!!【三菱アウトランダーPHEV】

2024年10月末にマイナーチェンジを実施し、月1000台の目標に対して早くも4600台以上(12月16日時点)を受注するなど、好調なスタートダッシュを決めた新型アウトランダーPHEV。駆動用バッテリーの刷新やサスペンション最適化といった塾生の効果はどれほどのものか? ターンパイク箱根をはじめとする一般道で味見してみた。

EV走行距離も100km超! フットワークにも磨きが掛かってワインディングが楽しい

三菱自動車はアウトランダーPHEVの大幅改良を行ない、2024年10月31日に販売を開始した。大幅改良の内容は多岐に渡っており、リチウムイオンバッテリーの刷新がそのひとつ。バッテリーセルやそれを束ねたモジュール、冷却構造を含めたシステムそのものを入れ替えており、エンジンを載せ替えたのに匹敵する大改造である。

三菱アウトランダーPHEV
今回のマイナーチェンジで、フロントアッパーグリルやスキッドプレートのデザイン変更を実施。ボディカラーは写真の「ムーンストーングレーメタリック」が追加された。
リヤコンビネーションランプをスモーク化、バックランプをLED化して、後ろ姿もちょっぴりイメチェン。

バッテリー容量は改良前の20kWhから22.7kWhに13.5%増え、蓄えたエネルギーでモーターを駆動して走るEV走行換算距離は約20km伸長して102〜106kmになった。セルの内部抵抗低減や冷却性能向上などによりバッテリー出力は約60%増と、大きく性能が向上した。大きなエネルギーを一気に持ち出すことができるし、従来よりも長い時間持続させることができる。そのため加速性能は向上。0-100km/hの全開加速は10.2秒から8秒を切るレベルまで短縮した。バッテリーが踏ん張ってエネルギーを出しつづけてくれるのでエンジンがサポートする出番は少なくなり、従来よりも高車速域までEV走行が可能になっている。

今回のマイナーチェンジの目玉が、駆動用バッテリーの変更。容量は約10%増の22.7kWhとしたほか、冷却性能を50%向上。結果、トータルのシステム出力は約2割アップの300PSに到達した。

今回は、大磯ロングビーチ(神奈川県・大磯町)の第一駐車場を起点に西湘バイパスを西に向かい、ターンパイク箱根の中間地点付近で折り返すルートを選択。アウトランダーPHEVの走りを確かめた。SOC(バッテリー残量)は60%程度でスタートした。

走行機能系に関しては、バッテリーを刷新しておしまいではなく、それにともなう重量増やわずかな車高増に合わせてばねやダンパーの諸元を見直しているし、クルマの動的質感全体のブラッシュアップを図っている。タイヤはM+S(ブリヂストンECOPIA H/L422 Plus)からサマータイヤ(ブリヂストンALENZA 001)に変更した。乗り心地やハンドリングをレベルアップするためである。日本も含め、アウトランダーを販売する地域ではスタッドレスタイヤに履き替えるケースが多いことがわかり、思い切ってオンロード性能に振ったタイヤに切り換えたのだという。

乗り心地の面では、ストロークの大きなうねり路面で上屋の動きが安定するようにした。具体的には、ばねレートは下げ、ダンパーの減衰力は上げる方向だ。これは主に市場(オーストラリア)からのフィードバックに応えた格好だという。

ベーシックな「M」グレード以外は20インチ・タイヤが標準。新型はサマータイヤのブリヂストンALENZA 001を履く。
フロントサスペンションはマクファーソンストラット式。
リヤサスペンションはマルチリンク式。

アクセルペダルの踏み込みに対する力の出方は穏やかになる方向でチューニングし直した。Gの変動が大きく出すぎるというフィードバックに応えた格好で、ドライブモードはデフォルトのNORMALよりもECOのほうが運転しやすいという声もあったそう。そう聞いて、「そんなに過敏だったかなぁ」という印象なのだが、筆者のセンサーは感度が鈍いのであてにならない。試乗後にこの話を聞いて、「アクセルペダルと力の出方、どうだったけなぁ」と思案に暮れたくらいである。要するに、気にならなかった。好意的に解釈すれば、開発者側の意図通りに仕上がっているということだ。

西湘バイパスは路面の継ぎ目が多いし、路面がざらざらした箇所も散在しており、乗り心地や静粛性を確認するにはもってこいのルートである。大幅改良版のアウトランダーPHEVは至ってスムースに走る。静かで、快適だ。前後にも左右にもフラフラと揺れることなく、ビシッと真っ直ぐ走る。

センターモニターは9インチから12.3インチに大型化。ルームミラーもフレームレスのデジタルタイプを新採用。

ステアリングの保舵に気を使うことはない。料金所通過後は強めのダッシュを試みたが、2tオーバーの車重(試乗車のカタログ上の車重は2140kg)を軽々と加速させる。耳をそばだてて注意していない限り、EV走行なのか、エンジンが始動してバッテリー出力をアシストしているのか、意識することはほとんどないだろう。動力源のミックスが切り替わる際のGの変化を感じることもない。エンジンとモーターの使い分けは完全に黒子に徹しており、ドライバーには意図通りの力をスムースかつ静かに提供してくれるのみである。

勾配のきついターンパイク箱根の登り坂をものともせず、グイグイと速度を乗せていくアウトランダーPHEV。0-100km/h加速タイムは約2秒も速くなっている。

さすがにターンパイク箱根の料金所から始まる急勾配をダッシュする際はエンジンルームから大きな音が聞こえてくるが、エンジン音は上手にマスクされ、インバーター/モーター起因の高周波音が耳に届く。だが、極めて限定的なシチュエーションでの音なので、気にするだけ野暮というものだろう。大幅改良版に関しては、邪魔な高周波音をカットする手が追加で打たれている。音は聞こえるが耳障りではない。

カーブに進入していくときにステアリングを切り込むと、嫌がる素振りを見せずに素直に向きを変え、しなやかにロールし、スッと腰を落ち着ける。そして腰だめの姿勢を保ったまま、コーナー出口に向けて加速していく。フロントモーターの最高出力は85kW、リヤは100kWだ。この数値に変更はないが、従来型はバッテリー性能が足かせとなって前後のモーターをフルに使うことはできていなかったという。

新型ではシステム出力が約20%アップ、バッテリー出力は約60%アップ。それに合わせて、S-AWCが統合制御する駆動力配分やブレーキ制御・AYC制御・パワーパップがあらためてセットアップされた。

バッテリー出力が向上したことで、大幅改良版は前後のモーターをフルに使えるようになったそう。するとリヤが元気になりすぎるので、車両運動統合制御システムのS-AWCはチューニングの見直しを行なったという。ターンパイク箱根の登りでは、後輪の駆動力配分を高めるTARMACモードで走った。サーキット(袖ヶ浦フォレストレースウェイ)で新旧を乗り比べた際は、大幅改良版は「動きが穏やかになった」と感じたが、リアルなワインディングロードでは反応・動きがちょうどよく感じられる。大きく重たいクルマを振り回している事実を忘れそうなくらい、意のままという印象だ。

ターンパイク箱根の中間点で転回後の、急な下り勾配も楽しいドライブだった。フットブレーキを使わず、パドルで回生ブレーキの強弱(B0〜B5の6段階)を調節するだけで事足りる。先行車に詰まりそうになったら左のパドルを引いて回生ブレーキを強め、勾配が緩くなり、車間が開いたら右のパドルを引いて回生ブレーキを弱め、車速を上げる。ブレーキペダルを踏んでいなくても、減速Gが0.15G程度に達したらはブレーキランプが点灯する。ランプの点灯状態は、後ろ姿のグラフィックをメーターに表示させておくと把握できる。回生ブレーキを利かせながら下っていると、登りで消費したバッテリー残量がみるみる回復していく。その様子を確認するのが楽しいし、「もっと増やしてやろう」と、ゲーム感覚で楽しめる。

スプリングレートやショックアブソーバーの減衰力の最適化により、ブレーキからの一次旋回→二次旋回→立ち上がりといったコーナーワークが「一筆書き」でつながるようなハンドリングを実現したという。

オーディオにも触れておこう。アウトランダーPHEVの大幅改良版には、ヤマハと共同開発した専用サウンドシステムが標準で装備されることになった。P、G、Mグレードは8スピーカーのシステムが標準、P Executive Packageは12スピーカーのシステムが標準となり、PとGにオプション設定される。試乗車はP Executive Packageだった。

手持ちのiPhoneを有線でつないでよく聴く音楽を楽しんだ。音楽を邪魔するノイズが抑えられていることもあるし、音づくりもよくできているのもあり、運転の邪魔をせず、聴きやすい。音像が目の前にしっかり定位し、解像度高く耳に流れ込んでくる。

P Executive Packageに標準装備される「ダイナミックサウンド ヤマハ アルティメット」。12スピーカーで構成され、「生演奏を聴いているようなリアルな音」と「クリアな中高音と息づかいまでが聴こえる高い解像度」で音楽を楽しめる。

走りながら音楽を楽しむのもいいが、大容量バッテリーを積んだクルマの特権は、停車中にエンジンを掛けることなく音楽の世界に浸れることだ。エンジンをアイドルさせながら音楽を聴く後ろめたさがない。試乗の起点が大磯ロングビーチの駐車場だったので思い出したが、その昔、ここでドライブインシアターが設けられていた。広大な駐車場に設置されたスクリーンに映し出される映像をクルマの中から眺めるのである。音声はカーオーディオで聴く(FMチューナーの周波数を指定の数字に合わせる)。

アウトランダーPHEVのプレミアムオーディオで音声を聴きながらの映画鑑賞、とっても贅沢な体験ができそうな気がする。そんな妄想がふくらむくらい、居心地のいい空間だ。

プラグインハイブリッド車でありながら、3列シートを有するクルマは貴重だ。
2列目:上級グレードにはリヤシートヒーターも備わり、快適性は上々。
1列目:P Executive Packageのセミアニリンレザーシートは新色の「ブリックブラウン」を採用。
三菱アウトランダーPHEV P Executive Package(5人乗り)
全長×全幅×全高:4720mm×1860mm×1750mm
ホイールベース:2705mm
車重:2140kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式&マルチリンク式 
駆動方式:ツインモーター4WD
エンジン
形式:2.4L直列4気筒DOHC
型式:4B12MIVEC
排気量:2359cc
ボア×ストローク:88.0×97.0mm
圧縮比:11.7
燃料供給:PFI
最高出力:98kW/5000pm
最大トルク:195Nm/4300rpm
燃料:レギュラー
燃料タンク:53L
フロントモーター
型式:S91
最高出力:85kW(定格出力40kW)
最大トルク:255Nm
リヤモーター
型式:YA1
最高出力:100kW(定格出力40kW)
最大トルク:195Nm
リチウムイオン電池
総電圧:350V
総電力量:20kWh
燃費:ハイブリッド燃料消費率WLTCモード 17.2km/L
車両本体価格:659万4500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…