初代ソアラの電子デバイスをクローズアップ! 日本初のエレクトロニック・ディスプレイメーターの機能を見てみよう【時代の名車探訪 No.1-5 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・電子デバイス解説編1・デジタルメーター】

デジタルメーターの解説記事&写真はあっても、ひとつひとつについて述べ立てた記事はないだろう。
手元にある資料を武器に、表示項目それぞれをできるだけ掘り下げて解説していく。
NHK紅白歌合戦を見ながらどうぞ。

TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi) PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)/モーターファン・アーカイブ

時代の名車探訪、第1回めのソアラ編も今回で5回め。

ほんとうは外装編1回、内装編3回の4回でおしまいにするつもりだったが、前の「サバンナRX-7」のときのようにまた気が変わり、どうせならソアラを象徴するせっかくの先進デバイスをもうちょい深追いしてみるべとなったので、内装編でご紹介したいくつかの先進デバイスを、重複することを承知の上で個別にクローズアップしていくことにした。

まずは「エレクトロニック・ディスプレイメーター」からだ。

解説・エレクトロニック・ディスプレイメーター

ソアラのイメージはいろいろあるが、その筆頭は、ハンドル前に置かれた「エレクトロニック ディスプレイ メーター」だ。

表示項目やその構造を説明していく。

車両のそのときどきの車両情報(どうもたかだかクルマごときの状態を示すものを「情報」なんて言葉で表すのは大げさで好きじゃない)は、従来は指針と目盛りで示していた。いわゆるアナログメーターだ。

初代ソアラの頃なら速度計と燃料計と水温計が一般的。ちょっと上級になるとそこにエンジンの回転計が加わり、ホットモデルになると、油圧計や電圧計、クルマによりけりで油温計、電流計などがプラスされたもの。

ソアラのエレクトロニック・ディスプレイメーターは、ソアラが別に峠をかっ飛ばす性格のクルマでないこともあり、デジタル化は速度計、回転計、燃料計、水温計の4つにとどめている。

全体のレイアウト、および表示項目は次の写真のとおりだ。

緑の蛍光管表示と背面の方眼模様に未来感を抱く。ランプ数もほどほどだ。
エレクトロニック・ディスプレイメーター。

ひとつひとつについて解説していこう。

★デジタル式スピードメーター

中央に速度計を配置。指針に変わり、数字で速度を表示する。

デジタル式スピードメーター。
デジタル式スピードメーター。

表示部は高輝度蛍光表示管が用いられ、フィルターと組み合わせて薄いブルーの色づけ。昼間の視認性に有利らしい。夜間の照度コントロールも可能だ。

いまのクルマが、アナログメーターですら(全面液晶型が増殖中だが)電気式に変わり始めてから少なくとも30年以上経つが、それ以前はトランスミッションから取り出した回転ケーブルをメーター裏まで配策し、速度計の指針を動かしていた。

このエレクトロニックディスプレーメーターで面白いのは、見かけは電気的なのに、回転の大元は従来と同じくケーブルで取り出していることだ。

トランスミッションのアウトプットシャフト回転をケーブルでメーター裏まで伝えるのはアナログ式と同じ。その回転を受けた光電式スピードセンサーが電気パルスを発生させる。そのパルス信号を波形整形してカウントし、記憶させて表示回路に送信する。

光電式スピードセンサーは、発光ダイオードとフォトトランジスターを対向させて組み合わせたフォトカプラと、スピードメーターケーブルで駆動される遮光板で構成され、ケーブル1回転あたり発光ダイオードの光を20回遮れば20パルスとなる。

光電式スピードセンサ。

話は逸れるが参考までに、従来(いまでいう「旧車」と呼ばれる世代のクルマ)のケーブルによるアナログ式メーターの場合、ケーブルはメーター裏まで配策されていると先に述べた。
このソアラの積算距離計なり区間距離計は、数字が刻まれた円筒を並べるドラム式だが、その回転は、60km/h走行時、1分間でケーブルが637回転したときに距離計が1km加算するようにギヤ比が決められていた。
この、実に中途半端な「637回転」の比率は日本車、それも4輪車だけのもので、その根拠はわかっていない。
これが2輪車となると60km/hで毎分1400回転。アメリカ車なら1000回転/分の60mphで、ドイツ車は1000回転/分の60km/hだった。
これはケーブル式メーターでの話で、いまは世界的に電気式メーターになっているから、もはや過去のものといっていいだろう。

表示の話に戻って、クルマが走り出すと速度表示は1km/h刻みで0~180km/hまで行なわれるが、その書き換え時間は0.28秒。例えば発進して50km/hまで加速するとき、クルマは0km/h超~50km/hまでシームレスに速度上昇するわけだが、だからといって数字は1km/h、2km/h・・・と順繰りに表示されない。表示インターバルは0.28秒だから、10km/hが0.28秒表示している間に13km/hになったら、10km/hの次に13km/hを表示する・・・つまり0.28秒刻みでそのときどきの速度を表示するから、加速の仕方次第で数字のスキップ幅も変わってくるわけだ。デジタルメーターの表示が飛び飛びなのはこのためなのである。

デジタル表示式スピードメータ表示機能一覧。

★速度警報装置

当時義務付けられていた装置で、100km/h以上の速度になるとスピードメーターから信号が出力され、ウォーニングのブザーが鳴ってランプが点灯する。

速度警報装置。

★デジタル式任意速度警報装置(スピードアラーム)

前項速度警報装置とは別に設置されたデバイスで、ドライバーが任意でセットした速度を超えるとスピードメーターICから警報用電子ブザーに信号が出力され、ブザーが吹鳴する。

デジタル式任意速度警報装置(スピードアラーム)の表示部。表示されていない場外の写真でごめん。

セットはメーター右下のダイヤルで行なう。

デジタル式任意速度警報装置(スピードアラーム)の設定ダイヤル。

機能は以下のとおり。

デジタル式任意速度警報装置(スピードアラーム)の機能。

★ゾーン表示式タコメーター

発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を44個並べてゾーン表示し、0~8000rpmまでを44段階に分解して(分解能という)表示する。

ゾーン表示式タコメーター。
ゾーン表示式タコメーター。

基板上に44個ならべたモールド型による半球状のくぼみの底部に小さなLEDチップを配し、個々の半球内に放たれた光を、ふたに相当する長方形のアクリルで拡散させて回転数を表示するしくみ。

ゾーン表示式タコメーターの断面構造図。裏事情を見ると、意外と理解しやすい構造になっている。こうなっていたのか!

機能は次の表のとおりだ。

ゾーン表示式タコメーターの表示機能いちらん。

「表示分解能」の項を見るとわかるとおり、回転が上に行くほど、1セグメントあたりのLEDが受け持つ回転数が大きくなっている。アクセルを踏んでエンジン回転や音がきれいに上昇しても、タコメーターグラフは見かけ上、回転の伸びが悪くなったよう錯覚したことだろう。

★ゾーン表示式燃料計

こちらも速度計と同じく蛍光管表示。セグメント総数は10だ。

拡大機能はありがたい。これもトヨタ的親切機能だ。
ゾーン表示式燃料計。

通常表示時はタンク内の全ガソリン容量(61L)に対する残量を、セグメント数を減らしながら表示する。

通常表示時、セグメント数が2以下の残量域になったときに、メーター盤左下の「SCALE CHANGE」ボタンを押すと15L以下の残量をさらに詳細表示する。セグメントそのものはかわらないが、通常表示では・F(FULL・満了)、中間の「▶」、E(EMPTY・空)だったバーグラフ左のプロットが消え、その右に上端に「15L」、中間に「10L」、いよいよ空の「E」のプロットが表示され、15L以下での残量詳細を拡大表示する。

この拡大表示は3秒間にとどまり、3秒経過するともとの通常表示に復帰。また、燃料残量が15L以下になった場合は、「FUEL」文字下のランプが点灯する(燃料残量警告灯)。

1セグメント当たりの燃料量はおおよそ均等で、通常表示時は約5.3L/1セグメント、拡大表示時は約1L/1セグメントとなっており、通常表示時であれ拡大表示時であれ、空っ欠になったときは全セグメントが姿を消すから恐ろしい。

ゾーン表示式燃料計の表示機能いちらん。

なお、タンク内のゲージは液面で残量を検出するフロート式で、一般のアナログ式と変わらない。

タンク内の燃料残量を測るフューエルセンダゲージ。「センサゲージ」じゃないよ、「センダゲージ」ね。

★セグメント表示式水温計

こちらも蛍光管表示で、50℃以下から120℃以上までの水温域を10のセグメントに区分けし、そのときの水温(正確には現在の水温域)を1セグメントだけ発光させる。

セグメント表示式水温計。
セグメント表示式水温計。

表示機能とセグメント区分けは表のとおりだ。

セグメント表示式水温計の表示機能いちらん。
各セグメントの区分け。平常は5か6なのだろう。

燃料計の場合と異なり、低温から高温までの区分けというか、配分は必ずしも均等ではなく、実用域を重視した配分にしたというから、初めてデジタル表示を手掛けたにしてはかなり気が利いている。初ものなら単純志向で等分割にしそうなものだ。

なお、こちらにも警告灯があり、エンジン水温が120℃以上になると赤の警告灯が点灯する(オーバーヒートウォーニング)。

「日本初」の快挙を遂げた、初代ソアラ、デジタル表示式メーターだけで1本記事を書いてみた。

お次は「ドライブコンピューター」について解説していく。

【撮影車スペック】

トヨタソアラ 2800 GT-EXTRA(MZ11型・1981(昭和56)年型・OD付4段フルオートマチック)

●全長×全幅×全高:4655×1695×1360mm ●ホイールベース:2660mm ●トレッド前/後:1440/1450mm ●最低地上高:165mm ●車両重量:1305kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.5m ●燃費:8.1km/L(10モード燃費)、15.5km/L(60km/h定地走行燃費) ●タイヤサイズ:195/70HR14ミシュラン ●エンジン:5M-GEU型・水冷直列6気筒DOHC ●総排気量:2759cc ●圧縮比:8.8 ●最高出力:170ps/5600rpm ●最大トルク:24.0kgm/4400rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式コイルスプリング/セミトレーリングアーム式コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:293万8000円(当時・東京価格)

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