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世界的にも稀少なコンパクト本格オフローダー
世界的自動車市場はここ数年SUVが大流行しており、その流れに乗るべくオフローダーやクロスカントリービークルといったジャンルも大枠でSUVに組み込まれている。しかも、本格的なオフローダーは以前より車種を減らしており、伝統のモデルがその命脈を繋いでいる。ただ、伝統的本格オフローダーは大柄でプレミアムなモデルがほとんどで、ジムニーシリーズは極めて稀少なモデルと言えるだろう。

軽自動車がベースのジムニーは、これまで排気量を上げてオーバフェンダーでボディを拡幅して小型車枠としたシエラはラインナップしてきたが、現行モデルでついに5ドアモデルが登場し、日本でも発表された。
すでに世界100ヶ国で販売されているジムニーシリーズだが、日本市場向けには「ノマド」と名付けられた5ドアモデルは本格オフローダー市場に一石を投じることになるだろう。

というのも、本格オフローダーは今やメルセデス・ベンツGクラス、ランドローバー・ディフェンダー、ジープ・ラングラー、トヨタ・ランドクルーザーシリーズ(レクサスLX、GX)といったプレミアムモデルばかり。価格的には最低でも500万円クラス、上を見れば2000万円も余裕で超えてくる。
その中にあって、ジムニー・ノマドはコンパクトなサイズもさることながら価格は300万円を下回る唯一の本格オフローダーなのだ。

そこで、同じ本格オフローダーでジムニー・ノマドと反対の極北にあるプレミアムモデルであるメルセデス・ベンツGクラスを比較してみることにした。市場的にもユーザー層も全く重なることはないであろう両車ではあるが、あえて比べてみることで見えてくるものがあるかもしれない。

ボディサイズを比べてみる
元々が軽自動車がベースとなっているジムニー・ノマドに対し、メルセデス・ベンツの中でもプレミアムなGクラスではボディサイズはそもそも比較する意味は無いのだが、似たようなスタイルの5ドア本格オフローダーとしてあえて並べてみよう。

全長では約80cm、全幅は約30cm、全高は約25cmジムニーノマドがコンパクトだ。特に全幅は軽自動車のボディにオーバーフェンダーを装着しているために、キャビンスペースベースで考えればその差はさらに大きいと言えるだろう。そのため、5ドアになってもジムニー・ノマドの後席は2名乗車のままで、定員は4名となっている。

ボディサイズのコンパクトさは言わずもがなではあるが、サイドビューを見比べるとジムニー・ノマドの前後オーバーハングが極めて短いことがわかる。これは、後述するオフロード踏破力の目安となる3つの「アングル」で非常に有利に働く。

また、上の写真を見てもなんとなく感じることではあるが、ジムニー・ノマドのホイールベースは全長の66.5%なのに対し、Gクラスは61.6%(AMG G63)と、比率でいえばジムニー・ノマドの方がGクラスよりホイールベースが長くなっている。
ちなみに比率でいえば、ジムニー・ノマドとGクラス(AMG G63)の全長と全幅の比率はほぼ等しく、全幅に対するトレッドの比率も近い。おそらく本格オフローダーとして最適なボディ比率なのではないかと思われる。
車名 | ジムニー・ノマド | G450d | AMG G63 |
全長 | 3890mm | 4670mm | 4690mm |
全幅 | 1645mm | 1930mm | 1985mm |
全高 | 1725mm | 1980mm | 1985mm |
ホイールベース | 2590mm | 2890mm | 2890mm |
トレッド | 前:1395mm 後:1405mm | 前:1635mm 後:1640mm | 前:1655mm 後:1655mm |
車両重量 | 5速MT:1180kg 4速AT:1190kg | 2540kg | 2570kg |
最小回転半径 | 5.7m | 6.3m | 6.3m |
乗車定員 | 4名 | 5名 | 5名 |
オフロード踏破性を数字で比べてみる
ジムニー・ノマドとGクラスは共に伝統のラダーフレームを採用し、堅牢さと高いオフロード踏破力を備えている。踏破力を示す数字としてフロントの「アプローチアングル」、リヤの「デパーチャーアングル」、ホイールベースの「ランプブレークオーバーアングル」の3アングルに「最低地上高」と合わせた4つが挙げられる。

ジムニー・ノマドは、
アプローチアングル:36°
デパーチャーアングル:47°
ランプブレークオーバーアングル:25°
最低地上高:210mm
となっており、コンパクトなボディによる前後オーバーハングの短さを活かした本格オフローダーとして非常に優れた設定になっている。特にジムニー・シエラ譲りのアプローチアングルとデパーチャーアングルは圧倒的。ランプブレークオーバーアングルのみホイールベースの延長によりジムニー・シエラの28°から悪化しているのは仕方の無いところ。

対してGクラスは、
アプローチアングル:31°
デパーチャーアングル:30°
ランプブレークオーバーアングル:26°
最低地上高:230mm(G450d)/240mm(AMG G63)
となっており、もちろん本格オフローダーとして優れた設定ではあるが、数字上ではジムニー・ノマドには及ばない。ランプブレークオーバーアングルに関しては、最低地上高がジムニー・ノマドの210mmより20mm〜30mm高いためかやや上回っている。
サスペンションはジムニー・ノマドが前後とも3リンクリジッド+コイルスプリングなのに対し、Gクラスはフロントがダブルウィッシュボーン独立懸架、リヤがリジッド+コイルスプリングを採用する。ジムニー・ノマドのシンプルかつ質実剛健さが際立つ。
タイヤいずれも標準ではオフロード色は強くない。ジムニー・ノマドの撮影車はブリヂストン製SUV向けコンフォートタイヤのDUELER H/L852は、Gクラス(AMG G63)はピレリ製オン/オフ両用スポーツタイヤのスコーピオンゼロ・アシンメトリコを装着していた。
車名 | ジムニー・ノマド | G450d | AMG G63 |
サスペンション | 前後:3リンクリジッド | 前:ダブルウィッシュボーン 後:リジッド | 前:ダブルウィッシュボーン 後:リジッド |
ブレーキ | 前:ベンチレーテッドディスク 後:ドラム | 前後:ベンチレーテッドディスク | 前後:ベンチレーテッドディスク |
タイヤサイズ | 195/80R15 | 265/60R18 275/50R20(オプション) | 275/50R20 285/45R21(オプション) 295/40R22(オプション) |
アプローチアングル | 36° | 31° | 31° |
デパーチャーアングル | 47° | 30° | 30° |
ランプブレークオーバーアングル | 25° | 26° | 26° |
最低地上高 | 210mm | 230mm | 240mm |
パワートレーンを比べてみる
ジムニー・ノマドはジムニー・シエラと同じK15B型1.5L直列4気筒DOHC16バルブエンジンを縦置きに搭載するFRベースで、機械式副変速機を備えたパートタイム4WD。トランスミッションは5速MTと4速ATを用意している。過給器やハイブリッドなどの設定はなく、極めてシンプル。

一方、GクラスはEVもラインナップに加えたが、OM656M型3.0L直列6気筒ディーゼルターボ+ISGのハイブリッド(G450d)と、M177型4.0L V型8気筒DOHCツインターボ+ISGのハイブリッド(AMG G63)を設定。トランスミッションは前者が「9G-TRONIC」、後者が「AMG スピードシフト TCT」のいずれも9速ATで、フルタイム4WDとなっている。

このテのクルマに乗るユーザーはあまり気にしないと思われるが、燃費(WLTCモード)はどちらもあまり褒められた数字ではない。ジムニー・ノマドは今時4速ATであることも燃費的にはマイナスに働いている。
Gクラスでも車重やサイズを考えればG450dはディーゼルな分マシかもしれないが、4.0L V8ツインターボのAMG G63は逆の意味で”サスガ”である。
車名 | ジムニー・ノマド | G450d | AMG G63 |
エンジン | K15B型 直列4気筒DOHC16バルブ | OM656M型 直列6気筒ディーゼルターボ | M177型 V型8気筒DOHC32バルブツインターボ |
レイアウト | フロント縦置き | フロント縦置き | フロント縦置き |
排気量 | 1460cc | 2988cc | 3982cc |
最大出力 | 102ps(75kW)/6000rpm | 367ps(270kW)/4000rpm | 585ps(430kW)/6000rpm |
最大トルク | 130Nm/4000rpm | 750Nm/1350-2800rpm | 850Nm/2500-3500rpm |
モーター | – | 交流同期電動機 | 交流同期電動機 |
最大出力 | – | 15kW/2000rpm | 15kW/2000rpm |
最大トルク | – | 208Nm/100rpm | 208Nm/100rpm |
トランスミッション | 5速MT/4速AT | 9速AT | 9速AT |
駆動方式 | パートタイム4WD(FR) | フルタイム4WD | フルタイム4WD |
WLTC燃費 | 5速MT:14.9km/L 4速AT:13.6km/L | 13.5km/L | 7.3km/L |
インテリアを比べてみる
ジムニー・ノマドのインテリアは基本的にジムニー/ジムニー・シエラを踏襲しており、使い勝手の良さを重視したオーソドックスなレイアウト。デザインも華飾を排し実用本意なものであり、その質実剛健さが本格オフローダーとしての魅力にもなっている。

逆にGクラスは本格オフローダーでありながらプレミアムモデルでもあるので、そのインテリアは上質かつ高機能。シートのみならずダッシュボードやステアリング、ルーフライナーまでナッパレザーを採用する(AMG G63)徹底ぶりだ。

ジムニー・ノマドのメーターがコンサバティブなアナログメーターなのに対し、Gクラスは大型の液晶モニターに集約された最新のグラスコックピットだ。
また、駆動方式の切り替えもジムニー・ノマドがレバー式なのに対し、Gクラスはスイッチ式「オフロードコックピット」となっている。
室内空間やラゲッジルームはボディサイズの差がそのまま出てくるので、広さを比べるのはフェアではない。なお、リヤシートはGクラスが6対4分割なのに対し、ジムニー・ノマドは4名乗車のためシートの分割は5対5になっている。


価格差は最大で10倍以上

ジムニー・ノマドの価格は265万1000円(MT)/275万円(AT)と発表された。昨今どんどん上昇していく自動車価格の中にあっては良心的な設定だ。一方、オフローダーの最高級車であるGクラスは1824万円〜2820万円。その差は約7倍、最大で約10倍以上にもなる。
ジムニー・ノマド | G450d | AMG G63 |
265万1000円(MT)/275万円(AT) | 1824万円 | 2820万円 |
本格オフローダーであることを除けばそもそも比較対象になるような両車ではないことは再三述べてきてはいるが、ジムニー・ノマドがGクラスの10分の1の価格で手に入るのは非常にコストパフォーマンスが高いとも考えられる。