オフロード踏破力ならジムニー・ノマドの方がメルセデス・ベンツGクラスより上? 本格オフローダーを数字と写真で比べてみる

インドなど海外ではすでに発売されていたスズキ・ジムニーの5ドアモデルが、ついに日本でも「ジムニー・ノマド」として発表された。今や貴重な存在となった本格的なオフローダーだけに、その存在は唯一無二と言っていい。しかし、あえて"ホンモノ"のオフローダーの一方の極北、モデルチェンジされたばかりのメルセデス・ベンツGクラスと比較してみたい。
PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp

世界的にも稀少なコンパクト本格オフローダー

世界的自動車市場はここ数年SUVが大流行しており、その流れに乗るべくオフローダーやクロスカントリービークルといったジャンルも大枠でSUVに組み込まれている。しかも、本格的なオフローダーは以前より車種を減らしており、伝統のモデルがその命脈を繋いでいる。ただ、伝統的本格オフローダーは大柄でプレミアムなモデルがほとんどで、ジムニーシリーズは極めて稀少なモデルと言えるだろう。

ジムニー・ノマド

軽自動車がベースのジムニーは、これまで排気量を上げてオーバフェンダーでボディを拡幅して小型車枠としたシエラはラインナップしてきたが、現行モデルでついに5ドアモデルが登場し、日本でも発表された。
すでに世界100ヶ国で販売されているジムニーシリーズだが、日本市場向けには「ノマド」と名付けられた5ドアモデルは本格オフローダー市場に一石を投じることになるだろう。

ジムニー・ノマド

というのも、本格オフローダーは今やメルセデス・ベンツGクラス、ランドローバー・ディフェンダー、ジープ・ラングラー、トヨタ・ランドクルーザーシリーズ(レクサスLX、GX)といったプレミアムモデルばかり。価格的には最低でも500万円クラス、上を見れば2000万円も余裕で超えてくる。
その中にあって、ジムニー・ノマドはコンパクトなサイズもさることながら価格は300万円を下回る唯一の本格オフローダーなのだ。

AMG G63(ローンチエディション、以下同)

そこで、同じ本格オフローダーでジムニー・ノマドと反対の極北にあるプレミアムモデルであるメルセデス・ベンツGクラスを比較してみることにした。市場的にもユーザー層も全く重なることはないであろう両車ではあるが、あえて比べてみることで見えてくるものがあるかもしれない。

AMG G63

ボディサイズを比べてみる

元々が軽自動車がベースとなっているジムニー・ノマドに対し、メルセデス・ベンツの中でもプレミアムなGクラスではボディサイズはそもそも比較する意味は無いのだが、似たようなスタイルの5ドア本格オフローダーとしてあえて並べてみよう。

(※縮尺は参考)

全長では約80cm、全幅は約30cm、全高は約25cmジムニーノマドがコンパクトだ。特に全幅は軽自動車のボディにオーバーフェンダーを装着しているために、キャビンスペースベースで考えればその差はさらに大きいと言えるだろう。そのため、5ドアになってもジムニー・ノマドの後席は2名乗車のままで、定員は4名となっている。

(※縮尺は参考)

ボディサイズのコンパクトさは言わずもがなではあるが、サイドビューを見比べるとジムニー・ノマドの前後オーバーハングが極めて短いことがわかる。これは、後述するオフロード踏破力の目安となる3つの「アングル」で非常に有利に働く。

(※縮尺は参考)

また、上の写真を見てもなんとなく感じることではあるが、ジムニー・ノマドのホイールベースは全長の66.5%なのに対し、Gクラスは61.6%(AMG G63)と、比率でいえばジムニー・ノマドの方がGクラスよりホイールベースが長くなっている。
ちなみに比率でいえば、ジムニー・ノマドとGクラス(AMG G63)の全長と全幅の比率はほぼ等しく、全幅に対するトレッドの比率も近い。おそらく本格オフローダーとして最適なボディ比率なのではないかと思われる。

車名ジムニー・ノマドG450dAMG G63
全長3890mm4670mm4690mm
全幅1645mm1930mm1985mm
全高1725mm1980mm1985mm
ホイールベース2590mm2890mm2890mm
トレッド前:1395mm
後:1405mm
前:1635mm
後:1640mm
前:1655mm
後:1655mm
車両重量5速MT:1180kg
4速AT:1190kg
2540kg2570kg
最小回転半径5.7m6.3m6.3m
乗車定員4名5名5名
ボディサイズ等諸元

オフロード踏破性を数字で比べてみる

ジムニー・ノマドとGクラスは共に伝統のラダーフレームを採用し、堅牢さと高いオフロード踏破力を備えている。踏破力を示す数字としてフロントの「アプローチアングル」、リヤの「デパーチャーアングル」、ホイールベースの「ランプブレークオーバーアングル」の3アングルに「最低地上高」と合わせた4つが挙げられる。

ジムニー・ノマド

ジムニー・ノマドは、
アプローチアングル:36°
デパーチャーアングル:47°
ランプブレークオーバーアングル:25°

最低地上高:210mm
となっており、コンパクトなボディによる前後オーバーハングの短さを活かした本格オフローダーとして非常に優れた設定になっている。特にジムニー・シエラ譲りのアプローチアングルとデパーチャーアングルは圧倒的。ランプブレークオーバーアングルのみホイールベースの延長によりジムニー・シエラの28°から悪化しているのは仕方の無いところ。

G450d

対してGクラスは、
アプローチアングル:31°
デパーチャーアングル:30°
ランプブレークオーバーアングル:26°

最低地上高:230mm(G450d)/240mm(AMG G63)
となっており、もちろん本格オフローダーとして優れた設定ではあるが、数字上ではジムニー・ノマドには及ばない。ランプブレークオーバーアングルに関しては、最低地上高がジムニー・ノマドの210mmより20mm〜30mm高いためかやや上回っている。

サスペンションはジムニー・ノマドが前後とも3リンクリジッド+コイルスプリングなのに対し、Gクラスはフロントがダブルウィッシュボーン独立懸架、リヤがリジッド+コイルスプリングを採用する。ジムニー・ノマドのシンプルかつ質実剛健さが際立つ。

ジムニー・ノマドのフロントアクスルとサスペンション。前後デフとプロペラシャフトは運転席側にオフセットされている。
ジムニー・ノマドのリヤアクスルとサスペンション。前後とも3リンクリジッド+コイルスプリング。
AMG G63のフロント回り。カバーに覆われて見えないが、サスペンションはダブルウィッシュボーン(4リンク)。
AMG G63のリヤアクスルとサスペンション。リジッド+コイルスプリングの形式はジムニー・シエラと同様だが、スタビライザーの太さが段違い。

タイヤいずれも標準ではオフロード色は強くない。ジムニー・ノマドの撮影車はブリヂストン製SUV向けコンフォートタイヤのDUELER H/L852は、Gクラス(AMG G63)はピレリ製オン/オフ両用スポーツタイヤのスコーピオンゼロ・アシンメトリコを装着していた。

タイヤサイズは195/80R15で、撮影車両はブリヂストンDUELER H/L852を装着していた。
AMG G63の撮影車はオプションの285/45R21サイズを装着。タイヤはピレリ・スコーピオンゼロ・アシンメトリコ。
車名ジムニー・ノマドG450dAMG G63
サスペンション前後:3リンクリジッド前:ダブルウィッシュボーン
後:リジッド
前:ダブルウィッシュボーン
後:リジッド
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク
後:ドラム
前後:ベンチレーテッドディスク前後:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ195/80R15265/60R18
275/50R20(オプション)
275/50R20
285/45R21(オプション)
295/40R22(オプション)
アプローチアングル36°31°31°
デパーチャーアングル47°30°30°
ランプブレークオーバーアングル25°26°26°
最低地上高210mm230mm240mm
足回り及び踏破力諸元

パワートレーンを比べてみる

ジムニー・ノマドはジムニー・シエラと同じK15B型1.5L直列4気筒DOHC16バルブエンジンを縦置きに搭載するFRベースで、機械式副変速機を備えたパートタイム4WD。トランスミッションは5速MTと4速ATを用意している。過給器やハイブリッドなどの設定はなく、極めてシンプル。

ジムニー・ノマドのエンジンルーム。直列4気筒エンジンを縦置きにレイアウトする。

一方、GクラスはEVもラインナップに加えたが、OM656M型3.0L直列6気筒ディーゼルターボ+ISGのハイブリッド(G450d)と、M177型4.0L V型8気筒DOHCツインターボ+ISGのハイブリッド(AMG G63)を設定。トランスミッションは前者が「9G-TRONIC」、後者が「AMG スピードシフト TCT」のいずれも9速ATで、フルタイム4WDとなっている。

Gクラス(AMG G63)のエンジンルーム。AMG G63はV8エンジンを縦置きにレイアウト。
ジムニー・ノマドのエンジンルーム。空間には余裕がある。
Gクラス(AMG G63)のエンジンルームは、カバーに覆われている。

このテのクルマに乗るユーザーはあまり気にしないと思われるが、燃費(WLTCモード)はどちらもあまり褒められた数字ではない。ジムニー・ノマドは今時4速ATであることも燃費的にはマイナスに働いている。
Gクラスでも車重やサイズを考えればG450dはディーゼルな分マシかもしれないが、4.0L V8ツインターボのAMG G63は逆の意味で”サスガ”である。

車名ジムニー・ノマドG450dAMG G63
エンジンK15B型
直列4気筒DOHC16バルブ
OM656M型
直列6気筒ディーゼルターボ
M177型
V型8気筒DOHC32バルブツインターボ
レイアウトフロント縦置きフロント縦置きフロント縦置き
排気量1460cc2988cc3982cc
最大出力102ps(75kW)/6000rpm367ps(270kW)/4000rpm585ps(430kW)/6000rpm
最大トルク130Nm/4000rpm750Nm/1350-2800rpm850Nm/2500-3500rpm
モーター交流同期電動機交流同期電動機
最大出力15kW/2000rpm15kW/2000rpm
最大トルク208Nm/100rpm208Nm/100rpm
トランスミッション5速MT/4速AT9速AT9速AT
駆動方式パートタイム4WD(FR)フルタイム4WDフルタイム4WD
WLTC燃費5速MT:14.9km/L
4速AT:13.6km/L
13.5km/L7.3km/L
ドライブトレイン諸元

インテリアを比べてみる

ジムニー・ノマドのインテリアは基本的にジムニー/ジムニー・シエラを踏襲しており、使い勝手の良さを重視したオーソドックスなレイアウト。デザインも華飾を排し実用本意なものであり、その質実剛健さが本格オフローダーとしての魅力にもなっている。

ジムニー・ノマド

逆にGクラスは本格オフローダーでありながらプレミアムモデルでもあるので、そのインテリアは上質かつ高機能。シートのみならずダッシュボードやステアリング、ルーフライナーまでナッパレザーを採用する(AMG G63)徹底ぶりだ。

Gクラス(AMG G63)

ジムニー・ノマドのメーターがコンサバティブなアナログメーターなのに対し、Gクラスは大型の液晶モニターに集約された最新のグラスコックピットだ。

ジムニー・ノマドのメーター。
Gクラスのメーター。

また、駆動方式の切り替えもジムニー・ノマドがレバー式なのに対し、Gクラスはスイッチ式「オフロードコックピット」となっている。

ジムニー・ノマドの駆動方式切り替えレバー。
Gクラスの「オフロードコックピット」(中央)。
ジムニー・ノマドのフロントシート。
ジムニー・ノマドのリヤシート。
Gクラス(AMG G63)のフロントシート。
Gクラス(AMG G63)のリヤシート。

室内空間やラゲッジルームはボディサイズの差がそのまま出てくるので、広さを比べるのはフェアではない。なお、リヤシートはGクラスが6対4分割なのに対し、ジムニー・ノマドは4名乗車のためシートの分割は5対5になっている。

ジムニー・ノマドのラゲッジルーム。バックドアは右ヒンジの左開き。ボディに対する開口面積が広く、タイヤハウスの張り出しも少ないので、使い勝手が良さそうだ。
Gクラスのラゲッジルーム。バックドアはジムニー・ノマドとは逆となる左ヒンジの右開き。元々が大きいので問題はないがボディに対する開口面積はやや控えめか。タイヤハウスの張り出しも大きいせいかスペース的には縦長な印象。

価格差は最大で10倍以上

ジムニー・ノマドの価格は265万1000円(MT)/275万円(AT)と発表された。昨今どんどん上昇していく自動車価格の中にあっては良心的な設定だ。一方、オフローダーの最高級車であるGクラスは1824万円〜2820万円。その差は約7倍、最大で約10倍以上にもなる。

ジムニー・ノマドG450dAMG G63
265万1000円(MT)/275万円(AT)1824万円2820万円
価格表

本格オフローダーであることを除けばそもそも比較対象になるような両車ではないことは再三述べてきてはいるが、ジムニー・ノマドがGクラスの10分の1の価格で手に入るのは非常にコストパフォーマンスが高いとも考えられる。

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