連載

自衛隊新戦力図鑑

艦艇から水面へ、ふたつの発進方法

全長8mの大きな箱型の車体が水面に勢いよく飛び込み、激しい水しぶきがあがる。ここは崎辺分屯地に設けられた入水点検槽。水上航行時の安全に関する機能点検を行なうために設けられた全長60m、幅15m、最大水深4.4mの巨大な水槽だ。

「AAV7」は、水陸両用作戦(いわゆる上陸作戦)部隊である「水陸機動団」(団本部:佐世保市相浦駐屯地)の創設にあわせて導入された水陸両用の戦闘車両であり、水陸機動団に所属する「戦闘上陸大隊」(本部:佐世保市崎辺分屯地)に配備されている。速度は地上で70km/h、水上でもウォータージェット推進により13km/hを発揮できる(水上を履帯で進むことも可能。その場合は7km/h)。

AAV7人員輸送型(P型)。銃塔に12.7mm機関銃と40mm擲弾発射機を備えている。乗員は安全のため装甲帽(ヘルメット)を被り、浮帯(膨張式のフローティングベスト)を着用する。また、水面は太陽の反射が激しいためアイウェアを使う隊員も多い(写真/筆者)
AAV7の上面には3つのハッチがある。車体右側、銃塔の上が車長席、車体左側前方が操縦手席。操縦手席の後方はタスクコマンダー席と呼ばれ、乗車した普通科部隊の分隊長や小隊長が周囲を確認するために使用する(写真/筆者)

さて、冒頭の派手なダイブだが、決して「写真映え」狙いのアトラクションではない。これは輸送艦(揚陸艦)からの発進方法のひとつなのだ。今回、入水点検槽では「スプラッシュ発進」と「ウェットウェル発進」というふたつの発進方法を展示していただいた。AAV7は艦艇のウェルデッキから海上へと発進する。ウェルデッキとは、艦内に設けられた「ミニ港湾施設」であり、注水することで小型艇を出入渠させることができる。

アメリカ海軍揚陸艦のウェルデッキ。日本では輸送艦「おおすみ」級がこの能力を持つ。注水して船を出入りさせることができるが、AAV7のような水陸両用車は後部ランプから直接海面にダイブすることもできる(写真/アメリカ海軍)

注水した状態を「ウェットウェル」と言い、穏やかに水上へと発進することができる。これが「ウェットウェル発進」だ。一方で、ウェルデッキに注水せず、艦尾のランプ(扉)から水面にダイブする発進方法が冒頭の「スプラッシュ発進」なのだ。

ゆっくりと水槽に入っていく「ウェットウェル発進」(写真/筆者)
日米共同訓練において、アメリカ揚陸艦のウェルデッキから海面へとスプラッシュ発進する戦闘上陸大隊のAAV7(写真/アメリカ海軍)

乗員たちは元戦車乗り

あらためて、AAV7について説明しよう。今回取材したのは、もっとも一般的な「人員輸送型」であり、小銃分隊(およそ10名程度)などの輸送に用いられる。乗員は車長と操縦手、後部キャビンで乗車人員を掌握するリアクルーの3名だ。AAV7は機甲科の装備であり、乗員たちはみな元戦車乗りだ。案内してくれた第1中隊長も、以前は北海道で90式戦車の指揮をしていたという。

また、同車の水陸両用能力は、戦闘以外での活用も期待されている。1月に開催された大規模防災訓練「南海レスキュー2024」では、AAV7が洋上の輸送艦から海岸に救援物資を陸揚げした。2024年1月の能登半島地震では道路の寸断が、被災地救援を困難なものとしたが、AAV7の持つ海上からのアクセス能力を活用しようという考えだ。

大規模防災訓練「南海レスキュー」では、AAV7が海岸に上陸して救援物資を陸揚げした。陸路が寸断された状況で、海から孤立集落に人員・物資を送り込むことが期待されている(写真/水陸機動団提供)

島国である日本にとって、防衛・防災の両面でAAV7が活躍する場面は多いと言えるだろう。さて、来週日曜日更新の記事では、引き続きAAV7について、戦闘上陸大隊長へのインタビューを掲載したい。ご期待ください。

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