独自の世界観を表現する日産最上級ミニバン「日産エルグランド」【最新ミニバン 車種別解説 NISSAN ELGRAND】

3代目の現行モデルの登場から15年。マイナーチェンジや仕様変更を経て、24年には「インテリジェント・アラウンド・ビュー・モニター」などを標準装備し安全面を向上させた「日産エルグランド」。セダンに近い操作性や視界の開放感などは他にはない個性で、日産の最上級ミニバンとしての大きな存在感は変わっていない。
REPORT:渡辺陽一郎(本文)/塚田勝弘(写真解説) PHOTO:神村 聖 MODEL:渡川もも

走行安定性や快適な乗り心地 セダン的な運転感覚も好印象

エルグランドはトヨタのアルファード/ヴェルファイアに相当する日産の最上級ミニバンだ。全長は4965㎜、全幅も1850㎜に達する。それでも過剰な威圧感を生じないのは、フロントグリルの形状が控えめで、全高もアルファード/ヴェルファイアに比べて120㎜低いからだ。販売面では不利だが、周囲の人やクルマに対して気を遣いたいドライバーに適する。

エクステリア

低めの全高で3列化を成立させ、重心の低い走りと居住性、積載性を両立。同時に、写真からも1列目から後方に向かうほど床面が高くなっているのが分かる。助手席側のワンタッチオートスライドドアは全車標準で、運転席側は「250ハイウェイスターS」を除き標準となる。
背高系とは一線を画すローフォルムが特徴。「アーバンクロム」は、専用の漆黒フロントグリルやクリアブラックタイプのリヤコンビランプを装着する。最小回転半径は5.7m。

運転席に座ると、インパネの上端やサイドウインドウの位置が高くじる。囲まれ感が伴ってセダンに近い。良好な視界によって開放感のあるセレナとは異なり、エルグランドの世界観を表現している。注意したいのは2列目シートだ。売れ筋の7人乗りは2列目がセパレートタイプで、長いスライド機能を使って足元空間を広げたり、後方へリクライニングさせてリラックスできる。姿勢の自由度は大きいが、2列目のシートベルトは、セレナなどと違って背もたれから引き出す方式ではない。1列目と同様にピラー(柱)から引き出すため、2列目のスライド位置や着座姿勢によっては、セレナなどよりもシートベルトによる乗員のホールド性が低下する。エルグランドの発売は2010年だから、設計の古さが散見される。

乗降性

3列目は床と座面の間隔が足りず、座ると膝がもち上がる。それでも足元空間は相応に広い。身長170㎝の大人6名が乗車したとき、2/3列目の膝先空間をそれぞれ握りコブシふたつ少々に調節できる。3列目は格納方法もほかのミニバンとは異なるなり、背もたれを前側に倒す方式だ。格納操作は簡単だが、左右に跳ね上げたり、床下に収納する方式に比べると、荷室に段差ができる。格納された3列目によって荷室の床も高くなるから、2列目に乗員が座った状態では自転車などを積みにくい。

インストルメントパネル

翼を広げたようなインパネは、堂々たる雰囲気が漂う一方で、ステアリングも含めてハードスイッチが多く、古さは否めない。5インチメーターは、青いリング照明が目を惹く。

パワーユニットは2.5ℓ直列4気筒と3.5ℓV型6気筒エンジンを用意する。ミニバンで人気の高いハイブリッドは選べない。売れ筋の2.5ℓは、発進してから3000rpm付近までの実用回転域で駆動力が物足りない。CVT(無段変速AT)の少し甲高いノイズも耳障りに感じる。峠道を走ったり車線変更を行なうと、ボディの重さを意識させるが、ミニバンでは全高が少し低く安定性に不満はない。乗り心地も突き上げ感が抑えられ、重厚とは言えないが、Lサイズミニバンとしての快適性を備える。

居住性

以上のようにエルグランドは、2列目のシートベルト、3列目の居住性と格納方法、2.5ℓエンジンの動力性能、ハイブリッドのe-POWERを選べないグレード構成などに不満がある。しかし威圧感を抑えたフロントマスクやボディスタイル、運転席に座ったときに感じるセダン的な世界観には、アルファードやヴェルファイアとは異なる魅力が伴う。販売店ではセレナに最上級の「e-POWER ルキシオン」を設定して、(設計の古くなった)エルグランドらの乗り替えを狙ったが、思いどおりにならなかった。

うれしい装備

キャプテンシートは、シートバック中折れ機能、アームレスト、オットマンなどが備わり、オプションの後席モニターでリラックスタイムも享受できる。頭上のツインサンルーフは、全車にオプション。
月間販売台数     133台(24年5月~10月平均値)
現行型発表    10年8月(一部仕様変更 24年3月)
WLTCモード燃費  10.0 km/l ※「250」系のFF車

ラゲッジルーム

「エルグランドは日産の最上級ミニバンで、お客さまは一種のプライドをもって使われている」と言う。現行型の世界観とプライドを受け継いで、フルモデルチェンジを行なって欲しい。

※本稿は、モーターファン別冊 ニューモデル速報 統括シリーズ Vol.164「2025年 最新ミニバンのすべて」の再構成です。

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