ピックアップトラックは荷物を積むだけじゃなくて走りも特上品!

車両実験部でテストドライバーのインストラクターも担当する小出一登さんは、タイを中心としてアセアン各国を巡る2024年のアジアクロスカントリーラリー(AXCR)に出場した。AXCRは山岳路、密林地帯、泥濘路、川渡りなどの過酷なオフロードコースを走るため、走破性と耐久性が問われる。三菱自動車工業が全面的にバックアップする「チーム三菱ラリーアート」は、この過酷なステージに4台のトライトンを送り込んだ。

タイを中心としたアセアン各国が舞台となるアジアクロスカントリーラリー。2024年は8月11日-17日にわたって開催された。三菱はT1仕様=改造クロスカントリー車両のトライトンを投入し、田口勝彦選手が総合5位となった。
左端が社員ドライバーとして参戦した小出一登さん。社内テストドライバーとして、パジェロやランエボを鍛え上げた経験を持つ。初出場となったAXCR 2024では24位で見事に完走を果たした。

このうち3台はトレッドを拡大して悪路走破性と高速域での安定性を引き上げるとともに、リヤサスペンションはリーフスプリングからコイルスプリングに変更。荒れた路面での追従性を高めた。2.4L直列4気筒ディーゼルエンジンにも手が入っている。3台を生き残らせるためのサポート役を務める小出さんがドライブしたトライトンはアップグレード前の仕様で、要するに、より市販状態に近かった。

あるステージで、前を走るトライトンが急勾配のガレ場でスタックしてしまった。ドライブシャフトを折ってしまい、2WD状態になったのが立ち往生の原因だった。道幅は1台分しかない。後ろを見ると、成り行きを見守る後続のエントラントが数珠つなぎになっていた。小出さんはウインチを使ってスタックしたトライトンを引っ張りだして道路の外に出し、後続車を通過させると、今度は牽引ロープに付け替えて2トンを超えるトライトンを引っ張ってガレ場を脱出した。

2024年仕様のトライトンは、、大排気量のライバルに対応すべく動力性能を強化。それに合わせて、トルク容量の大きい競技用トランスミッションを新採用した。また、トレッドの拡大や4リンクリジッドのコイルスプリング化など、足まわりにも改良のメスが加えられた。

トライトンの4WDシステムはスーパーセレクト4WD-II(SS4-II)である。センターデフにトルセンタイプを採用。前後の駆動力配分は40:60の固定である。これにブレーキAYC(アクティブヨーコントロール)を組み合わせ、走破性と操縦安定性の両立を図っている。

駆動方式のモードは2H(後輪駆動)、4H(フルタイム4WD)、4HLc(直結4WD・センターデフロック)、4LLc(ローギヤ直結4WD・センターデフロック)の4つを設定している。4Hは三菱自動車独自の技術だ。センターデフをロックしない状態なので、前後輪の差回転を許容する。そのため、乾燥舗装路でもタイトコーナーブレーキング現象(曲がるのを拒もうとするように感じる動きが出るし、大回りになる)の発生がなく走ることができる。

2H=2WD(後輪駆動)
4H=フルタイム4WD
4HLc=直結4WD(センターデフロック)
4LLc=ローギヤ直結4WD(センターデフロック)

急勾配のガレ場でトライトンを牽引する際は、最も駆動力の出る4LLcを選択した。2トンを超えるトライトンを引っ張り上げるのだから、1速全開である。「2分くらい踏みっぱなしだった」と小出さん。「クルマも岩も(強い駆動力で)飛ばされちゃうんですけど、アクセルを抜いたら終わるんで、とにかく踏みっぱなしでした。道が狭いのでドアが木にあたったりしましたが、それでも抜かずに走りきりました」

小出さんが操るサポートカー役のトライトンは、痛手を負ったトライトンを無事に引き上げた。すると、ガレ場登りを諦めてバイクを捨て、道の横でぐったりしていたライダーたちが立ち上がり、歓声を送ってきたという。それほど過酷な状況だったということだ。この話を隣で聞いていたのは、トライトンの開発責任者を務める戸邊哲哉さんである。「そこまで過酷な状況は想定して開発していませんでしたが、低速で全開でずっと負荷をかけても冷却と熱害が持たないといけない。そうした相当厳しい試験は社内で行なっています」と説明してくれた。

総走行距離2075.54km、そのうち競技区間は939.58kmという過酷なAXCR。タフなラリーを戦い抜くために鍛え上げられたトライトンの勇姿は、素直にカッコいい。

AXCRでは、狭い林道や川の土手を160km/h程度で走り抜ける状況があるという。160km/hといえば、1秒間に約44m進むスピードだ。するとどうしても、ぽっかり空いた穴を見落とすことがあるという。「あっ」と思ったら最後、ドカンと衝撃がくる。「脚がもげたんじゃないか」と思うほどそうだ。外でそのシーンを見ていたら大事故に思えるほど衝撃的な絵面だという。だが、アライメントが多少ずれることはあっても、走行不能には陥らないのがトライトンである。

「先に壊れるのはトライトンじゃなくて人間のほうですね」と小出さん。「クルマは平気です」と戸邊さんは付け加えた。「社内でそういう試験をしていますから。きっと過去に痛い思いをした先達が、『これをクリアしないと世に出せない』と、厳しい試験を設けたのだと思います。私が会社に入ったときにはすでにありましたから」

トライトンのタフネスさの土台となっているのが、強固なラダーフレーム。18年ぶりに新設計されたもので、剛性は飛躍的に高まっている。
4N16型ディーゼルターボエンジン。市販モデルは2.4Lの排気量から150kWの最高出力と470Nmの最大トルクを絞り出す。

絶妙な制御のおかげで安心感がハンパなし。上級者は積極的に走りが楽しめる!

という話を先に聞いて、雪に覆われたオフロードコースにトライトンで繰り出した。もう大船に乗った気分である。雪どころかその下の土まで乱暴に引っかかれて混ざり、ドロドロぐちゃぐちゃになったタイトコーナーだろうと、見上げるような急勾配だろうと、不安は感じなかった。きっと、感覚がマヒしていたんだと思う。どんな逆境に陥っても絶対にヤラレない映画の主人公にでもなったような気分だ。

だけど、現実に引き戻されるようなことはなかった。アクセルペダルを踏んで、ステアリングを切ると、ぬかるみだろうが、滑りやすい路面だろうが、何の戸惑いも見せずにトライトンは進みたい方向に、出したいスピードで動いてくれる。ちょっとためらいがあるかなと思ってメーターを見ると、各輪の駆動力や制動力を制御してスタックせず前に進むよう制御が介入しているのがわかる。しかし、止まりそうになったら少しアクセルを強く踏めばオーケー。難所を難所に感じさせないのがトライトンだ。

2024年2月から日本での発売が始まったトライトンは3代目。標準仕様の「GLS」と、ベッドライナーや荷室サイドのスタイリングバーが備わる上級仕様の「GSR(写真)」をラインナップする。
三菱トライトン GSR

ドライブモードはNORMAL、駆動は4Hで走り始め、NORMALと4HLc、NORMALの4HとSNOWの4Hも試してほしいと提案されたが、実際はNORMALの4Hで事足りてしまった。センターデフがロックされる4HLcに切り換えると、姿勢が安定して走行ラインのぶれがなくなる印象。キビキビとした動きが気持ちいい。AYCの介入が穏やかになるスノーモードは、「雪道で曲がりすぎて不安になる」と感じるケースで使ってみるといいだろう。

雪道オフロードを堪能した後で、同じコースを走る小出さんのトライトンに同乗させてもらった。小出さんの豪快な走りに比べたら、筆者の走りはヨチヨチ歩きである。もっと速いスピードでタイトコーナーに進入しても、小出さんが操るトライトンはスパッと安定した姿勢で向きを変える。筆者などはトライトンが持つポテンシャルのほんの一部を引き出したにすぎないことを実感した。トライトンの手のひらの上で遊ばされている感じだが、だとしたらトライトンの手のひら、どんだけデカイんだよ、という話である。恐るべし、トライトン。

こちらは小出さんがステアリングを握って疾走するトライトン。小出さんの腕前も凄いけど、激しい走りでもまったくへこたれないトライトンも凄い。
三菱トライトン GLS