ジムニー・ノマドとジープ・ラングラーは意外に似てる?踏破力はどっちが上?本格オフローダーを数字と写真で比べてみる

インドなど海外ではすでに発売されていたスズキ・ジムニーの5ドアモデルが、ついに日本でも「ジムニー・ノマド」として発表された。今や貴重な存在となった本格的なオフローダーだけに、その存在は唯一無二と言っていい。しかし、あえて"ホンモノ"のオフローダーとして長い歴史と不動の人気を誇るジープ・ラングラーと比べてみたい。
PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)/神村 聖(KAMIMURA Satoshi)/STELLANTIS

待望の5ドア版ジムニーは発表4日で受注停止の大人気

2025年1月30日に日本発売が発表されたジムニー(シエラ)の5ドアモデル、ジムニー・ノマド。すでにインドを中心に各国で販売されており、日本導入は多くのユーザーが待ち侘びていただけに注文が殺到し、受注台数は5万台を数え月間1200台の販売目標(=輸入台数)を大きく上回り受注停止を余儀なくされた。

ジムニー・ノマド

実際、このクラスの本格オフローダーは他になく、実質的な独占市場。世界的SUVブームの渦中にあって本格オフローダー自体の車種も少なく、メルセデス・ベンツGクラス、ランドローバー・ディフェンダー、ジープ・ラングラー、トヨタ・ランドクルーザーシリーズ(レクサスLX、GX)といった大型のプレミアムモデルばかりだ。

ジープ・ラングラー(アンリミテッド・ルビコン4xe)

そこで、本格オフローダーとしてその起源を第二次世界大戦まで遡るジープから、特にオフロード走破性を重視したラングラーと比較してみることにした。サイズはもちろん市場もユーザー層も全く異なる両車を、本格オフローダーというジャンルで比べてみよう。

ジープ・ラングラー(アンリミテッド・ルビコン4xe)

ボディサイズを比べてみる

車格もサイズも全く異なる両車だけにバイヤーズガイド的な比較の意味は無いのだが、丸型ヘッドライトに縦スリットのフロントグリル、角型のオーバーフェンダーとスペアタイヤを備えたスクエアボディといったスタイルの類似点は多い。

(※縮尺は参考)

全長では約100cm、全幅は約25cm、全高は約12cmジムニーノマドがコンパクトだ。特に全幅は軽自動車のボディにオーバーフェンダーを装着しているために、キャビンスペースベースで考えればその差はさらに大きく、ジムニー・ノマドの後席は2名掛けで乗車定員は4名となっている。

(※縮尺は参考)

限られたスペースでの効率的な車内スペースの確保とオフロード踏破性を確保するため、ジムニーシリーズは前後のオーバーハングが極めて短く、ジムニー・ノマドもそれは変わらないが、5ドア化によりホイールベースはジムニー・シエラから340mm延長され2590mmとなった。
とはいえ、ラングラーの3010mmに比べれば410mm短く、最小回転半径も50cmの差がある。

(※縮尺は参考)

いかにもロングホイールベースに見えるラングラーだが、ジムニー・ノマドのホイールベースが全長の66.5%なのに対しラングラーは61.8%と、比率的にはジムニー・ノマドの方がロングホイールベースなのだ。ただし、ラングラーはフロントバンパーが大きく張り出している点 を考慮しておきたい。

車名ジムニー・ノマドラングラー・アンリミテッド・ルビコン
全長3890mm4870mm
全幅1645mm1930mm
全高1725mm1850mm
ホイールベース2590mm3010mm
トレッド前:1395mm前:1600mm
後:1405mm後:1600mm
車両重量5速MT:1180kg2050kg
4速AT:1190kg
最小回転半径5.7m6.2m
乗車定員4名5名
ボディサイズ等諸元

オフロード踏破性を数字で比べてみる

ジムニー・ノマドとラングラーは共に伝統のラダーフレームを採用し、堅牢さと高いオフロード踏破力を備えている。踏破力を示す数字としてフロントの「アプローチアングル」、リヤの「デパーチャーアングル」、ホイールベースの「ランプブレークオーバーアングル」の3アングルに「最低地上高」と合わせた4つが挙げられる。

ジムニー・ノマド

ジムニー・ノマドは、
アプローチアングル:36°
デパーチャーアングル:47°
ランプブレークオーバーアングル:25°

最低地上高:210mm
となっており、コンパクトなボディによる前後オーバーハングの短さが優れたオフロード踏破性を想起させる。ただし、ランプブレークオーバーアングルのみホイールベースの延長によりジムニー・シエラの28°から悪化したが、これでも十分な数値だ。

ジープ・ラングラー(アンリミテッド・ルビコン)

対してラングラー(アンリミテッド・ルビコン)は、
アプローチアングル:50°
デパーチャーアングル:43°
ランプブレークオーバーアングル: 33°

最低地上高:200mm
と圧倒的なアプローチアングルとランプブレークオーバーアングルを誇り、オフロード踏破性へのこだわりを感じさせる。ジムニー・ノマドより低い最低地上高でこの3アングルを実現しているのはさすがと言えるだろう。逆にジムニー・ノマドはデパーチャーアングルではラングラーを上回っており、ジムニー・ノマドの実力を裏付けている。

サスペンションは両車ともオフロード踏破性を重視した前後リジッドアクスル+コイルスプリングという質実剛健な設定。高級化が進むオフローダーにあって、前後ともリジッドアクスルを採用しているのは今や貴重だ。

ジムニー・ノマドのフロントアクスルとサスペンション。前後デフとプロペラシャフトは運転席側にオフセットされている。
ジムニー・ノマドのリヤアクスルとサスペンション。前後とも3リンクリジッド+コイルスプリング。
ラングラーも前後リジッドアクスル+コイルスプリングという設定はジムニー・ノマドと同様。
ジムニー・ノマドと異なるのは、プロペラシャフトがオフセットされているのがフロントのみという点。

タイヤは両車の性格を大きく違えており、SUV向けコンフォートタイヤのブリヂストンDUELER H/L852というオンロード寄りのタイヤを装着するジムニー・ノマドに対し、ラングラーはBFグッドリッチのMud-Terrain T/Aというオフロードタイヤを装着している。

ジムニー・ノマドのタイヤサイズは195/80R15で、撮影車両はブリヂストンDUELER H/L852を装着していた。
ラングラー(アンリミテッド・ルビコン)の撮影車は255/75R17サイズのBFグッドリッチMud-Terrain T/Aを装着。
車名ジムニー・ノマドラングラー・アンリミテッド・ルビコン
サスペンション前後:3リンクリジッド前後:リジッド
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク前:ベンチレーテッドディスク
後:ドラム後:ディスク
タイヤサイズ195/80R15255/75R17
アプローチアングル36°50°
デパーチャーアングル47°43°
ランプブレークオーバーアングル25°33°
最低地上高210mm200mm
足回り及び踏破力諸元

パワートレーンを比べてみる

ジムニー・ノマドはジムニー・シエラと同じK15B型1.5L直列4気筒DOHC16バルブエンジンを搭載。エンジンを縦置きとしたFRベースに機械式副変速機を備えたパートタイム4WDを採用し、2輪駆動と4輪駆動に加え4輪駆動には低速用ギヤの「4L」を用意する。トランスミッションは5速MTと4速ATだ。過給器やハイブリッド、フルタイム4WDなどの設定はなく、極めてシンプルな構成となっている。

ジムニー・ノマドのエンジンルーム。直列4気筒エンジンを縦置きにレイアウトする。
5速MT
4速AT
駆動方式切り替えレバー

ラングラーは「4xe」というデュアルモーターのプラグインハイブリッド車を加えたが、その4xeも含めてN型2.0L直列4気筒DOHCターボエンジンを搭載している。また、現在はラインナップから消えてしまったが、G型3.6L V型6気筒エンジンもラングラーのパワーユニットとして長く人気があった。

ラングラーシリーズの現在の主力エンジンである2.0L直列4気筒DOHCターボ。
現在はラインナップから消えている3.6L V型6気筒エンジン。いずれも縦置き。

トランスミッションは8速ATのみで、最新モデルでは「ロックトラックフルタイム4×4システム」を採用。フルタイム4WDと銘打ってはいるが、2WD走行も可能になっているのが面白い。

8速ATのシフトレバー(右)と駆動方式切り替えレバー(左)。センターコンソールの赤いパネルにはデフロックスイッチなどが配置される。
2輪駆動モードはもちろん、4WDもオートやパートタイムに加え、当然低速用の「4L」も用意されており、ジムニー・ノマドより複雑。

燃費に関してはジムニー・ノマドといえど最近のクルマとしてはあまり良くはない。特にATは4速である点が燃費的には厳しくなっているのだろう。
ラングラーは2tという車重を考えれば妥当なのかもしれないが、せっかくのプラグインハイブリッドはさらに重い2.6tということもあり、ハイブリッドの省燃費性は完全に相殺されている。まして、3.6Lエンジンは現代的な燃費とはいえずラインナップ落ちもやむなしか。
ただし、ジムニー・ノマドもラングラーもレギュラーガソリンなのはまだ救いではある。

車名ジムニー・ノマドラングラー・アンリミテッド・ルビコン
エンジンK15B型N型G型
直列4気筒DOHC16バルブ直列4気筒DOHC16バルブターボV型6気筒DOHC24バルブ
レイアウトフロント縦置きフロント縦置きフロント縦置き
排気量1460cc1995cc3604cc
最大出力102ps(75kW)/6000rpm272ps(200kW)/5250rpm284ps(209kW)/6400rpm
最大トルク130Nm/4000rpm400Nm/3000rpm347Nm/4100rpm
モーター交流同期電動機×2(4xeのみ)
最大出力63ps(46kW)+64ps(47kW)
最大トルク54Nm+255Nm
トランスミッション5速MT/4速AT8速AT8速AT
駆動方式パートタイム4WD(FR)フルタイム4WDフルタイム4WD
WLTC燃費5速MT:14.9km/L9.2km/L8.0km/L
4速AT:13.6km/L8.6km/L(4xe)
ドライブトレイン諸元

インテリアを比べてみる

ジムニー・ノマドのインテリアは基本的にジムニー/ジムニー・シエラを踏襲しており、使い勝手の良さを重視したオーソドックスなレイアウトが懐かしさすら感じさせるほど。デザインや作りも華飾を排し実用本意なものであり、その質実剛健さがスズキらしくもあり、本格オフローダーらしい魅力でもある。

ジムニー・ノマド(4速AT)

対してラングラーは近代的にブラッシュアップしたデザインながらそのレイアウトはやはりオーソドックスで、どこに何があるのか把握しやすい。
両車とも立ち気味のフロントウインドウと短いダッシュボードで前方視界が良いのも実にオフローダーらしい。

ラングラー(アンリミテッド・ルビコン)

メーターも両車とも速度計と回転計を物理指針とした丸型二眼メーターで、その間に液晶ディスプレイを配置。丸型のエアコン吹き出し口(ジムニーは角型と併用)、丸型のエアコン操作系(ラングラーは角型も併用)など、デザインこそ違えと類似点が意外と多い。

ジムニー・ノマド(4速AT)
ラングラー(アンリミテッド・ルビコン)

インテリア自体もそうではあるが、シートは特に車両の価格差を感じさせるのは仕方のないところ。ジムニー・ノマドの撥水加工(座面・背もたれ)ファブリックに対し、ラングラーはナッパレザー(アンリミテッド・ルビコン)も設定している。

ジムニー・ノマドのフロントシート。
ジムニー・ノマドのリヤシート。
ラングラー(アンリミテッド・ルビコン)のフロントシート。
ラングラー(アンリミテッド・ルビコン)のリヤシート。

室内空間やラゲッジルームはボディサイズの差がそのまま出てくるので、広さを比べるのはフェアではない。なお、ジムニー・ノマドは4名乗車のためリヤシートの分割は5対5になっているが、ラングラーは6対4分割だ。

ジムニー・ノマドのラゲッジルーム。バックドアは右ヒンジの左開き。5ドア化によりラゲッジルームの奥行きはジムニー・シエラから350mmも延長され590mmを確保した。
上段が上開きのハッチバックドア、下側が右ヒンジの左開きのバックドアになっている分割式リヤゲート。荷室はスクエアで高さもあり、使い勝手が良さそうだ。

価格を比べてみる

ジムニー・ノマドの価格は265万1000円(MT)/275万円(AT)。インド生産とはいえ、ここのところの円安による為替や輸送コストを考えるとかなり頑張った価格設定で、発表会で鈴木俊宏代表取締役社長が「安すぎるのではないか」と言ったほど。

ジムニー・ノマドは月間販売目標=輸入台数が1200台のところ5万台を受注。単純計算で最遅納期が4年となるだけに、市場でのプレミア価格化が懸念される。

かつてはその性能や車格の割に安いことも人気のひとつだったラングラーだが、やはり昨今の円安の影響やクルマの高級化で価格が上がっており、最安グレードの「アンリミテッド・スポーツ」が799万円とギリギリ800万円を切る設定だが、中間グレードの「アンリミテッド・サハラ」が839万円、最上級グレードの「アンリミテッド・ルビコン」は889万円となる。さらにプラグインハイブリッドの「アンリミテッド・ルビコン4xe」ともなると1030万円と大台越えだ。

写真の「アンリミテッド・ルビコン」3.6L V6モデルは、なんと658万円だった(2021年)。

本格オフローダーであることを除けばそもそも比較するような両車ではないことは再三述べてきてはいるが、やはりジムニー・ノマドのコストパフォーマンスは非常に優れている。逆に、サイズからくる取り回しの難しさを除けば、ジムニー以上のオフロード踏破性を織り込んだスペックをうかがわせるラングラーが800万円台というのは、このクルマ高騰時代にあってはまだ妥当なのかもしれない。

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