ほぼ異種格闘技? ジムニーノマドと各社代表コンパクトSUVの五番勝負の行方は!?

発売と同時に大人気となり、瞬く間に受注停止となってしまったスズキのジムニーノマド。もともとジムニーは唯一無二のコンパクト・クロカン4WDとして確固たる地位を築いており、現状、その派生モデルであるジムニーノマドにも直接のライバルは存在しない。しかし、今回はそれを承知で、あえて5ドアの人気コンパクトSUVと比較、検証してみた。

アッという間に受注停止の大好評を博しているスズキのジムニーノマド。そもそもジムニーが世界的にも唯一無二、孤高のコンパクト・クロカン4WD車だから、「“ライバル車”など存在しない」。ゆえにその派生車種であるジムニーノマドにもライバルは不在…と言ってしまっては元も子もなく話は終わってしまうので、今回、あえてジムニーノマドに、同じ5ドアの人気コンパクトSUVと“対決”してもらう事にしてみた。題してジムニーノマド五番勝負! なお、最後にマルバツ式評価の比較一覧表も添付しているので、手っ取り早く知りたい方はそちらをご覧あれ。

(編注:配信先様の仕様によっては、一覧表をご覧いただけない場合がございます。その際はお手数ですが、配信元記事をご確認くださるようお願いいたします)

ジムニーノマド シート
ジムニーノマド ラゲッジ

一番手:フロンクス(スズキ)

まずは同じスズキ車同士の同門対決、それも同じくインドに出自を持つ者同士だ。スズキ・フロンクスはクーペスタイルのコンパクトSUVで、日本でも初代モデルが2020年まで発売されていたバレーノの2代目モデルがベース。日本では2024年に発売され、SUVらしいデザインと扱いやすいサイズ感を両立しながら、アダプティブクルーズコントロールやヘッドアップディスプレイなどの先進装備を備え、日常使いからレジャーまで幅広いニーズに対応するモデルとして好評を博している。

フロンクスには4WD車の設定もあるが、そもそもがラダーフレーム構造ではなく、最低地上高も後述のヤリスクロス同様に170mmと低いため、ハードなオフロード走行には適していない。従って未舗装路や山道の走破力ではジムニーノマドに及ばないことは言うまでもない。また、フロンクスは新しい車種のため、ジムニー・シリーズのような長年のオフロード愛好家からの支持は薄く、カスタムパーツの充実度でも譲る。

フロンクス シート
フロンクス ラゲッジ

しかし、クロスオーバーSUVであるフロンクスのサスペンション設定はオンロード寄りのため、ジムニーノマドに比べれば高速走行時の安定性が高く、ロールも少ない。また、エンジンは同じK15型ではあるものの、フロンクスはマイルドハイブリッド車であり、さらに車重もジムニーノマドより軽いことから、燃費はフロンクスに軍配が上がる。室内の広さも、高さは両者同じ1200mmながら、長さや幅についてはジムニーノマドの長さ1910mmと幅1275mmに対し、フロンクスが長さ1975mmと幅1425mmと確実に広く、リヤシートの居住性や荷室の広さもジムニーノマドより勝っている。

少なくとも日本では、非日常性や個性の強さにおいてはジムニーノマドは魅力的だが、日常性においてはフロンクスに軍配が上がるだろう。

二番手:WR-V(ホンダ)

続いては同じインドに出自を持つ者同士、ホンダ・WR-Vだ。WR-Vはインドや南米市場向けに登場したコンパクトSUVで、日本市場には2024年に導入された。1.5L DOHC i-VTECエンジンとCVTを組み合わせ、FF専用設計ながら195mmもの最低地上高やホンダセンシングを標準装備し、シティユースからレジャーまで幅広い用途に対応するモデルとして好評を博している。

WR-Vもまたフロンクス同様にモノコックボディのため、ラダーフレーム構造を持つジムニーノマドよりオフロード耐久性は低い。また、FFのみの設定で、雪道や未舗装路での踏破性は劣る。デザインもSUVらしくはあるものの、シティ派のスタイリッシュな方向性にあるため、ジムニーノマドのような本格クロカンを感じさせるタフ&ワイルドな個性には欠ける。さらに、コンパクトと言っても全長は4325mmと今回のライバル車中で最長、全幅1790mmも2番目の広さと、比較的サイズが大柄な点がマイナスに働くユーザーもいるかもしれない。

WR-V シート
WR-V ラゲッジ

しかし、こちらもフロンクスと同様、FFベースの設計と2650mmという今回のライバル車中で最長のホイールベースゆえに市街地での乗り心地は良く、高速道路での直進安定性やコーナリング性能は優れている。それでいての最小回転半径5.2mは悪くない数字だ。また、最低地上高195mmは意外にも今回挙げたライバル車の中では一番で、それゆえFF車とは言え、相応の踏破性が期待できる。加えてリヤシートの居住性が良好で荷室も広く、日常使いでの利便性は高い。さらに1.5L NAエンジンの燃費性能はジムニーノマドより優れる。装備に目を向ければ、Honda SENSING(安全運転支援システム)が全グレード標準装備。長距離ドライブでの疲労軽減に貢献するACC(アダプティブクルーズコントロール)や車線維持支援もある。

こちらもフロンクス同様に荒野の走行といった非日常性能ではジムニーノマドに凌駕されるものの、日常の使い勝手においては軍配が上がるだろう。WR-VはテレビCMのイメージ通り、“気軽さ”や一般的な意味での“楽しさ”を備えたSUVと言えるだろう。また、とりあえず存在感のある大柄なクルマに乗りたいという人にも良い選択かもしれない。

三番手:ヤリスクロス(トヨタ)

トヨタ・ヤリスクロスは、傑作コンパクトカーのヤリスをベースに開発されたクロスオーバーSUVで、2020年に登場。日本市場ではガソリンエンジン・モデルとハイブリッド・モデルがラインナップされ、FFとE-Four(電動4WD)が選択可能。TNGAプラットフォーム(GA-B)による軽量かつ高剛性のボディと優れた燃費性能を特徴とし、安全装備としてトヨタセーフティセンスを標準装備。ベースであるヤリス同様の高い実用性を備え、都市部からアウトドアまで幅広いシーンで活躍する定番モデルだ。

ヤリスのクロスオーバーSUV版という出自から当然ながらラダーフレーム構造ではなく、最低地上高は低く、アプローチ/デパーチャーアングルもジムニーノマドに劣るため、岩場や深い泥道など本格的な悪路走破性では大きく負ける。デザインも都会的でスマートなため、それが逆にタフ&ワイルドなイメージを追求するアウトドア愛好者にとっては、ジムニーノマドのレトロ&本格4WDスタイルより魅力は薄いかも知れない。

しかしながら、ヤリスクロスはWRC(世界ラリー選手権)で戦うヤリスの眷属。パリダカやアフリカエコレース、あるいはモンゴルラリーといったレイド系ラリー(アドベンチャーラリー)競技で実績を重ねてきたジムニー一族とは方向性こそ違え、オフロード競技で鍛えられてきた実績を持つ。ヤリスクロスは比較的走行安定性が高く、オフロードでの侮りがたい実力を秘めているのだ。また、オンロードでの乗り心地が良く、エンジンノイズやロードノイズも比較的抑えられている。舗装路での快適性はジムニーノマドより高い。

ヤリスクロス シート
ヤリスクロス ラゲッジ

さらに、燃費性能も圧倒的。ジムニーノマドのWLTCモード13.6〜14.9km/Lに対し、ヤリスクロスはガソリン車でも最低17.1km/Lから、ハイブリッド・モデルでは最高30.2km/Lに達する。加えて、さすがトヨタと言うべきか、手ごろな車両価格でありながら、ご自慢の先進安全装備である“トヨタセーフティセンス(自動ブレーキ、全車速追従クルーズコントロールなど)”が標準装備だ。安全装備の充実度ではジムニーノマドに水をあける。

そこまでドップリとアウトドアにこだわっていない、そこそこの悪路を比較的安全かつ快適に走れれば良い、面倒なのはイヤだといったユーザーには、いささかマニアックなジムニーノマドよりはヤリスクロスに軍配が上がるだろう。

四番手:ロッキー(ダイハツ)*あるいはライズ(トヨタ)

ダイハツ・ロッキーはDNGAプラットフォームを採用したコンパクトSUVとして2019年に登場し、1.0Lターボエンジンを搭載するガソリンモデルと、2021年に追加された1.2L エンジン+シリーズ式ハイブリッドのe-SMART HYBRIDを採用するモデルがあり、FFと4WDが用意されている。扱いやすいボディサイズながら広い室内空間とラゲッジスペースを確保し、先進安全装備“スマートアシスト”を標準装備することで高い安全性を実現、都市部での運転のしやすさとSUVらしい力強いデザインを両立したモデルとなっている。トヨタと共同開発されたため、トヨタのライズとは兄弟車となる。

さて、ここであえてダイハツのロッキーとして取り上げたのは、これが因縁の対決となるからだ。実はロッキーには1990年から2002年まで販売された初代モデルがある。この初代モデルはジムニー同様にラダーフレーム構造で1.6Lエンジンを搭載したライト・クロカン車だった。登場時期的にジムニーの登録車版であるジムニー1000や1300、あるいはジムニーシエラのライバルとはならなかったが、ジムニーノマドが車名の一部であるノマドを引き継いだ、エスクードと覇を競った1台だ。しかし後発車でありながら、かたくなに硬派なクロカン・スタイルにこだわったこと、エスクードが5ドア版のエスクードノマドを追加しても3ドアを貫き通したことなどもあって販売は苦戦しつつ生涯を終えた。

そのロッキーがトヨタの協力を得て、今度はあか抜けたクロスオーバーSUVとして、そして最初から5ドア車として17年の時を経て現代に“転生”し、ライバルを今や遅しと待ち構える立場になったのが、現行モデルなのだ。

ロッキー シート
ロッキー ラゲッジ

さすがに今回の対決は、ジムニーノマドがそのままラダーフレーム構造を継承しているのに比べ、ロッキーはモノコックボディゆえに悪路走行時の強度に劣るのは言わずもがな。また、当然のごとく4WDモデルは用意されているが、最低地上高はジムニーノマドよりは低く、本格的な悪路走破力となると敵わない。ブランド力にしても初代モデルは熱心なオフロード愛好家に一定の認知はされているものの、初代モデルの生産中止と現行モデルの復活との間には17年の歳月が流れているため、ジムニーのようなブランド継続性には欠けており、ネームバリューは薄いと言える。

しかし、トヨタの後ろ盾を得ていることもあり、ヤリスクロス同様に燃費の良さは折り紙付きで、ガソリンエンジン・モデルでも17.4km/L、ハイブリッド・モデルでは28.0km/Lに達する。ちなみにエンジン排気量はジムニーノマドより小さい1.0Lと1.2Lだが、ターボ過給でパワー、トルク共に遜色ないレベルだ。また、これもヤリスクロス同様だが、足まわりは比較的しっかりしており、高速道路や市街地では安定感のある走行が楽しめる。加えて安全装備の充実ぶりもヤリスクロス同様。スマートアシスト(衝突回避支援システム)が標準装備、ACCや車線維持支援も搭載され、ジムニーノマドよりも先進的だ。そして本格的な悪路走行を除けばジムニーノマドと互角以上の性能でありながら、車両価格が安い点も見逃せないだろう。

ついに5ドアという同じ土俵に上がった両者だが、なかなかの名勝負。あくまでストイックにオフロード走行を突き詰めるならジムニーノマド、経済的な面でも気軽に楽しみたいならロッキーという選択になるだろうか。

五番手:レネゲード (ジープ)

最後は世界的なクロカン界のレジェンドとの対決。レネゲードはジープ・ブランドのエントリーモデルとして2014年に登場したコンパクトSUVで、フィアット500Xと共通のプラットフォームを採用しながらジープらしい角ばったデザインや伝統的な7スロットグリルを備え、日本市場ではエンジン・モデルとプラグインハイブリッド・モデルが導入されており、コンパクトなサイズ感と高いユーティリティ性で都市部からアウトドアまで幅広く活躍するモデルとなっている。しかし、ジープならではの本格的なオフロード性能を発揮する、高い悪路走破性を持つ“トレイルホーク”グレードを擁するプラグインハイブリッド・モデルのレネゲード4xeはカタログ上は別車種に位置付けられており、車両価格的にもジムニーノマドとは比較にならない高額なため、今回はノーマルなエンジン・モデルとの対比のみとした。

フィアット500Xと同じスモールワイド4×4アーキテクチャーを使用しているため、レネゲードはその外見に反してモノコック構造。ジムニーノマドのラダーフレーム構造やアプローチ/デパーチャーアングルの大きさには敵わない。また、コンパクトとは言っても全長4255mm、全幅1805mmと比較的大きく、特に全幅は今回のライバル車中で最大、全長も2番手の長さだ。最小回転半径こそとジムニーノマドと同じ5.7mだが、このサイズ感は狭い道や悪路での取り回しには不利に働くかもしれない。エンジンに目を向けると、燃費は14.3km/LとジムニーノマドのAT車よりは良いのだが、問題はハイオク仕様だという点だ。エンジン自体の性能はさておき、ガソリン代高騰の折、ハイオク仕様は二の足を踏ませる大きな要素だろう。そして問題はガソリン代だけではない。2025年2月現在の新車価格455万円は、ジムニーノマドに比べて遥かに高価であり、維持費もかさむことが十分に予想される。

レネゲード シート
レネゲード ラゲッジ

だが、レネゲードのモノコックボディの剛性の高さやサスペンションの出来の良さにより、舗装路での乗り心地はジムニーノマドよりも良く、特に高速走行時の安定性や静粛性に優れる。サイズのデータは未公表だが室内も広く、SUVとしての快適性を重視した設計になっており、内装の質感が高く、長距離移動でも疲れにくい。ラゲッジスペースも広くて積載能力が高く、日常使用のみならずアウトドア・レジャーにも過不足なく対応する。搭載された1.3Lターボエンジンもパワフルで、今回のライバル車中で随一の151ps/270Nmを誇り、高速道路や登坂路での余裕がある。また、ジープの先進運転支援システム(ADAS)が搭載され、アダプティブクルーズコントロール、車線維持支援、衝突軽減ブレーキなどが充実している点も見逃せない。

レネゲードは本格的なクロカン車ではないものの、ジムニーノマドに十分に対抗する魅力を備えている。しかし、いかんせん車両価格や維持費など、コストの面で分が悪いのは確かだろう。

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以上、代表的な5車種と“対決”を試みたが、当然ながらジムニーノマドの圧倒的なオフロード性能が際立つ。しかし日常の使い勝手やオンロード性能となると、ジムニーノマドがコンパクトSUVとしては、決して最上・最良の選択ではないこともまた理解できる。要はケース・バイ・ケース。ユーザーの主な使用目的や嗜好に最も合致したクルマこそがベストバイだ。一つ言えることは、スズキにはジムニーノマドという魅力的なクルマを、またクルマ選びの選択肢に自由に加えられる日が来るよう、ぜひ生産・販売計画を立て直していただきたいという事だろうか。

ライバル車比較一覧表

項目スズキ ジムニーノマドスズキ フロンクスホンダ WR-Vトヨタ ヤリスクロスダイハツ ロッキー (トヨタ ライズもほぼ同様)ジープ レネゲード
オフロード性能◎ ラダーフレームの本格4WD車〇 4WD車もあるが、ハードな悪路は不向き✕ FF車のみで最低地上高も低め△ 4WD車もあるが、最低地上高が低め△ 4WD車もあるが、最低地上高が低め✕ 4WD車なし、一般的なSUVレベル
燃費(WLTC)△ 13.6〜14.9km/L〇 17.8~19.0km/L(マイルドハイブリッド車) 〇 16.2~16.4km/L◎ 17.1~30.2km/L(HV車は燃費性能が高い)◎ 17.4~28.0km/L(HV車は燃費性能が高い)✕ 14.3km/L(ハイオク仕様)
舗装路での快適性△ ロードノイズが大きめ◎ 安定性が高く快適な乗り心地◎ 高速走行時の安定性が高い◎ 安定性が高い〇 乗り心地が良い◎ 高速走行性能と静粛性に優れる
安全装備〇 過不足なし〇 過不足なし◎ Honda SENSING標準装備◎ トヨタセーフティセンス装備◎ スマートアシスト標準装備〇 ADAS(先進運転支援システム)が充実
室内空間・実用性△ 5ドアで実用性は高いが基本的に狭い◎ FFベースの設計で広々◎ 特にリヤシートと荷室が広い〇 ヤリス同等のため広さはそこそこ〇 実用性が高く広い◎ 5ドア&ラゲッジスペース広め
デザイン・ブランド力◎ レトロ&本格派△ 新しいクルマのため認知度は低め△ 一般的なSUVデザイン〇 一般受けするモダンなスタイル△ 実用SUVデザインで個性は控えめ◎ Jeepブランドの伝統と個性的なデザイン
エンジン(排気量/吸気/パワー/トルク)△ 1.5L NA (102ps/130Nm)△ 1.5L NA(99~101ps/134~135Nm)○ 1.5L NA (118ps/142Nm)〇 エンジン車:1.5L NA (120ps/145Nm) / HV車:1.5L NA+モーター (91ps/120Nm)◎ エンジン車:1.2L ターボ (88ps/113Nm) または 1.0L ターボ (98ps/140Nm)/HV車:1.2L NA +モーター (82ps/105Nm)◎ 1.3Lターボ (151ps/270Nm)
価格△ 265.1〜275万円〇 254.1~273.9万円◎ 209.88~248.93万円◎ 190.7~315.6万円◎ 176.11~246.07万円✕ 455万円
サイズ(全長×全幅×全高)3890×1645×1725mm3995×1765×1550mm4325×1790×1650mm4180~4200×1765×1580~1590mm3995×1695×1620mm4255×1805×1695mm
室内サイズ(室内長×室内幅×室内高)1910×1275×1200mm1975×1425×1200mm1945×1460×1280mm1845×1430×1205mm1955×1420×1250mm未公表
最低地上高210mm170mm195mm170mm(GRスポーツのみ160mm)190mm170mm
車重1180~1190kg1070~1130kg1210~1230kg1110~1270kg980~1070kg1440kg(現行車)
ホイールベース2590mm2520mm2650mm2560mm2525mm2570mm
最小回転半径5.7m4.8m5.2m5.3m4.9~5.0m5.7m
*編注:ジムニーノマドはベンチマーク車のため、△マーク(平均的)評価が多い傾向にあります。

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