新ホンダ新型シビック【新車販売比率1%台のMTに今あえて乗る。それは正しい選択か?】

新型ホンダ・シビック6MT:パワートレーン全体の改良でMTの美点が際立つ! 肝心の走りは…?

日本国内の国産乗用車(登録車)新車販売におけるMT比率は、10年以上にわたり1%台が続いている(自販連(日本自動車販売協会連合会)調べ)。トルコンATやCVT、DCTも日進月歩の勢いで進化している中、今敢えてMT車に乗る意義はどこにあるのだろうか?

「国産乗用車(登録車)新車販売比率1%台のMTに今敢えて乗る。それは正しい選択か?」と題したこの企画、1台目は2021年9月3日に新型11代目の国内販売が開始されたホンダのCセグメントカー「シビック」。上級グレード「EX」の6速MT車で、箱根のワインディング約50kmに加え、東京都・神奈川県内の渋滞を含む一般道約100km、高速道路約200kmを走行し、その進化と真価を検証した。

REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、本田技研工業
ホンダ・シビックEX(6速MT車)
ホンダ・シビックEX(6速MT車)

それでは実際に走ってみよう。拍子抜けするほど軽いクラッチペダルを踏み込んでエンジンを始動し、ソリッドで心地良い手応えの6速MTを1速に入れてクラッチをつなき、ステアリングを切って東京・青山のホンダ本社を出発。やがて首都高速道路に入ると、そのシフトフィールに負けず劣らずソリッドな挙動に驚かされる。ただしそれは、100%ポジティブな意味ではない。

新型シビックの主なボディ強化部位。そのほか構造用接着剤の適用部位が先代の9.5倍に拡大されている
新型シビックの主なボディ強化部位。そのほか構造用接着剤の適用部位が先代の9.5倍に拡大されている

プラットフォームは先代からの流用ながら、ボディ・シャシーとも細部にわたり剛性アップとフリクション低減が図られたことで、確かに操舵レスポンスは向上し、ロール・ピッチの量・早さとも抑えられている。だがそれと引き換えに先代のしなやかさは失われ、路面の凹凸を忠実に拾うようになった。

シリンダーヘッドとターボチャージャーが一新されたL15C型直4ターボエンジン
シリンダーヘッドとターボチャージャーが一新されたL15C型直4ターボエンジン

ハイオクガソリン仕様のL15C型1.5L直4直噴ターボエンジンも先代からの流用だが、シリンダーヘッドが新設計となり、従来からの吸排気側VTC(連続可変バルブタイミング機構)に加え、新たに排気側へVTEC(可変バルブタイミング&リフト機構)が追加。ターボチャージャーも一新され、クランクシャフトとオイルパンも剛性が高められている。

なお、最高出力・最大トルクは、6速MT車に関しては182ps&240Nmという変わらないものの、最高出力の発生回転数が5500rpmから6000rpmに高められ、最大トルクは1900-5000rpmから1700-4500rpmへと低められている。

これらの変更によって全回転域でレスポンスが向上して扱いやすさが増し、同時に低回転域でのゴロゴロ音が解消されているものの、ボディ・シャシー側でも静粛性が高められたため、特に低回転域でエンジン音が聞き取りづらくなった。これはCVT車なら好ましい進化だが、6速MT車では変速タイミングを判断しにくくなるため痛し痒しと言った所か。


テスト車両は235/40R18 93Yのグッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2を装着
テスト車両は235/40R18 93Yのグッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2を装着

先代の大きな弱点の一つだった、荒れた路面でのロードノイズについても、絶対的な音量は低下したと推測される。だが、パワートレーンからのノイズも抑えられたことで、相対量はほぼ変わらないのか、体感的には大差ないように思われた。


BOSEプレミアムサウンドシステムの12スピーカーユニット
BOSEプレミアムサウンドシステムの12スピーカーユニット

とはいえ、街中や高速道路で渋滞に遭遇しても、ストップ&ゴーの繰り返しが全くもって苦にならない。操作力の軽いシフトとクラッチに、扱いやすいエンジンに静粛性の高いキャビン、さらには「EX」に標準装備されるBOSEプレミアムサウンドシステム(12スピーカー)のクリアかつフラットな音質も相まって、6速MT車ながら疲労は少なく快適に乗り切ることができた。


フロントサスペンションはストラット式、リヤサスペンションはマルチリンク式
フロントサスペンションはストラット式、リヤサスペンションはマルチリンク式

そして、この新型シビックの進化と真価をより明確に味わえるであろう、箱根のワインディングへ。ここでは走りの楽しさがより一層際立つだろうと期待していたが、それは半分当たり、半分外れた。

6速MTに関しては負荷の高い領域でも操作性に陰りが見られないどころかますます本領を発揮し、短くソリッドなシフトフィールが素早く正確なシフト操作をサポートしてくれる。ABCペダルのレイアウトも適切で、中高回転域のエンジンレスポンスも鋭いため、ヒール&トーは極めて容易だ。

一方、ハンドリングや挙動に関しては、街中や高速道路の延長線上にあると言っていい。良路では鋭敏な操舵レスポンスと引き締められた車体の動きが好感触なものの、ひとたび大きな凹凸やうねりのある路面に差し掛かると、車体が大きく跳ねるとともに接地性が失われ、特に旋回中や制動時は肝を冷やすことになる。だから必然的に、充分な余裕を持ってコーナーへ進入しなければならず、立ち上がりではアクセルペダルを積極的に踏んでいくことができない。

北米仕様ホンダ・シビックSi
北米仕様ホンダ・シビックSi

加えてブレーキは先代と全く変わらず、制動力・耐フェード性とも車重と加速性能に対し不充分。ブレーキペダルから伝わる剛性感も頼りなく、せめて北米仕様に設定されている高性能バージョン「Si」と同じ大径ローターを装着してほしいと願わずにはいられない。


【ホンダ・シビックEX】全長:4550mm、ホイールベース:2735mm、最低地上高:135mm、最小回転半径:5.7m
全幅:1800mm、フロントトレッド:1535mm
全幅:1800mm、フロントトレッド:1535mm
全高:1415mm、リヤトレッド:1565mm
全高:1415mm、リヤトレッド:1565mmキャプション入力欄

最後に、これまで触れずにいたエクステリアについても言及したい。インテリアと同様にシンプルかつ上質なデザインとなり、先代のように要素が多く子供臭い雰囲気は薄れたものの、主要コンポーネンツの多くを先代から流用しなければならなかった制約のためか、中途半端な印象を拭えない。

スタイル重視とするならばデザイン要素を減らしつつより流麗でクーペライクなフォルムとすべきであり、逆にキャビン・荷室・視界の広さや運転のしやすさを重視するならばハッチバック車らしいボクシーなフォルムとすべきだったのではないか。

ホンダ・シビックEX(6速MT車)
ホンダ・シビックEX(6速MT車)

そろそろ結論に入ろう。この新型シビックは、6速MTそのものの操作感が素晴らしく、かつクラッチやシフトレバーの操作が煩わしくなりがちな市街地や渋滞路でも、苦痛ではないどころかむしろ楽しいため、MTのデメリットは全くと言っていいほど感じられない。だからCVT車ではなく6速MT車を積極的に選ぶべきだと断言できる。

しかしながら、先代からの弱点の多くが未解決のままで、こと路面追従性に関してはむしろ退化したようにさえ感じられる。テスト車両の総走行距離が4000km弱で、テスト時の気温も10℃を下回っていたことがそう感じさせた可能性も否定できないが、ともあれ今後のさらなる洗練を期待したい。

■ホンダ・シビックEX(FF)
全長×全幅×全高:4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車両重量:1340kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1496cc
最高出力:134kW(182ps)/6000rpm
最大トルク:240Nm/1700-4500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:235/40R18 95Y
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:16.3km/L
市街地モード燃費:12.2km/L
郊外モード燃費:16.6km/L
高速道路モード燃費:18.8km/L
車両価格:353万9800円

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…