海上自衛隊は新たな艦艇整備計画を進めている。それは東西冷戦構造の時代とは違う、現代の安全保障環境に合わせた護衛艦隊の構築や島嶼防衛に注力できる態勢作りを目指すものだ。最新鋭のイージス艦「まや」型が2020年春に就役し、その後続艦となる「はぐろ」が2021年3月に就役している。
こうした主力艦の建造と就役に加え、新世代の汎用護衛艦や支援艦船の整備、まったく新しいコンセプトの艦艇開発計画などを海自は進めている。
新護衛艦建造計画を一部を紹介すると、海自は今後数年の間に「新哨戒艦」なるフネを整備する。新哨戒艦とは文字どおりパトロール艦のことで、ミサイル艇「はやぶさ」型の後継となる存在だ。
「はやぶさ」は海自護衛艦艇群にあって独特の存在感を放つものだ。沿岸の基地・港から発進、高速航行し、搭載した艦対艦ミサイルで敵艦を制圧する高速戦闘艇だ。軍用航空機の世界でいう「迎撃機」の存在と似ている。
「はやぶさ」の源流は旧海軍の高速魚雷艇にある。高速魚雷艇は沿岸域や港湾を守るもので、その現代版だ。そして本艇の前身には「ミサイル艇1号型」があり、海自は1990年代にこれを開発配備していた。
ミサイル艇1号型はいわゆる水中翼船型の船体構造を持ち高速性がウリだった。しかし低速時とのギャップが大きく、なかなか難しいメカだったそうだ。水中翼船型の船体性能はピーキーで、高速航行で敵艦へ肉薄、大型対艦ミサイルを射撃するという運用性もトンガっていた。荒れた日本海で作戦するにはイマイチだったようだ。小型の船体は長距離・長時間の任務をこなすようにもできていなかった。
1号型の後継である「はやぶさ」型はこれを改善、高性能を安定して発揮できるようになった。1万6200馬力のガスタービンエンジンでウォータージェット推進器を駆動、最大44ノット(約80km/h)の高速航行で目標に迫る。そして1号型同様、大型対艦ミサイルを射撃する。コンパクトな船体に大火力を積み、大馬力で加速してゆくさまは、まさに海の迎撃機のイメージだ。
全体の贅肉をそぎ落とし、とことんコンパクトでスリムな佇まいは、艇内各所に見て取れる。全長約50m、満載排水量約240トンの小型艇だが対艦ミサイルを運用するため、この小さな艦のなかに6畳間ほどの広さのCIC(Combat Information Center=戦闘指揮所)がある。さらに航海艦橋や機関室、機関操縦室、居住区画も設けた。多様な内容を詰め込んだ船内設計は驚きだ。ちなみに乗員の船室は3段ベッドだ。現在では潜水艦でしか見かけないものである。
艇の性質・運用上、長期航海はほぼしないから艇内には調理室はなく、厨房スペースには電磁調理器と電子レンジが置かれ、行動中の食事は拠点港から積み込まれる冷凍弁当やレトルト食品が主だという。旅客機の機内食の加熱調理や配食で使われる再加熱カートも導入されている。食堂は乗員待機室を兼ねているから食事だけのスペースというわけでもないそうだ。
乗員は艇長以下21名、これは前身の1号型の乗員28名より少ない。
「はやぶさ」では乗員1人が2~3人分の能力を求められるという。そうした背景からか本艇には海士は乗り込まず、数名の幹部と十数名の海曹でチームが組まれている。スペシャリストだけで運航されるわけだ。実際、この艦に配置される人員はその道のベテランで優秀な人材ばかりだという。
こうした特別感のある本艇も導入から20年が経ち、同型艦6隻とも艦齢を重ねたことで、2021年度末から退役が始まる。後継には冒頭で紹介した「新哨戒艦」が開発される予定だ。新哨戒艦は「はやぶさ」を大幅にサイズアップしたものになるといわれる。洋上での長期行動が可能となる1000トンクラスで、哨戒ヘリの発着を行なう飛行甲板も備えるという。これで島嶼部、南西諸島海域の守りを固めるプランだ。
沿岸部を主な活動域とすることから米海軍のLCS(littoral combat ship=沿海域戦闘艦)「インディペンデンス」のようなイメージなのかもしれない。もっとも「インディペンデンス」の3胴船体という斬新さを極めた外観の追求というよりも、その機能性の具体化を目指すものと思われる。