繊維強化プラスチック製の大型船

「掃海」とは、海中に潜み通航する艦船の脅威となる機雷を処理して、航行の安全を確保することで、この任務にあたる艦艇として海上自衛隊は「掃海艦」と「掃海艇」を有している。機雷には鉄製の艦船が帯びている磁気に反応するものが多いことから、以前は木造だったが、木造船技術者の減少などもあり2010年代以降、掃海艦・掃海艇ともFRP(繊維強化プラスチック)で建造されるようになった。

「あわじ」型掃海艦は、木造掃海艦「やえやま」型に替わるFRP製の新型掃海艦として2017年より就役しており、4番艦「のうみ」に続き、5・6番艦の建造も予定されている。「やえやま」型と「あわじ」型の全長・全幅はほぼ同じだが、FRP化によって基準排水量は「やえやま」型の1000トンから「あわじ」型が690トンと、ずいぶんと軽量になっている。

FRP船体となり、「やえやま」型より軽量化された「あわじ」型。また、FRP船体は木造船体より寿命が長く、トータルのライフルサイクルコストで考えても木造船より優れているのだという。JMUはFRP船の建造に高い技術を持つ(写真/防衛装備庁Xより)

これまで海上自衛隊では1000トン以上を「艦」、1000トン未満を「艇」としてきたが、690トンの「あわじ」型は、「やえやま」型の後継として「艦」に区分されている。役割という点で見ると、「やえやま」型から引き続き「あわじ」型掃海艦は深深度に敷設された機雷に対処する能力を持ち、中深度に対応する掃海艇と区別されていると言えるだろう。

授与された自衛艦旗を掲げる「のうみ」。これで名実ともに海上自衛隊の一員となった(写真/海上自衛隊Xより)

機雷で日米の足止めを狙う中国

現在、中国が日本の軍事的脅威となっていることは言うまでもないだろう。中国は海上交通路(シーレーン)や海底資源の確保のため、また台湾併呑のため、東シナ海と南シナ海の支配を目指しており、そこに敵(日米)を寄せ付けない手段のひとつとして機雷を重視している。中国の機雷に対する考え方を示す言葉に「四两可拨千斤(4両は1000斤を動かす)」というものがある。小さな機雷の存在(または存在するかもしれないという疑念)が、港湾や航路を使用不能とし、多くの艦艇の行動を制限する可能性がある、という意味だ(米海軍「中国の機雷戦」より一部引用)。機雷は敵と正面からぶつかることを避ける、安価で簡易で、なおかつ効果的な手段というわけだ。

JMUの工場から呉に向けて出港する「のうみ」。「のうみ」は第3掃海隊への配属となる。同隊には「あわじ」型3番艦「えたじま」も所属している(写真/海上自衛隊Xより)

ついつい大型の護衛艦に目がいきがちだが、掃海艦艇もまた日本の防衛の最前線にいる。「あわじ」型は、深深度の機雷を探知できる可変深度ソナー(VDS)や機雷捜索用水中無人機(OZZ-2/4)など高い捜索能力と、有線(光ファイバー)誘導で目標に向かう自走式機雷処分用弾薬(EMD)といった対処能力を有しており、高い対機雷能力により、こうした中国の意図を挫くことが期待されている。

新たな艦が加わる一方で、掃海艇「なおしま」が同日に退役し、自衛艦旗を降ろした。「なおしま」は「すがしま」型掃海艇の4番艦であり、すでに3番艦までは退役済み。今後も順次退役していくと見られている(呉地方総監部Xより)