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さまざまなモータースポーツからの知見を反映し、8速ATや電動パワーステアリングなど、運動性能向上に寄与する改良を実施

GRヤリスは「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を通して生まれた、TGRのクルマづくりの象徴となるモデルだ。

2020年9月の発売開始以降も、TGRはGRヤリスを用いてFIA世界ラリー選手権、スーパー耐久シリーズや全日本ラリー選手権など、さまざまなモータースポーツへの参戦を継続している。レースやラリーといった極限の環境だからこそ発生するトラブルを、TGRはGRヤリスを「もっといいクルマ」へ進化させるチャンスと捉え、車両を限界まで追い込んでくれたドライバーへ「壊してくれてありがとう」を合言葉に、不具合発生時の走行データや操舵フィーリング、壊れた部品にどんな傷や異物がついているか、そしてその原因まで徹底的に追及し、改善を重ねることでGRヤリスを鍛えてきた。

「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」に終わりはないというTGRは、今後もGRヤリスでのモータースポーツ参戦を通して、多様なドライバーとともにGRヤリスを継続して進化させていく。このたび受けた改良点を見ていこう。

2024年発表のGRヤリスで初登場した8速AT“GR-DAT(GRダイレクト・オートマチック・トランスミッション)”は、性能にさらに磨きをかけた。
2ペダルならではの操作性と走りの両立を狙い、主にスポーツ走行時のギヤ段の選択制御に細かな改良を加えることで、性能のレベルアップを図っている。Dレンジ走行中のパドル操作でダウンシフト可能な車速領域を拡張(2速→1速)し、パドル操作から変速開始までの時間を短縮。さらにマニュアルモードでは、スポーツモード選択時のレッドゾーン付近でのダイレクト感を向上。スポーツ走行時の応答性を高めた。エンジン回転数の上昇が遅くなる登坂勾配では、シフトアップタイミングを少し遅らせることでシフトアップ後も高出力を維持する。

「クルマとの一体感の進化」として、シャシー部品の締結ボルトの一部に締結剛性の高い特別なボルトを採用。ステアリング操作に対する応答性と直進安定性を向上させた。


EPS(電動パワーステアリング)のチューニングでは、ステアリングのリニア感(ステアリングを切った量に対して1:1で操舵感が得られる感覚)の向上を目指し、プロドライバーの大嶋選手とともに何度も改善を繰り返した。グレードごとに異なる特性が与えられており、最上位グレードのRZ“High performance”用は、サーキットを攻め込むことを念頭に、限界域での速さとコントロール性を追求。中間グレードのRZ用は、ワインディングからサーキットまで幅広いシーンで極めて俊敏なGRヤリスのハンドリングパフォーマンスを引き出す。

このほか、AT車のフットレストの面積を拡大することで、踏み込み時の操作性を向上。スタンダードグレードのRCにメーカーオプション設定としていた先進安全運転支援システム“Toyota Safety Sense”を、RZ“High performance”やRZと同様に全車標準装備とした点も新しい。

オプション装備の面では、縦引きパーキングブレーキを全グレードで選べるようになった。このパーキングブレーキは、FIA世界ラリー選手権や全日本ラリー選手権参戦で得た知見を活かした装備で、これまでRCに設定されていたが、このたび全グレードで選択可能となった。
エアロパフォーマンスパッケージは冷却性能と空力性能をさらに向上

妥協することなく調整を重ねた計6アイテム(下記参照)すべてを同時装着することで、効果を最大化するエアロパフォーマンスパッケージは、GRヤリスの冷却性能と空力性能をさらに向上させることができる。

スーパー耐久シリーズや全日本ラリー選手権を戦っているからこそ気づけた課題に一つひとつに向き合い、プロドライバーとともに理想を追求。RZ“High performance”とRCにメーカーパッケージオプションとして、2025年秋以降の設定が予定されている。価格は未定。

①ダクト付きアルミフード
全日本ラリー選手権参戦車において先行で開発し、GRMNヤリスに採用したカーボン製フードと同形状のダクト付きアルミフードを設定。高速走行中、エンジンルーム内の熱をダクトから放出し、冷却効果を高める。

②フロントリップスポイラー
スーパー耐久シリーズで学んだ高次元の空力バランスを実現するために、フロントリフト(※)の発生を抑え、フロントの接地感と空力バランスを高め、車両のトータルリフトバランスを向上。当初はこのフロントリップスポイラーを除く5点のアイテムが検討されていたが、プロドライバーの大嶋選手からのフィードバックを受け、より高次元のバランスを目指し、最終的にこのフロントリップスポイラーを追加採用するに至った。
※走行時、車体前部に対して持ち上がる力が働く現象

③フェンダーダクト
ホイールハウス内に溜まる空気を後方へ放出させることで、ノーズダイブ(※)時のステアリングフィールや、コーナー入り口での操縦安定性を向上させる。
※急減速時に車体前部が沈み込む現象

④燃料タンクアンダーカバー
スーパー耐久シリーズ参戦車両の安全燃料タンクの下部をフラット形状にするアイデアを採用。ボディ下部の空気の流れを最適化し、空力性能を高める。

⑤可変式リヤウイング
大型のリヤウイングは高速域での操縦安定性に寄与し、またブレーキング時のスネーキング現象(※)を抑制する。可変式のため、サーキットなどの走行シーンに応じてウイングの角度を変え、走りを楽しむことができる。
※車体が左右に揺れる不安定な動き

⑥リヤバンパーダクト
リヤバンパーにおけるパラシュート効果(※)を抑制し、Cd値(空気抵抗係数)を低減。過酷なレース条件下であるスーパー耐久シリーズの現場で、空力負荷によりリヤバンパーが外れたことを起点に、モータースポーツ特有の厳しい環境に対応するため開発された。
※車両前方からの走行風をリヤバンパーが受け止めることで空気の滞留を招き、抵抗となる現象
GRヤリス モデルラインナップ
・RC:356万円(6速MT)/391万円(8速AT)
・RZ:448万円(6速MT)/483万円(8速AT)
・RZ“High performance”:498万円(6速MT)/533万円(8速AT)
※価格は消費税込み。駆動方式は全車4WD