最小回転半径5.9mの取り回しも高精細な「アラウンドビュー」がカバー

BYDの日本上陸第4弾となる「SEALION 7(シーライオン7)」は、プレミアムセダンのシールをベースとしたクロスオーバーSUV。筆者は、日本発売前に開始されたプレス向け試乗会と、横浜から富山県、富山県から東京までのロングドライブでもその魅力といくつかの課題を確認。今回の記事では「シーライオン7」の「○」、「△」、「×」を探ってみた。

後輪駆動の「BYD SEALION 7」と四輪駆動の「BYD SEALION 7 AWD」を設定する

BYDは、日本にPHEVを導入する予定で2025年内を目指している。すでに価格破壊を起こしているBEV(バッテリーEV)に加えて、PHEVも日本でも発売することで、さらに存在感を高める構えだ。日本での注目度が高そうなPHEVは、もう少し先になりそうで、クロスオーバーSUVタイプで、ラージサイズEVの購入を考えている層にとってBYDのシーライオン7は、魅力的な選択肢になるだろう。

典型的なクロスオーバーSUVスタイルだが、後席、荷室は大きめのボディサイズを活かし、想像よりも広い

シーライオン7は、全長4830×全幅1925×全高1620mm、ホイールベース2930mmというサイズで、最小回転半径は5.9mとやや大きめ。これくらいのサイズであれば今では珍しくないものの、狭い路地や駐車場などでは気を使うのも確かだ。とくに、5ナンバーサイズを前提にしたような古くて狭い駐車場では、ドアの開閉にも気を使う。この点は、同モデルを検討している場合は当然織り込み済みだろうが、最小回転半径も大きめなのは惜しい。後述する「BYD アラウンドビュー」により「×」ではないが、「△」くらいなのが実感だ。

多彩な画面表示に対応する「BYD アラウンドビュー」を標準装備

狭い道での取り回しに関しては、高精細な映像で自車周囲を映し出す「BYD アラウンドビュー」がかなりカバーしてくれる。15.6インチの大画面である電動回転式マルチタッチスクリーンに大きく映し出されるだけでなく、障害物の方向や障害物との距離まで表示される優れモノだ。

先進的なインパネは、ハードスイッチを減らし、センターコンソールまわりもスッキリしている

また、左折時には、斜め後方の映像を映し出すことで死角をサポートし、自転車やオートバイ、歩行者などの巻き込み防止にも寄与する。後方視界、斜め後方の視界は狭いものの、「BYD アラウンドビュー」や「リヤクロストラフィックアラート」などでカバーするという考え方だろう。理想をいえば直接視認できる範囲が広いに越したことはないが……。

斜め後方、後方の視界は小さめ

とはいえ、絶対的なサイズと最小回転半径はやや大きめ。メルセデス・ベンツやBMWなどが最近また採用し始めている後輪操舵装置があると、より日本の道路や駐車場事情にマッチするはずだ。

広大なラゲッジスペースが魅力

後席前倒し時に段差は残るが、広大なラゲッジスペースが広がる

「○」は数多いが、ボディサイズを活かしたとくにラゲッジの広さを実感した。富山県までのロングドライブで、スタッフやメディアのスーツケースをいくつも1台に積載する必要に迫られたが、通常時500Lの大容量は伊達ではない。後席を前倒しすると最大で1769Lに広がるだけでなく、フロントフード内(モータールーム)にも58Lの収納が控えている。

後席を起こした状態でも荷室は広い

また、短時間のプレス向け試乗会では実感まではしなかったが、とくにフロントシートの座り心地や疲れの感じにくさはロングドライブで実感できた。フォルシア製のシートは、座面の底付き感がなく、体圧分布も適正。短時間では腰まわりのフィット性が物足りないうように思えたが、持病の腰痛を誘うこともなく、快適性のバランスも良好だった。

1000kmのロングドライブでも疲れを誘わなかった

横浜から富山県、長野県から東京まで1000kmくらいのロングドライブだったにも関わらずフロントシートの完成度は高く、こちらも文句なしの「○」だ。これは、2WD(FR)、AWDの両モデルともに共通していた。

前席と比べるとシートの減衰性はもう少しで、音・振動も大きめ

一方のリヤシートは、フロントシートよりも乗り心地が粗く、上下動を中心とした路面の影響がより伝わりやすい。後席の足元や頭上空間は余裕十分で、広さは文句なしだが、乗り味や音・振動面も含めて快適に過ごすのであれば前席がおすすめだ。

フロント(モータールーム)の収納スペース。フロントフードを閉める際は、軽く操作すると半ドア状態になってしまう

なお、前席、後席を問わず、少しロールやピッチが気になることもあった。背の低いシールから全高を高めたことによる影響かもしれない。床下に重いバッテリーを積むEVということもあるだろう。とくに山道を飛ばすようなシーンでは顕著だが、静かに流れに乗って走る分には気になるほどではない。

動力性能は2WD(FR)で必要十分以上

AWDモデルはもちろん、2WD(FR)モデルでも動力性能は十分

動力性能は文句なしで、とくに0-100km/h加速を4.5秒でクリアするAWDモデルはスポーツカー顔負けのダッシュを披露する。急加速時は、身体がシートに押しつけられるような動きになるものの、普通に運転している分には、独自技術である「iTAC(インテリジェント・トルク・アダプテーション・コントロール)」によりボディとシャーシの動きは安定していて、電動車にありがちな同乗者の酔いを誘うような挙動もあまり感じられなかった。

回生ブレーキの強弱を選択できる

なお、0-100km/h加速が6.7秒の2WD(FR)モデルでも中低速域のトルク感、高速域での実用上のパワーフィールもまったく不足はない。AWDモデルの540kmに対して、2WD(FR)モデルの航続距離590kmに価値を見出す方も多いはずで、動力性能の面でも不満を覚える方は少ないはずだ。

速さではAWDモデルが圧倒的だが、航続距離とのバランスに優れる2WD(FR)が売れ筋になりそう

電動車らしからぬ加速、減速の制御の良さは、回生時も同じで、「高」と「スタンダード」から選択できる回生ブレーキを「高」にしても乗員の酔いを誘うような急制動にはならない。ワンペダル的なフィーリングではない。せっかくのEVなので、もう少し強い回生ブレーキが得られると山道や高速道路などでは減速しやすく、走らせやすいように感じられたが、逆に純ガソリン車(ICE)などからの乗り替えでも違和感を抱くシーンは少ないだろう。

ゼンリン製ナビの目的地検索結果に不満も

視認性に優れるメーターパネル

1000km程度のロングドライブでも明らかに「×」といえる課題はなかったが、音声操作の「BYDインテリジェント音声制御機能」は、エアコン設定などでは高い確率で認識、操作してくれるのに対し、ゼンリン製の純正ナビは、音声操作による目的地検索はもちろん、タッチ操作でも思うような検索結果が得られず、筆者はスマホ連携による「Apple CarPlay」で「Googleマップ」に頼った。

ドライバーモニタリングシステムのカメラ

また、標準装備されるドライバーモニタリングシステムによるドライバーの脇見、居眠り運転などの検知と警告は、最新の先進安全装備を謳うのにふさわしい機能であるのは間違いない。ただし、わずかな視線移動だけで警告が出るため、煩わしさがあるのも事実。また、頻繁な警告は、「またか」とドライバーが慣れてしまうため、せっかくのアラートが本当の万が一の際に軽く受け流されないか心配になる。アラートの閾値(しきい値)を設定などで選べるといいのかもしれない。

ドアハンドルは電動格納式

内装の質感や先進性では、日本の高級車と遜色のないレベルにあり、エクステリアデザインも流麗にまとめられている。価格は2WD(FR)のBYD SEALION 7が495万円、BYD SEALION 7 AWDが572万円と価格競争力もかなり高い。なお、2025年6月30日(月)までに成約、登録を完了するとドライブレコーダーやETC車載器などの無償プレゼントも付いてくる。