「もがみ」型がこれまでの護衛艦と違うのは性能だけではない? 省人化の思わぬ影響とは…

7月2日、三菱重工長崎造船所で進水した護衛艦「たつた」。「もがみ」型11番艦となる。名前は奈良県を流れる竜田川に由来し、旧海軍の軽巡洋艦「龍田」以来の命名となった(写真/海上自衛隊Xより)
「もがみ」型護衛艦10番艦が7月2日に進水し、「たつた」と命名された。今後、艤装などを進めて来年度(2026年度中)の就役を予定している。ハイペースで建造が進む「もがみ」型は無人化・省人化を図った艦として知られているが、意外なところに省人化の影響があるようだ。【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

乗員数が他の護衛艦よりかなり少ない

おおよそ年2隻のペースで進水と就役が進んでいる「もがみ」型。計12隻建造の計画のうち、現在までに11番艦「たつた」までが進水し、8番艦「ゆうべつ」までが就役している。

あらためて「もがみ」型について説明すると、基準排水量3900トン、全長133mのコンパクトな艦ながら、護衛艦として初めて機雷戦能力を与えられるなど、多様な能力を持つことで知られている(これまで機雷に対する能力は掃海艦や掃海艇など専用の艦艇に限られていた)。また、対レーダー・ステルスを意図した傾斜した平面で構成された船体や、「UNICORN(ユニコーン)」の名称で知られる一本角の複合アンテナなど、外観も従来の護衛艦とは一線を画すものだ。

今年6月に就役した8番艦「ゆうべつ」。大湊の第15護衛隊に配属され、これで全国の主要な海自基地(大湊、横須賀、舞鶴、呉、佐世保)のすべてに「もがみ」型が置かれるようになった(写真/護衛艦隊Xより)

「もがみ」型の特徴としては徹底した自動化・省人化も知られている。海上自衛隊は以前から艦艇乗員の充足率に苦労してきたが、少子化による隊員の募集難といった状況もあり、今後ますます厳しくなることが予想されているためだ。「もがみ」型の乗員は約90名であり、(単純比較は難しいものの)同規模の護衛艦より、おおよそ4~5割程度少ない。

幹部も曹士も一緒に科員食堂

さて、機能面で省人化を果たした「もがみ」型だが、人手が少なくなったことから日常面でも、他の護衛艦との違いが生まれているようだ。よく知られているところでは、幹部と曹士が同じ科員食堂で食事をするようになったことが挙げられる。これまで海上自衛隊の艦艇では、幹部は士官室で、若い隊員から選ばれた士官室係の給仕を受けて食事をしていたが、人数が少ないなか隊員の負担軽減のため、変更されたのだ。

これまで食事の場所は幹部と曹士で分かれていた(写真は「いずも」の科員食堂)。「もがみ」型では幹部も含めて全員が科員食堂で食事をするようになった。なお、掃海艇やミサイル艇など小型艇は、以前から全員同じ場所で食事をしている(写真/菊池雅之)

また、これまでは停泊中、艦内に令達する際に、舷門(船の入り口)に立つ当番の隊員がサイドパイプという笛を吹いていた。放送と一緒に流れる「ピ~ヒョロ~」という独特の笛の音をご存じの人もいると思うが、このサイドパイプも「もがみ」型では吹いていない。従来、舷門の当番は第1・第2分隊(砲雷科、船務科、航海科)の隊員があたり、それぞれの科の教育課程でサイドパイプの吹き方を習っていたのだが、「もがみ」型では第1・第2分隊以外の隊員も舷門に立つことになったためだ。

舷門に立直する隊員は乗員に令達するときや、舷門送迎(高官の乗退艦の送迎)の際にサイドパイプを吹いていた。写真は掃海艦「のうみ」にて、舷門送迎のためサイドパイプを吹く立直員(写真/筆者)

こうした変化は乗員が少ないという「もがみ」型の事情もあるが、海上自衛隊全体として停泊中はなるべく乗員を休ませ、艦には限られた当直員のみを残すという方針があるようにも思える。たとえば、大型の艦でも停泊中は隊員の負担軽減のため、幹部も科員食堂で食事をするようになった。少子化という避けられない事態のなかで、さまざまな組織文化を見直すときが来ているのかもしれない。

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著者プロフィール

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…