スズキ4WDの両極となるeビターラとジムニー・ノマド

eビターラについては1モーターの2WDモデルと2モーターの4WDモデルが設定されるが、ジムニー・ノマドとは4WDモデルで比較する。
先進のSUV電気自動車とコンベンショナルな本格オフローダーでは購入時に比較の対象になるものではないだろうが、スズキの4WD車の両極として敢えて俎上にあげてみよう。

eビターラ

eビターラは2024年11月のミラノショーで発表、2025年3月インドで発売された。インドで生産され、主にEV先進エリアであるヨーロッパに輸出されるほか、2025年7月に日本導入も発表され、試乗会が催された。

eビターラ

スズキ初のEVとなるが、トヨタおよびダイハツとの共同開発となっており、トヨタでのOEMモデル販売も予定されている。
一方、ジムニー・ノマドはスズキ伝統の本格オフローダーで、軽自動車のジムニーを1.5Lエンジンとオーバーフェンダーで普通車に拡大したジムニー・シエラ、さらにその5ドア版として登場したモデルだ。

ジムニー・ノマド

待望の5ドアジムニーということもあり、海外での先行発売時から話題を集め、2024年3月の日本発売時には当初予定していた月販売台数の40倍以上(1200台/月に対して5万台)の注文が殺到し、受注停止に至ったほど。

ジムニー・ノマド

このジムニー・ノマドに加えブランニューモデルであったフロンクスもインドで生産されており、今やインド製スズキ車は大人気となっている。eビターラも同じくインド生産だけに、人気モデルの仲間入りができるだろうか?

ボディサイズを比べてみる

元々が軽自動車がベースとなっているジムニー・ノマドに対し、eビターラはBセグメントのコンパクトSUV。ただし、国産の同クラスモデルよりはグローバルカーとしてやや余裕のある全幅を備えている。

eビターラ(左)とジムニー・ノマド(右)。

ボディサイズはeビターラが全長4275mm×全幅1800mm×全高1640mm。ジムニーが全長3890mm×全幅1645mm×全高1725mmと、全長で385mm、全幅で155mmほどeビターラが大きい。逆に車高はジムニー・ノマドより85mmも低い。その差は最低地上高にも表れており、本格オフローダーであるジムニー・ノマドの210mmに対し、eビターラは185mmにとどまるが、それでもSUVとしては十分な最低地上高と言えるだろう。

eビターラ(左)とジムニー・ノマド(右)。

ジムニー・ノマドは元が軽自動車で、オーバーフェンダーにより全幅が拡大しているものの、キャビンスペースで考えるとその差はさらに大きいと思われる。

ホイールベースはeビターラが2700mmと同クラスでも特に長い方で、これはパワートレインのレイアウト自由度が高いeアクスルの恩恵だろう。
ジムニー・ノマドは5ドア化で延長されたとはいえ2590mmとeビターラより110mm短い。しかし、ジムニー・ノマドのホイールベースは全長との比率では66.5%もあり、eビターラの63.1%よりもホイールベース比は大きいのだ。

eビターラ(上)とジムニー・ノマド(下)。

タイヤサイズはeビターラが225/55R18、ジムニー・ノマドが195/80R15とクルマのキャラクターではっきり分かれている。とはいえ、昨今大径化が進むタイヤ/ホイールサイズにあって、eビターラはBセグメントSUVとして常識的なサイズだ。

eビターラのタイヤサイズは225/55R18で、撮影車両はグッドイヤーEfficientGrip2 SUVを装着していた。
ジムニー・ノマドのタイヤサイズは195/80R15で、撮影車両はブリヂストンDUELER H/L852を装着していた。

EVは車重が重く、タイヤのライフに影響がありそうなだけに、あまり大径で低扁平なタイヤや燃費を重視した特車なサイズ=価格が高いタイヤを装着されてもランニングコストが跳ね上がるので、汎用性の高いサイズにとどめられているのはスズキの良心を感じさせる部分だ。

何せeビターラの4WDモデルは2モーターでバッテリー容量も大きく、車重は1890kgに達する。これは1180kg(MT)ないし1190kg(AT)のジムニー・ノマドより約800kgも重いのだ。

パワートレインを比べてみる

eビターラの4WDモデルは前後にひとつずつのモーターを配置した2モーターのeアクスルを搭載。システム総合出力は135kW・307Nmとパワフルだ。
2モーターによる4WDシステムはオールグリップeは、定速走行時は前後54:46の駆動配分で、加速時は50:50、減速時や滑りやすい路面では70:30に制御される。

eビターラのエンジンルーム。中央にフロントのeアクスルが収まる。モーターはフロントが128kW、リヤが48kWとフロント側の出力が大きい。
eビターラのリヤ側eアクスル。サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リヤがマルチリンクの四輪独立懸架。

一方、ジムニー・ノマドはジムニー・シエラと同じK15B型1.5L直列4気筒DOHC16バルブエンジンを縦置きに搭載するFRベースで、機械式副変速機を備えたパートタイム4WD。トランスミッションは5速MTと4速ATを用意している。過給器やハイブリッドなどの設定はなく、極めてコンベンショナルな構成だ。

ジムニー・ノマドのエンジンルーム。直列4気筒エンジンを縦置きにレイアウトしている。エンジンの出力は102ps(75kW)/6000rpm・130Nm/ 4000rpmと控えめだ。
ジムニー・ノマドのフロントアクスル。デフは左にオフセットしている。サスペンションは3リンクリジッド。
ジムニー・ノマドのリヤアクスル。ドライブシャフトも含め前後ともにリジッド。サスペンションもフロント同様だ。

ジムニー・ノマドの駆動配分は前後0対100のFRか50対50の4WDの完全な二択。ただし、急傾斜や滑りやすい路面での走行用に、4WDには低速用の「4L」が用意される。
eビターラはというと「トレイルモード」が用意され、空転したタイヤにブレーキを掛けて駆動力を確保している。

ドライブモードとトレイルモードのスイッチ。
ジムニー・ノマドの走行モードセレクトレバー。

eビターラのバッテリーは4WDモデルで61kWhという同クラスのEVとしては十分以上の容量を確保し、450km以上という航続距離を確保している。
ジムニー・ノマドは40Lの燃料タンクを備え、WLTC燃費(MT:14.9km/L・AT:13.6km/L)が達成できた場合、596km(MT)ないし544km(AT)の走行が可能。このクラスに搭載できるバッテリー容量を考えると、航続距離に関してはまだエンジン車が有利のようだ。

インテリアを比べてみる

eビターラのインテリアはさすが最新のEVだけあって、メーターからセンターディスプレイまでを一体化した大型ディスプレイが特徴的。また、ピアノブラックやメッキ加飾、レザー調のツートーンカラーなどを用いて上質感が演出されている。

eビターラ。メーターからひと続きになったセンターディスプレイは車両情報やナビ、インフォテインメントなど様々な情報を表示する。

ジムニー・ノマドのインテリアは基本的にジムニー/ジムニー・シエラを踏襲しており、使い勝手の良さを重視したオーソドックスなレイアウトが懐かしさすら感じさせるほど。デザインや作りも非常にコンサバティブで華飾を排した実用本意なものであり、その質実剛健さがスズキらしくもあり、本格オフローダーらしい魅力でもある。

ジムニー・ノマド。センターコンソールはオプションのナビやディスプレイオーディオを装着するスペースが用意されている。

eビターラのメーターは液晶ディスプレイで完全にグラスコックピット化されているが、ジムニー・ノマドは物理指針のアナログメーターとその違いは両極端だ。ジムニー・ノマドの液晶ディスプレイはメーターの間に配置されたモノクロディスプレイのみ。

eビターラのメーター。表示パターンは複数用意される。
ジムニー・ノマドは右の速度計、左の回転計ともに物理指針のアナログメーター。

eビターラはEVらしく、センターコンソールに配置されたドライブセレクターもレバーではなくスイッチとダイヤルの組み合わせになっており、張り出しが極めて少ない。一方で、エアコンのインタフェースは物理スイッチとなっており、ダイレクトな操作が可能な点はユーザーフレンドリーだ。

センターコンソール中央に配置されたドライブセレクター。「P」は独立スイッチで、「R」「D」はダイヤル、「N」はダイヤルと一体化したスイッチというレイアウト。もちろんパーキングブレーキもスイッチ式だ。
ジムニー・ノマドのシフトレバー(5速MT)。
ジムニー・ノマドのシフトレバー( 4速AT)。
ジムニー・ノマドのパーキングブレーキはサイドレバー式。

eビターラはレザー調とファブリックを組み合わせたシートで、カラーに至ってはブロンズとブラックとグレーのスリートーン。サイドサポートも大きめで、ジムニー・ノマドのシンプルな形状とデザインとは大きく異なる。

eビターラのフロントシート。
eビターラのリヤシート。

何より、軽自動車由来のキャビンで4名乗車のジムニー・ノマドに対し、eビターラは当然5名乗車。さらに、eビターラのリヤシートは160mmの前後スライド機構を備えるほか、EVのメリットであるフラットフロアと合わせてゆとりの室内空間を実現している。
とはいえ、ジムニー・ノマドもラダーフレームだけにプロペラシャフトのトンネルが室内に張り出すことはなく、フロアはフラットだ。

ジムニー・ノマドのフロントシート。
ジムニー・ノマドのリヤシート。

加えて、ジムニー・ノマドが4名乗車でリヤシートが5対5分割なのに対し、eビターラは4対2対4分割になっており、もちろん中央席の背もたれは倒せばドリンクホルダー付きのアームレストになる。

ラゲッジルームもボディサイズの差が影響しており、eビターラが通常時で675mm〜835mm(リヤシートスライドにより変化)のフロア長を持つのに対し、ジムニー・ノマドは5ドア化で延長されたとはいえ590mmにとどまる。VDA法による容量や、後席格納時のサイズ、荷室幅や高さについては未公表だ。

eビターラのラゲッジルーム(通常時)。
eビターラのラゲッジルーム(後席格納時)。

また、eビターラは後席格納時にリヤシートの背もたれまで含めてかなりフラットになるが、ジムニー・ノマドは背もたれにも傾斜が残り、何よりラゲッジルームのフロアと完全に段差が残ることになる。

ジムニー・ノマドのラゲッジルーム(通常時)。
ジムニー・ノマドのラゲッジルーム(後席格納時)。

eビターラの価格は未公表だが……

eビターラの価格はまだ発表されていないが、すでに価格が公表されているイギリス仕様は2WDで2万9999ポンド。日本円換算で約598万円。4WDモデルともなると仕様により3万4999ポンド〜3万7799ポンド、697万円〜752万円と、2モーターのEVとはいえBセグメントSUVとしてはかなり高額な印象だ。

ただ、ポンド円のレートは1ポンド約200円とかなりポンド高だし、同じインド生産と考えるとフロンクス(FF:254万1000円〜4WD:273万9000円)はもちろんジムニー・ノマドの265万円(MT)/275万円(AT)のように日本モデルは戦略的な価格設定になる可能性もある。

ちなみに、イギリスでは日本と同車種はスイフトしかないのだが、1.2Lのマイルドハイブリッドモデル(CVT)が約2万1000ポンドで約418万円もする計算。日本のスイフトは192万2800円(バイブリッドMX/CVT)なので、eビターラもイギリス価格の半額とまでは行かないまでも500万円台に収まらないと、4WDモデルが600万円台後半のBZ4Xやソルテラに対して市場的に難しくなりそうだ。

加えてEVは今後助成金がどうなるかで実勢価格が変わってくる(例:BZ4Xやソルテラで65万円〜85万円)。同程度の補助金があったとして、400万円台に入ればかなり価格競争力も出そうではあるが……

メーカースズキ
車名eビターラジムニー・ノマド
グレード4WDモデルFC
全長4275mm3890mm
全幅1800mm1645mm
全高1640mm1725mm
ホイールベース2700mm2590mm
車重1890kgMT:1180kg
AT:1190kg
最低地上高185mm210mm
最小回転半径5.2m5.7m
乗車定員5名4名
トランク容量フロア長(通常時):675mm〜835mmフロア長(通常時):590mm
エンジンK15B型
直列4気筒DOHC16バルブ
排気量1460cc
最高出力102ps(75kW)/6000rpm
最大トルク130Nm/ 4000rpm
燃料/タンク容量レギュラー/40L
WLTC燃費MT:14.9km/L
AT:13.6km/L
サスペンションF:マクファーソンストラット
R:マルチリンク
F・R:3リンクリジッド
ブレーキF・R:ベンチレーテッドディスクF:ベンチレーテッドディスク
R:ドラム
タイヤサイズ225/55R18195/80R15
駆動方式2モーター4WDパートタイム4WD
トランスミッション5速MT/4速AT
システム最高出力135kW
最高出力F:128kW
R:48kW
最大トルク 307Nm
総電力61kWh
航続距離450km以上MT:596km
AT:544km
価格イギリス:3万4999ポンド〜3万7799ポンド(約697万円〜752万7000円)MT:265万1000円
AT:275万円
諸元比較(eビターラはプロトタイプ)