テスト車両には、 ・185/55R16タイヤ&16×6Jアルミホイール(8万2500円) ・カラーヘッドアップディスプレイ(4万4000円) ・ブラインドスポットモニター(6万500円) ・パノラミックビューモニター(4万9500円) ・T-Connectナビキット(11万円) ・カメラ別体型ドライブレコーダー(6万3250円) など、合計51万400円分のオプションが装着されており、車両本体価格187万1000円と合わせて238万1400円の仕様となっていた。
およそ1年前の2020年夏、1.5Lハイブリッド車の「Z」に試乗した際は、メーカーオプションの16インチタイヤ&ホイールを装着していたにも関わらず30km/L超を叩き出す小食ぶりに驚かされた。……当時の記事は本誌リニューアルに伴い、チリも残さず消えてしまったが。
ともあれ1年ぶりに試乗するヤリス5ドアだが、パワートレーンは違っていても同じ「Z」グレード同士の装備差は極めて少ない。テスト車両同士を比較しても、メーカーオプションの駐車支援関連ADASや合成皮革+ツイード調ファブリック内装が装着されていない程度だ。
そのため外観の違いもエンブレム類に留まり、受ける印象も「非常に前衛的なデザインで質感も高いが、見るからに室内は狭そう」と変わらない。
そして実際に、身長176cm・座高90cmの筆者が改めて室内を乗り降りしてみると、後席や荷室のみならず前席も狭かった。
具体的には、1500mmの全高に対してもヒップポイントがなお高く、最も低い位置に調整してもヘッドクリアランスは15cm程度。だがその位置では高すぎるインパネが眼前に迫り、しかもフロントガラスが天地方向に狭いため、必然的に頭を上向きにせざるを得なくなる。
しかし、前方視界を優先しヒップポイントを高く調整すれば、頭上にルーフライニングが迫り、今度は前屈みの姿勢を余儀なくされる。結局は前方視界も頭の傾きも妥協した、中途半端なポジションを取るより他になかった。
そして、「Z」および「G」グレードに標準装備されるデジタルメーターの視認性も悪い。左右のタコメーターおよびスピードメーターが単純に小さすぎて判読しづらいうえ、中央のマルチインフォメーションディスプレイよりも手前に配置されているため、車外前方から視点を移動した際は特に焦点の移動距離も大きい。
さらに、左右のメーターを覆うレンズとブラック塗装リングが、車外の太陽光を反射しやすいのに加えてドライバーの手や衣服も映り込みやすいため、小さな文字や目盛りがますます判読しづらくなっている。
しかしながら、廉価グレード「X」に装着されるアナログメーターに、これらの欠点は一切ない。GRヤリスに全車標準装備されるスポーツメーターもこちらをベースとしていることも考えると、「Z」と「G」でもせめてオプションでもアナログメーターを設定してほしいと願わずにはいられない。
後席にも改めて座ってみると、やはりヘッドクリアランスはほぼゼロで、ニークリアランスも10cm程度しかないものの、全身の収まりが非常に良い。
だが開口部が狭くサイドシルとフロアの段差も高いうえ、リヤドアは45°程度しか開かないため、靴をドアトリムやサイドシルなどに引っかけずに乗り降りするのは至難の業。高齢者やハイヒールを履いた女性に優しくないのは間違いないだろう。
そして荷室も見た目通りの狭さ。後席の背もたれを倒してもその部分の傾斜が強いため、アジャスタブルデッキボードを上段にセットし段差を埋めても大きな荷物を積むのは難しい。
ここまでは前回の振り返りも兼ねて内外装をチェックしたが、そろそろ本題の走りに話題を移したい。
ガソリン車用のM15A-FKS型「直列3気筒1.5Lダイナミックフォースエンジン」もハイブリッド車用M15A-FXE型と同じく新開発のユニットで、120ps/6600rpm&145Nm/4800-5200rpmというパワー・トルクはオプション込み1010kgの車重に対し必要充分レベル。エンジンサウンドは取り立てて官能的ではないものの、3気筒特有のノイズは巧みに抑えられており、静粛性は上々だ。
そして、6速MTのギヤ比は全体的にやや高めに感じられるものの、街乗りから高速道路まで加速性能に不満を抱く場面は皆無。その6速MTはシフト・セレクト方向ともストロークは長いものの感触はソリッドな、いつものトヨタ流で初心者にも優しい設計だが、ABCペダルはアクセルとブレーキが離れすぎており、ヒール&トーは決して容易ではない。もし免許取り立ての人がこのクルマを購入しヒール&トーを練習するなら、アクセルの左側が出っ張っているタイプのペダルカバーを早々に購入し装着した方が無難だろう。
なお、「Z」グレードのシフトノブとステアリングは本革巻きのものが標準装備となっており、その手触りはしっとりとして滑りにくい。だが肝心のステアフィールは乏しく、セルフアライニングトルクも弱いうえ、低速域と中高速域とのアシスト量の差が大きいため、交差点を曲がる際や駐車時には特に舵角を直感的に掴みづらい傾向にある。
一方で乗り心地は、こと市街地や高速道路を走っている限りは申し分なく、よほど大きな凹凸でなければ衝撃は軽微。旋回中のロールもスピードは抑えられており、ロール角が深まらない限りはオンザレール感覚で走行できた。
だがワインディングに持ち込むと、そうした走りへの印象は一変する。タイトコーナーでロール角を深めていくと、リヤが巻き込むバンプステアの傾向が明確に顔を出す。また、サイズこそ充分なフロントシートもサイドサポートが低く、前述の通りベストポジションを取れないという欠点も顕在化して、いよいよ身体を左右に振られやすくなった。
やがて路面の荒れた中速セクションに入ると、旋回中に大きな凹凸を乗り上げるたびリヤが巻き込み、舵角以上のノーズがイン側に入っていくため、「いつオーバーステアになってもおかしくない」と常に身構えて慎重にターンインせざるを得なくなる。今回VSC(横滑り防止装置)は常時ONで走行したが、少なくとも公道でOFFにする気には到底なれない。
そしてストレートが長くコーナーのRも緩い下り坂の高速セクションに入ると、今度はブレーキング時に大きくふらついて挙動を乱しやすくなる傾向に肝を冷やすことになる。必然的にブレーキを緩く長くかけ続けなければならないため、今度はフェードが心配されたが、車重の軽さが幸いしたか、今回の試乗ではその兆候は見られなかった。
このような特性なら、意図的であるなし問わずオーバーステアに持ち込みやすいため、サーキットなどのクローズドコースであればFF車ながら振り回して走る楽しみを味わえるだろうが、少なくとも筆者のような並レベルのドライバーにとって、公道では不安でしかない。裏を返せば、レーシングドライバーやテストドライバー、それに類するドライビングスキルを持つ玄人に好まれる性格の持ち主と言えるだろう。
なお、燃費を計測した結果は下記の通り。総合19.6km/L、市街地14.7km/L、郊外20.3km/L、高速道路22.3km/LというWLTCモード燃費に対しては全体的にやや低い結果になったものの、80km/L付近を維持できた横横~東名ではWLTC高速道路モード燃費を大幅に上回り、ガソリン車もハイブリッド車と同様にエコカーとしてのポテンシャルが高いことを印象づけた。
首都高速道路…18.8km/L
横浜市内(市街地)…12.3km/L
横浜横須賀道路~東名高速道路…26.2km/L
箱根(ワインディング)…12.8km/L
小田原厚木道路~東名~首都高…19.7km/L
総計…16.6km/L
■トヨタ・ヤリス1.5Lガソリン車Z(FF)*16インチ仕様
全長×全幅×全高:3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1010kg
エンジン形式:直列3気筒DOHC
総排気量:1490cc
最高出力:88kW(120ps)/6600rpm
最大トルク:145Nm/4800-5200rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:185/55R16
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:19.6km/L
市街地モード燃費:14.7km/L
郊外モード燃費:20.3km/L
高速道路モード燃費:22.3km/L
車両価格:187万1000円+51万400円