就役目前の護衛艦「もがみ」型、フル・ステルスの艦体にバランス良く戦闘力を積み、機雷戦能力も持つ

新型汎用護衛艦(FFM)「もがみ」型1番艦。エンジンの修理後、2021年3月に進水した。写真/海上自衛隊
海上自衛隊の汎用護衛艦で現役艦や退役直後の艦などを見てきた。最新鋭の汎用護衛艦では「あさひ」型が最も新しい戦力として就役している。海自の建艦・整備体制は先を見ており、時代に即した使い方ができるさらに新しい汎用護衛艦を準備している。予定通りならこの3月にも就役する。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

艦種記号は「FFM」の意味は?

FFM2番艦「くまの」。2020年11月19日に進水、現在各種の試験中だ。写真/海上自衛隊

これまで連続して海上自衛隊の汎用護衛艦をご紹介してきた。汎用護衛艦とは海自の護衛艦隊、4つの護衛隊群の各々で基礎戦力となる艦種を指す。各種の搭載武器により対空戦や対艦戦、対潜戦などにバランスのとれた戦闘能力を発揮する海防の要だ。領海警備や警戒監視、海外派遣、情報収集や救難活動、災害対応までマルチな活動を見せる。

代々の汎用護衛艦は従来からの機能を磨き上げ、変化する防衛環境に合わせた新機能を備え付けるため試行錯誤し、必要な防衛力の整備を続けてきた。現況は、平成時代の末に「あさひ」型が計画・建造され、新鋭艦として就役している。そしてこれに続く令和の時代に必要な新しい艦も準備されている。

2020年11月19日、海自の最新鋭護衛艦、ステルス形状の外観が特徴の新造艦が命名・進水式を迎えた。付けられた艦名は「くまの」だった。 

本艦は計画当初「3900トン型護衛艦」と呼ばれていたものだ。計画自体は十数年前から動き出しており、節目節目でさまざまな仮称で呼ばれた。この新型艦の艦種記号は「FFM」というものに決まったが、これは聞きなれないものだ。

記号の意味は「フリゲイト(Frigate)」を示すFF、これに機雷戦(Mine warfare)や多目的(Multiple、Multipurpose)を意味するMを加えたものだという。諸外国海軍でもこのフリゲイトという艦種はあって、比較的小型で多目的性を盛り込んだ艦艇の場合が多いようだ。海自では従来にない新コンセプトの護衛艦ということになった。

FFM3番艦「のしろ」。2021年6月に進水、FFM全体では合計8隻を整備する予定だ。写真/海上自衛隊

新コンセプトとは対機雷戦機能を持つ護衛艦を運用し、島嶼防衛に投入することを目論んでいる。沿岸警備しながら機雷戦(機雷除去や敷設等も睨む)を実行するものだ。沿岸域での使い勝手をよくしてあるが、もちろん対潜戦や対空戦、対水上戦などの従来機能も備えている。「くまの」は現在、艤装(各種の工事)を行ない最終的な試験ののち、2022年3月に就役予定だ。

FFMは1番・2番艦の建造がほぼ同時期に行なわれた。しかし先に進水した「くまの」は2番艦だった。これは1番艦「もがみ」の建造中にトラブルがあり進水順を変更したためだ。「もがみ」主機関のガスタービンエンジンを試験中に部品が脱落したことでエンジンが損傷、修理の必要が出た。だから2番艦「くまの」の進水を先行させたという。遅れた「もがみ」も2021年3月に進水、続いて3番艦「のしろ」が同年6月に進水、同年12月10日には4番艦「みくま」が進水。現在、同型艦計4隻が海に浮かんでいる。後続の建造も含めFFM全体では現在のところ合計8隻を整備する計画だという。

FFM「もがみ」型は全体を徹底的にステルス化され、艦体はコンパクト化されている。主要寸法は全長133m、全幅16.3m、排水量3900t。最大速力は約30kt(約55.6km/h)以上だという。

主機はガスタービンとディーゼルを併用する「CODAG(コンバインド・ディーゼル・アンド・ガスタービン COmbined Diesel And Gas turbine)」推進方式を採用した。これは通常航行時はディーゼルで経済航行し、急加速時や高速航行時にはガスタービンを併用するもの。これで航続距離性能と加速・高速度性能の両立を図る。パワーは軸出力で約7万馬力。

主要武装は、62口径5インチ砲を1基、防空ミサイルにSeaRAMを1式、艦対艦ミサイルSSM装置を1式(左右両舷)、対潜システムを1式、対機雷戦システム1式などを積む予定だという。

メインマストと設置器材等をフルカバーするステルスマストが外観の大きな特徴点だ。写真/海上自衛隊

対機雷戦システムとは水中無人機を組み合わせたものだそうだ。海中で各種の機雷を捜索する無人機(UUV)と、水上の無人中継機(USV)から成る。両者ともいわゆるロボットで、水中航走・航行は自律方式や「もがみ」型からの遠隔制御方式、両者の統合方式も可能になると思われる。機械力を究めた掃海戦ということになるのだろう。ちなみに海洋調査研究分野では無人機やそれらの複数運用による海洋調査や深海探査は世界的に主流となっている。

対機雷戦能力が盛り込まれたのは防衛環境の変化や自衛隊の事情も関係するといわれる。国同士の大規模紛争・戦争の発生可能性が低下したとみる場合、従来の海上封鎖などの手段である機雷戦の発生可能性も低まると予測できる。

ならば機雷戦を担当する掃海部隊の規模は縮小し、加えて日本防衛の課題である島嶼防衛を考えれば、沿岸域で能力発揮するのはやはり掃海部隊だから、離島防衛・奪回戦力である陸上自衛隊・水陸機動団と共に掃海部隊は島嶼防衛に注力するべきという判断があって、実際、掃海部隊は海自の島嶼防衛担当戦力となった。となると掃海戦力全体は低減するのも事実だから、汎用護衛艦に掃海戦能力を持たせこれを補完しようとする考えが浮上、これで計画されたのがFFM「もがみ」型ということになる。

沿岸域で軍艦を多目的に運用しようとする計画は米海軍の沿海域戦闘艦(LCS)「フリーダム」や「インディペンデンス」にみることができる。武装や装備をモジュール化して任務に合わせて組み替える手法、乗員の交代制勤務、コンパクト設計や省力化・省人化などによるコスト低減・効率化などをFFM「もがみ」型は手本としたという見方もあるようだ。

三菱が提案していた「3900トン型護衛艦 FFM」の概要書類のイラスト。盛り込まれる機能や搭載予定の装備などがわかる。資料/防衛省

他方で、見習う点はあるものの、本家のLCSは結局のところ不振に終わり、後継艦の整備に舵を切ったように見える。ただ、新しい試みへの評価は難しく、正解はひとつでもなさそうだ。国際関係や戦略環境の変動は早く、見通しも悪い。だから新型装備は拡張性を重視するものが今後一層必要だと思われる。

本艦は省力化による省人化と造船コストを抑えて設計・建造した海自初の護衛艦で、これは人員不足にある海自の事情を反映している。現在と将来において、外敵以外に海自最大の敵は日本の少子高齢化構造にあるからだ。乗員予定数は約90人で、これは現用の汎用護衛艦の半数程度という。女性自衛官の居住区画も整備されると思われる。建造費は1隻約460億円。これは通常型護衛艦建造費の3分の2程度であるという。

キーワードで検索する

著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…