改良型マツダ・ロードスター試乗インプレ:新制御「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」の効果は体感できるか? 最軽量モデル「990S」の実力は?

改良型マツダ・ロードスター試乗インプレ:新制御「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」の効果は体感できるか? 最軽量モデル「990S」の実力は?

マツダ・ロードスター990S
マツダ・ロードスター990S
マツダが世界に誇るライトウェイトFRオープンスポーツカー・ロードスターが2021年12月16日に商品改良を実施。新たな挙動制御技術「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」が全車に実装された。果たしてその効果は誰でも体感できるのだろうか? そして、KPC有無での走りの違いは? 最軽量の特別仕様車「990S」を含む3つのグレードに試乗し伊豆スカイラインでチェックした。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、マツダ
KPCの制御イメージ。ロードスターのリヤサスペンションが持つ、制動時のアンチリフト特性を最大限活かしている
KPCの制御イメージ。ロードスターのリヤサスペンションが持つ、制動時のアンチリフト特性を最大限活かしている。

非公開: ついに990S正式デビュー! マツダ・ロードスターが改良を機に「990S」を含む特別仕様車や追加機種を設定! 発売は1月中旬を予定

<!– wp:paragraph –> <p>12月16日、マツダは小型オープンスポーツカー「ロードスター」および「ロードスターRF」を改良し、同日より予約受注を開始した。発売は2022年1月中旬の予定だ。</p> <!– /wp:paragraph –>

今回の商品改良の詳細は上の記事に詳しいので、ここではKPCの制御についてのみ、改めて振り返りたい。

KPCは旋回状態を後輪左右の車輪速差から検知し、0.3G以上の横Gで旋回していると車両が判断した場合は、後輪左右の車輪速差に応じてリヤ内輪へ液圧0.3MPa以下のごくわずかな制動力を発生。ロールを抑制しつつ車体全体を引き下げることで、旋回姿勢を安定させる効果を与える、というもの。

つまり、後輪左右の車輪速差が大きいほどKPCが強く働くため、旋回半径が小さく、旋回速度が高く、路面の凹凸が大きいほど、またLSDを装着する車両より非装着車の方が、KPCの効果が出やすいということになる。

なおKPCは、DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロールシステム)と関連するユニットを活用して制御を行なっている関係上、DSCをオフにするとKPCもオフになる。そのため今回は、主にDSCのオン/オフを切り替えながら、KPCの効果を確認した。また今回の試乗は常時、トップをオープンにした状態で行なった。

マツダ・ロードスターRF RS
マツダ・ロードスターRF RS

最初に試乗したのは、184psと205Nmを発する2.0L直4NAエンジンを搭載するタルガトップボディの「RF」。そのなかでも、ビルシュタイン製ダンパーや前後スタビライザー、フロントサスタワーバー、LSD、レカロシートなどを標準装備する、最も高性能かつスポーティなグレード「RS」の6速MT車だ。テスト車両はさらに、オプションのBBS製17インチ鍛造アルミホイールやブレンボ製フロントブレーキキャリパー&&前後大径ローターを装着していた。

アルカンターラ/ナッパレザー表皮のレカロ製セミバケットシートを標準装備したRF RSの室内
アルカンターラ/ナッパレザー表皮のレカロ製セミバケットシートを標準装備したRF RSの室内

テスト車両を借り受けた時点でDSCはオフになっていたためそのまま試乗すると、その状態でも何ら不満がないどころか、ボディ・シャシー剛性の高さを感じさせ、かつしなやかながらも引き締められたその乗り心地やハンドリングに、「これはいい!」と思わず叫んでしまう。もし「DSC OFF」の警告灯が点灯していなければ、KPCが効いていないことに気付けなかっただろう。DSCについては、安全上あくまでも「ON」が基本だ。今回ON/OFFを切り替えたのはKPCの効果を体感するためであって、マツダとしてもOFFを推奨しているわけではない。また、一度エンジンを切って、再び始動すると、DSCはONになることも追記しておく。

ビルシュタイン製ダンパーを標準装備。テスト車両はオプションのBBS製17インチ鍛造アルミホイールとブレンボ製フロントブレーキキャリパー&&前後大径ローターを装着していた。タイヤは205/45R17 84Wのブリヂストン・ポテンザS001
ビルシュタイン製ダンパーを標準装備。テスト車両はオプションのBBS製17インチ鍛造アルミホイールとブレンボ製フロントブレーキキャリパー&&前後大径ローターを装着していた。タイヤは205/45R17 84Wのブリヂストン・ポテンザS001

だが気付いた段階でDSCをオンにすると、ターンイン後の接地感が増し、立ち上がりで安心してアクセルを踏んでいけるようになる。よりハードな脚周りとLSDの効果もあり、インリフトの抑え込みこそ注意深くチェックすればわかる程度の違いだが、心理的安心感の差は絶大だ。


184psと205Nmを発するPE-VPR[RS]型2.0L直4NAエンジン。RSはストラットタワーバーを標準装備
184psと205Nmを発するPE-VPR[RS]型2.0L直4NAエンジン。RSはストラットタワーバーを標準装備

パワーもトルクも必要充分以上の2.0Lエンジンを搭載するRFで、今回のテストのように路面温度が低いうえ部分的に湿ったワインディングを走行するのは、相応に慎重なアクセルワークを要求される。しかしだからこそ、タイヤを路面にしっかり接地させるKPCの、心理的な面でのプラスの効果を、明確に感じ取ることができた。


マツダ・ロードスターSレザーパッケージ。ボディカラーは新規設定色のプラチナクォーツメタリック
マツダ・ロードスターSレザーパッケージ。ボディカラーは新規設定色のプラチナクォーツメタリック

続いて試乗したのは、132psと152Nmを発する1.5L直4NAエンジンを搭載するソフトトップ車の中間グレード「Sレザーパッケージ」6速MT車。前後スタビライザーとLSD、本革シートを標準装備する。なお、レイズ製16インチ鍛造アルミホイールやブレンボ製フロントブレーキキャリパー&前後大径ローターがオプション設定されているが、テスト車両には装着されていなかった。

132psと152Nmを発するP5-VP[RS]型1.5L直4NAエンジン
132psと152Nmを発するP5-VP[RS]型1.5L直4NAエンジン
テスト車両は標準装備のブレーキと16インチアルミホイールを装着。タイヤは195/50R16 84Vのヨコハマ・アドバンスポーツV105 OE
テスト車両は標準装備のブレーキと16インチアルミホイールを装着。タイヤは195/50R16 84Vのヨコハマ・アドバンスポーツV105 OE

排気量-500ccの差は走り出した瞬間から感じ取れるものの、では物足りなく感じるかといえば、今回のようなワインディングであれば「むしろこれで充分」というのが偽らざる本音。先に試乗したRF RSに対し車重が80kg軽いこともあり、持てるパワー・トルクを使い切りながら軽快な走りを楽しめる喜びの方が大きい。

ブラックのレザーシートを標準装備したソフトトップ車Sレザーパッケージの室内
ブラックのレザーシートを標準装備したソフトトップ車Sレザーパッケージの室内

肝心のKPCの効果はというと、DSCオフで旋回した際はほど良い軽快感が味わえ、これはこれで楽しいと感じられる一方、DSCオンで旋回すると、今度はインリフトが減少したのが明確に感じ取れ、またその過渡的な動きも穏やかになる。しっとりとした上質なハンドリングに一変したのだ。そしてコーナーからの立ち上がりや、不規則な凹凸のある荒れた路面での安心感はやはりDSCオンの方が大きく、KPCの効果がよりわかりやすく感じられた。

マツダ・ロードスター990S。ダークブルーのクロス製ソフトトップを標準装備する
マツダ・ロードスター990S。ダークブルーのクロス製ソフトトップを標準装備する

そして最後に試乗したのは、正式発表前から大きな注目を集め、発売後の販売構成比が1/4を超える今回の目玉、車名の通り車重990kgの最軽量な特別仕様車「990S」。

マツダ・ロードスターが売れている! 990S効果と商品改良で5年ぶりに月販1000台超え

ロードスターの販売が好調だ。1月の販売台数は5年ぶりに1000台を超えたという。世界的に見てもコロナ禍以降、販売が上向きだ。

非公開: これが最新最良のND! マツダ・ロードスター990S出現! 価格は意外とお手頃かも?

10月24日(日)に長野県の軽井沢で行われたマツダ・ロードスターのオーナーズミーティング会場に、まだ公式発表されていないはずの特別仕様車がサプライズ展示された。その名も「990S」。車重990kgを意味するネーミングが与えられた、この最新モデルの真相は?

ボンネットインシュレーターが省略された990Sのエンジンルーム。アルミ製ボンネットの裏側に軽め穴が無数に穿たれている
ボンネットインシュレーターが省略された990Sのエンジンルーム(Sグレードも同様)。アルミ製ボンネットの裏側に軽め穴が無数に穿たれている
ボンネットインシュレーターを装着した他グレードのボンネット。見た目もスッキリした印象に
ボンネットインシュレーターを装着した他グレードのボンネット。見た目もスッキリした印象に

ベースとなったのは最廉価グレード「S」で、リヤスタビライザーとLSDに加えセンターディスプレイやADASも装備されない。ボンネットインシュレーターも省略され、サイドエアバッグもオプション扱いとなる。

黒地に青文字のブレンボ製フロントブレーキキャリパーは990S専用品。タイヤは195/50R16 84Vのヨコハマ・アドバンスポーツV105 OE
黒地に青文字のブレンボ製フロントブレーキキャリパーは990S専用品。タイヤは195/50R16 84Vのヨコハマ・アドバンスポーツV105 OE

だが「990S」の場合、最も硬派な「RS」でもオプション扱いの、レイズ製16インチ鍛造アルミホイールとブレンボ製フロントブレーキキャリパー&前後大径ローターが標準装備される。


990S専用セッティングのダンパー&スプリングを装着する一方でスタビライザーが非装着のリヤ・マルチリンク式サスペンション。LSDも装着されていない
990S専用セッティングのダンパー&スプリングを装着する一方でスタビライザーが非装着のリヤ・マルチリンク式サスペンション。LSDも装着されていない

これによってホイール1本あたり800g×4本=3.2kg、ブレーキもフロントキャリパーがアルミ製となることで若干ながら軽量化された、990Sの車重にピンポイントで合わせるべく、1060kgのAT車までカバーしている従来の脚周りに対し、スプリングレートを高めつつダンパー減衰力を下げ、電動パワーステアリングのアシストトルクを増加。エンジンもアクセル踏み始めからスロットルを多めに開くよう制御プログラムが変更された。


青の加飾がさりげなく用いられながらセンターディスプレイが省略された990Sの運転席まわり
青の加飾がさりげなく用いられながらセンターディスプレイが省略された990Sの運転席まわり

また、その軽さを表現した色として、幌やエアコン吹き出し口加飾、フロアマットやブレーキキャリパーに青色が用いられている。

こちらに関しては、商品改良前の「S」にも試乗できたので、「990S」との走りの違いをレポートしたい。

商品改良前の「S」は、かつて筆者が所有していたNA6CE型初代ロードスター初期型のテイストに最も近く、ヒラヒラとした軽快かつ俊敏なハンドリングが持ち味。さりとて初代初期型ほどロール量は少なくロールスピードも早くなく、ボディ・シャシー剛性も比較にならないほど向上しているため、初代と現行5代目の良い所取りをしたような印象を抱いた。

マツダ・ロードスター990S
マツダ・ロードスター990S

これが「990S」になるとどう変わるか。まずDSCをオフにして走行すると、その時点ですでに、軽快ながらもロールが抑えられてしっとりしたハンドリングに大きくキャラクターチェンジした感覚を覚える。そしてDSCをオンにすると、しっとりした走り味はそのまま、旋回時のインリフトが体感できるレベルで減少した。

商品改良前の「S」、「990S」のDSCオフ、「990S」のDSCオン、三者のうち後者になるほど、タイヤの接地性が高まるとともにヨーとロールの出方がリニアになり、コントロール性も安定性も向上しているのは間違いない。

では、商品改良後のロードスター、今回試乗した3台のうちどれがベストバイかというと、これほど答えに窮する問いもなかなかない。「みんな違ってみんな良い」などという模範解答で逃げたくなる、というのが偽らざる本音だ。しかしそれでは、優柔不断の最低男のそしりを免れ得まい。

それでも敢えて一番を決めろというならば、歴代ロードスターがコアバリューとしてきた“軽さ”、これを最も濃厚に味わえる「990S」を、私は選ぶ。3台のなかでは車両本体価格が289万3000円と最も安価で、しかも「RS」を含む他のグレードでオプション装着すれば33万円の追加コストが発生する、レイズ製16インチ鍛造アルミホイールとブレンボ製フロントブレーキキャリパー&前後大径ローターが標準装備されるのも、理由としては大きい。

エンジン性能に頼らない“人馬一体”の走りを純粋に、手頃に、無理なく楽しむ。それこそがロードスターに求めるべきものであり、ロードスターが持つ唯一無二の魅力ではないだろうか。

■マツダ・ロードスターRF RS(FR)
全長×全幅×全高:3915×1735×1245mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1100kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1997cc
最高出力:135kW(184ps)/7000rpm
最大トルク:205Nm/4000rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:205/45R17 84W
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:15.8km/L
市街地モード燃費:11.8km/L
郊外モード燃費:16.0km/L
高速道路モード燃費:16.3km/L
車両価格:392万2600円
■マツダ・ロードスターSレザーパッケージ(FR)
全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1020kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
最高出力:97kW(132ps)/7000rpm
最大トルク:152Nm/4500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:195/50R16 84V
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:16.8km/L
市街地モード燃費:12.0km/L
郊外モード燃費:17.7km/L
高速道路モード燃費:19.5km/L
車両価格:319万1100円
■マツダ・ロードスター990S(FR)
全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:990kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
最高出力:97kW(132ps)/7000rpm
最大トルク:152Nm/4500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:195/50R16 84V
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:16.8km/L
市街地モード燃費:12.0km/L
郊外モード燃費:17.7km/L
高速道路モード燃費:19.5km/L
車両価格:289万3000円
マツダ・ロードスター990S
マツダ・ロードスター990S

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…