今回の商品改良の詳細は上の記事に詳しいので、ここではKPCの制御についてのみ、改めて振り返りたい。
KPCは旋回状態を後輪左右の車輪速差から検知し、0.3G以上の横Gで旋回していると車両が判断した場合は、後輪左右の車輪速差に応じてリヤ内輪へ液圧0.3MPa以下のごくわずかな制動力を発生。ロールを抑制しつつ車体全体を引き下げることで、旋回姿勢を安定させる効果を与える、というもの。
つまり、後輪左右の車輪速差が大きいほどKPCが強く働くため、旋回半径が小さく、旋回速度が高く、路面の凹凸が大きいほど、またLSDを装着する車両より非装着車の方が、KPCの効果が出やすいということになる。
なおKPCは、DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロールシステム)と関連するユニットを活用して制御を行なっている関係上、DSCをオフにするとKPCもオフになる。そのため今回は、主にDSCのオン/オフを切り替えながら、KPCの効果を確認した。また今回の試乗は常時、トップをオープンにした状態で行なった。
最初に試乗したのは、184psと205Nmを発する2.0L直4NAエンジンを搭載するタルガトップボディの「RF」。そのなかでも、ビルシュタイン製ダンパーや前後スタビライザー、フロントサスタワーバー、LSD、レカロシートなどを標準装備する、最も高性能かつスポーティなグレード「RS」の6速MT車だ。テスト車両はさらに、オプションのBBS製17インチ鍛造アルミホイールやブレンボ製フロントブレーキキャリパー&&前後大径ローターを装着していた。
テスト車両を借り受けた時点でDSCはオフになっていたためそのまま試乗すると、その状態でも何ら不満がないどころか、ボディ・シャシー剛性の高さを感じさせ、かつしなやかながらも引き締められたその乗り心地やハンドリングに、「これはいい!」と思わず叫んでしまう。もし「DSC OFF」の警告灯が点灯していなければ、KPCが効いていないことに気付けなかっただろう。DSCについては、安全上あくまでも「ON」が基本だ。今回ON/OFFを切り替えたのはKPCの効果を体感するためであって、マツダとしてもOFFを推奨しているわけではない。また、一度エンジンを切って、再び始動すると、DSCはONになることも追記しておく。
だが気付いた段階でDSCをオンにすると、ターンイン後の接地感が増し、立ち上がりで安心してアクセルを踏んでいけるようになる。よりハードな脚周りとLSDの効果もあり、インリフトの抑え込みこそ注意深くチェックすればわかる程度の違いだが、心理的安心感の差は絶大だ。
パワーもトルクも必要充分以上の2.0Lエンジンを搭載するRFで、今回のテストのように路面温度が低いうえ部分的に湿ったワインディングを走行するのは、相応に慎重なアクセルワークを要求される。しかしだからこそ、タイヤを路面にしっかり接地させるKPCの、心理的な面でのプラスの効果を、明確に感じ取ることができた。
続いて試乗したのは、132psと152Nmを発する1.5L直4NAエンジンを搭載するソフトトップ車の中間グレード「Sレザーパッケージ」6速MT車。前後スタビライザーとLSD、本革シートを標準装備する。なお、レイズ製16インチ鍛造アルミホイールやブレンボ製フロントブレーキキャリパー&前後大径ローターがオプション設定されているが、テスト車両には装着されていなかった。
排気量-500ccの差は走り出した瞬間から感じ取れるものの、では物足りなく感じるかといえば、今回のようなワインディングであれば「むしろこれで充分」というのが偽らざる本音。先に試乗したRF RSに対し車重が80kg軽いこともあり、持てるパワー・トルクを使い切りながら軽快な走りを楽しめる喜びの方が大きい。
肝心のKPCの効果はというと、DSCオフで旋回した際はほど良い軽快感が味わえ、これはこれで楽しいと感じられる一方、DSCオンで旋回すると、今度はインリフトが減少したのが明確に感じ取れ、またその過渡的な動きも穏やかになる。しっとりとした上質なハンドリングに一変したのだ。そしてコーナーからの立ち上がりや、不規則な凹凸のある荒れた路面での安心感はやはりDSCオンの方が大きく、KPCの効果がよりわかりやすく感じられた。
そして最後に試乗したのは、正式発表前から大きな注目を集め、発売後の販売構成比が1/4を超える今回の目玉、車名の通り車重990kgの最軽量な特別仕様車「990S」。
ベースとなったのは最廉価グレード「S」で、リヤスタビライザーとLSDに加えセンターディスプレイやADASも装備されない。ボンネットインシュレーターも省略され、サイドエアバッグもオプション扱いとなる。
だが「990S」の場合、最も硬派な「RS」でもオプション扱いの、レイズ製16インチ鍛造アルミホイールとブレンボ製フロントブレーキキャリパー&前後大径ローターが標準装備される。
これによってホイール1本あたり800g×4本=3.2kg、ブレーキもフロントキャリパーがアルミ製となることで若干ながら軽量化された、990Sの車重にピンポイントで合わせるべく、1060kgのAT車までカバーしている従来の脚周りに対し、スプリングレートを高めつつダンパー減衰力を下げ、電動パワーステアリングのアシストトルクを増加。エンジンもアクセル踏み始めからスロットルを多めに開くよう制御プログラムが変更された。
また、その軽さを表現した色として、幌やエアコン吹き出し口加飾、フロアマットやブレーキキャリパーに青色が用いられている。
こちらに関しては、商品改良前の「S」にも試乗できたので、「990S」との走りの違いをレポートしたい。
商品改良前の「S」は、かつて筆者が所有していたNA6CE型初代ロードスター初期型のテイストに最も近く、ヒラヒラとした軽快かつ俊敏なハンドリングが持ち味。さりとて初代初期型ほどロール量は少なくロールスピードも早くなく、ボディ・シャシー剛性も比較にならないほど向上しているため、初代と現行5代目の良い所取りをしたような印象を抱いた。
これが「990S」になるとどう変わるか。まずDSCをオフにして走行すると、その時点ですでに、軽快ながらもロールが抑えられてしっとりしたハンドリングに大きくキャラクターチェンジした感覚を覚える。そしてDSCをオンにすると、しっとりした走り味はそのまま、旋回時のインリフトが体感できるレベルで減少した。
商品改良前の「S」、「990S」のDSCオフ、「990S」のDSCオン、三者のうち後者になるほど、タイヤの接地性が高まるとともにヨーとロールの出方がリニアになり、コントロール性も安定性も向上しているのは間違いない。
では、商品改良後のロードスター、今回試乗した3台のうちどれがベストバイかというと、これほど答えに窮する問いもなかなかない。「みんな違ってみんな良い」などという模範解答で逃げたくなる、というのが偽らざる本音だ。しかしそれでは、優柔不断の最低男のそしりを免れ得まい。
それでも敢えて一番を決めろというならば、歴代ロードスターがコアバリューとしてきた“軽さ”、これを最も濃厚に味わえる「990S」を、私は選ぶ。3台のなかでは車両本体価格が289万3000円と最も安価で、しかも「RS」を含む他のグレードでオプション装着すれば33万円の追加コストが発生する、レイズ製16インチ鍛造アルミホイールとブレンボ製フロントブレーキキャリパー&前後大径ローターが標準装備されるのも、理由としては大きい。
エンジン性能に頼らない“人馬一体”の走りを純粋に、手頃に、無理なく楽しむ。それこそがロードスターに求めるべきものであり、ロードスターが持つ唯一無二の魅力ではないだろうか。
■マツダ・ロードスターRF RS(FR)
全長×全幅×全高:3915×1735×1245mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1100kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1997cc
最高出力:135kW(184ps)/7000rpm
最大トルク:205Nm/4000rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:205/45R17 84W
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:15.8km/L
市街地モード燃費:11.8km/L
郊外モード燃費:16.0km/L
高速道路モード燃費:16.3km/L
車両価格:392万2600円
■マツダ・ロードスターSレザーパッケージ(FR)
全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1020kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
最高出力:97kW(132ps)/7000rpm
最大トルク:152Nm/4500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:195/50R16 84V
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:16.8km/L
市街地モード燃費:12.0km/L
郊外モード燃費:17.7km/L
高速道路モード燃費:19.5km/L
車両価格:319万1100円
■マツダ・ロードスター990S(FR)
全長×全幅×全高:3915×1735×1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:990kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1496cc
最高出力:97kW(132ps)/7000rpm
最大トルク:152Nm/4500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:195/50R16 84V
乗車定員:2名
WLTCモード燃費:16.8km/L
市街地モード燃費:12.0km/L
郊外モード燃費:17.7km/L
高速道路モード燃費:19.5km/L
車両価格:289万3000円