フロントシートが回転して対座に! サンサンウインドーもニクい
スバル・ドミンゴと聞いて、どのようなクルマだったか覚えておられるだろうか。ドミンゴは1983年に軽ワンボックスタイプのサンバーをベースに開発・発売された乗用リッターカー。サンバーにもトライという乗用車版があり、これをベースに前後長を拡大しつつ1リッター3気筒SOHCエンジンを搭載していた。つまりエンジン以外はほぼ軽自動車だが、商用バンならではの荷室の広さを生かして3列シートを装備するという破天荒なモデルだったのだ。
初代ドミンゴが発売された当時は、まだまだミニバンなんて言葉もなくワンボックスと呼ばれていたもの。ワンボックスといえば家庭の乗用車というより職人の仕事用だったり送迎用などの需要が多かった時代。小さなモデルだとトヨタ・ミニエースなども存在したが、なにせドミンゴは軽バンがベースなので圧倒的に小さい。なおかつスバルらしく4WDの設定もあったため、山間部など特殊な用途に最適だった。ライバルが不在だったためもあるだろう、1983年から1994年と11年もの間生産されたロングセラーモデルだった。
ロングセラーとはいえ数が出たわけでもなく、令和の今に残っている個体は少ないだろう。ところがなんと、21歳の若者が所有していると聞いた。それはモーターファンBIKESの取材で訪れた茨城県のホンダ・ロードパル系クラブでのこと。「ラッタッタ」といえば思い出してもらえるだろうか、ロードパルは70年代後半のソフトバイクブームを牽引したモデルで、そのクラブ員の一人がドミンゴも所有しているというのだ。そこでロードパルの取材時にドミンゴも見せていただいたというわけ。
21歳のオーナーはロードパルの兄弟車であるパルフレイ・オーナーでもある押野智也さん。なぜドミンゴなのかと聞けば「高校生の時に知り合いから譲ってもらいました」との答え。なんと免許もない高校生なのに、迷うことなく譲り受けてしまったという。
そもそも実家に代々スバル車があったらしく、ドミンゴやサンバーには幼い頃から馴染みがあったようだ。とはいえ、高校生なのだからスポーツカーに憧れても良さそうなものだが、近年の若者は車高が低くて疲れそうなスポーツカーより、ミニバンのようなスタイルを見て育ったから親近感があるのだろう。
押野さんがドミンゴを気に入っているのは「トルクフルな走りです」というところもあるけれど、それ以上に惚れているのが室内レイアウト。この当時は軽自動車の規格が今より古く、排気量は550ccだったし外寸も一回り小さかった。それなのに3列シートを装備するだけでなく多彩なシートアレンジまで可能だった。その一端がフロント2座が回転して対面シートになること。おまけに2列目シートの背もたれを倒せばテーブルとしても使えたのだ。
このサイズで何種類ものシートアレンジを生み出したことに、改めて敬意を表したくなる。近年の車中泊ユーザーやキャンピングカーブームを考えたら、40年近くも前にこれだけのモデルを作り出した富士重工業というメーカーの先進性を思い知らされるところ。
この初代ドミンゴは94年まで作り続けられたものの、エンジンはNAのみでターボやスーパーチャージャーの設定はなかった。さらにトランスミッションも5速MTのみの設定で、これらが解消されたのは94年にフルモデルチェンジして2代目になったモデルから。
ただ、割り切ることで可能になった存在とも言えるわけで、若いオーナーも2代目には興味を示さなかった。またカスタムにも興味はなく、純正にこだわり内外装へさまざまな純正オプションパーツを探し出して装着している。
これだけのシートアレンジや室内高があり、サンルーフとその脇から太陽光が燦々と差し込むサンサンルーフを見上げていると、今こそこんなクルマで日本一周の旅にでも出たくなる気持ちになった。