決して高性能ではないエンジンとFRの駆動方式、軽量コンパクトなオープンボディがもたらす“人馬一体”の走りを、初心者からプロまで誰もが楽しめるという、ロードスター独自のキャラクターは、初代NA型より脈々と受け継がれている。
だが、2.0Lエンジンを搭載する先代(三代目NC型)および、現行モデル(四代目ND型)のタルガボディ「RF」に限っては、少なからずその原則から外れているように筆者は感じる。
というのも、車重はいずれも1100kg前後、2.0Lエンジンの最高出力&最大トルクは三代目が170ps&189Nm、現行RFの初期型が158ps&200Nm、同じく2018年6月の商品改良以降は184ps&205Nmと、パワーウェイトレシオは決して低くない。またボディ・シャシーの進化やタイヤサイズの拡大に合わせてグリップ限界も高まっており、免許取り立ての初心者にはやや持て余しかねないほど高性能だからだ。
そして今回試乗した「RF RS」は、ビルシュタイン製ダンパーや前後スタビライザー、フロントサスタワーバー、LSD、レカロシートなどを標準装備。テスト車両はさらに、メーカーオプションのBBS製17インチ鍛造アルミホイールやブレンボ製フロントブレーキキャリパー&前後大径ローターを装着する“全部付き”だった。
となると、“ゆっくり流して楽しい”ロードスターとの対比で“飛ばして楽しい”と評価されることが多いホンダS2000に、構成要素が非常に似通ってくる。そこで、筆者が現在所有するS2000ジオーレ(2.0L中期型・2003年式)と乗り比べ、走りはもちろんオープンカーとしての開放感や爽快感についても比較してみた。
まずロードスターRF RSに乗り込んだ時の第一声、それは「狭い!」だった。2シーターのオープンカーだから当たり前……という単純な話ではもちろんない。長年所有するS2000と比較して、明確に狭く感じられた、ということだ。
カタログ上の室内長×幅×高さを比べると、ロードスターRFは940×1425×1040mm、S2000は800×1325×1055mmと、高さはS2000がわずかに勝るものの長さと幅ではロードスターRFが圧勝している。しかし実際に乗り比べると、ロードスターRFがS2000より広く感じられる要素は皆無に等しい。
中でも決定的に異なるのはAピラーの角度だ。地面に対して垂直の状態を90°とした場合、S2000は約60°と立っているのに対し、ロードスターRFは45°ほどまで寝かさている。すると必然的に左右ピラー間を結ぶクロスメンバーが眼前近くまで迫ってくるため、心理的圧迫感は強く感じられる。
そのうえインパネが、S2000は中央が奥まった形状となっているのに対し、ロードスターRFは中央が盛り上がっているうえ、メーターやディスプレイの上側へのせり出しも大きい。こうして直接比較すると、「新世代リアルオープンスポーツ」を標榜したS2000の方がオープンカーとしての開放感をむしろ重要視しており、ロードスターRFはスポーツカーとしてのタイト感を重視して設計されているのが見て取れる。
なお、横方向の開放感と肘の掛けやすさに直結する、ヒップポイントに対するベルトラインの高さはほぼ同等。後方については、S2000はロールバーが高く大きい一方、ロードスターRFはBピラー左右をつなぐクロスメンバーの前方へのせり出しが少ないため、実際の開放感に外観ほどの差は感じられなかった。