新型シビックが若者に売れているという。昨年のデータで恐縮だが、発売1カ月後の2021年10月上旬の時点における顧客年代別の割合はなんと20代が23.9%でトップで、2番目に22.2%の50代が続くという。今どき新車購入の顧客層は40代以上がボリュームゾーンで、60歳前後が中心となることも珍しくない。そんななか、これだけ20代に売れているなんて、もうそれだけで快挙ではないか。
しかもシビックは、いかにも若者ウケしそうなクロスオーバー系ではなく、至極真っ当な5ドアハッチバックもしくはファストバックセダンといったスタイルを持つ。どちらかというと古典的なクルマ好きおじさんたちに好まれそうな気がするし、実際に50代にも売れているわけだが、ではなぜ20代がトップなの?
というわけで40代後半の筆者がシビックに乗って、その理由を探ってみることにした(というほどの話じゃありませんが)。
まず外観だ。流麗なファストバックスタイルは見事に均整が取れていて、プレーンだが静かに個性を主張する。ここで私のようにシトロエンBXやエグザンティア、ルノー・サフランやラグナといったフランス製5ドアセダンを思い浮かべたアナタは立派な中年(初老?)であって、20代の若者には何のことやらである。
マツダ3やシトロエンC4といったCセグメントきっての伊達グルマたちと比べると細部のデザイン処理が大味のような気もするが、シビックの主戦場たる北米の路上だと、あまりに繊細なデザインは弱々しく見えてしまうのも事実だ。同じホンダのアコードやインサイト、スバルのレガシィなどはどちらかというとシビック寄りの線の太いデザインだが、その方が存在感をアピールしやすいのだろうと私は思っている。
インテリアはなるほど広いが、クラス随一のボディサイズを持つことからもそれほどの驚きはない。しかしうれしい誤算だったのは、予想よりも上質感があり、かつデザインも洗練されていたことだ。自分の想像力の乏しさを吐露するようで情けないが、写真を見る限り、良くも悪くもない平凡で実務的なインテリアだと判断していたのだ。
試乗車は上級グレードのEXで、合成皮革のプライムスムースと起毛素材のウルトラスエードのコンビだったが、これが肌触りも座り心地もなかなかよろしい。赤いステッチが見た目にも精悍だ。
水平基調のインパネは上端が適度に低く抑えられ広い視界を確保してくれる一方、センターコンソールは高めでスポーツカーライクな雰囲気を醸し出す。
面白いと思ったのはエアコンの吹き出し口で、インパネ中央から助手先側の端までパンチングメタルの細長いルーバーで覆われ、その一部が空調のアウトレットとなっているのだ。見た目にはパンチングメタルで覆われているだけで吹き出し口はわからず、吹き出し方向を操作するためのノブによってなんとなく場所が把握できるといった具合だ。これは格好いい。スポーティネスの新しい表現方法と言ってもいいだろう。
かように平凡どころか、座るだけで気分が上がってくるコクピットだったのだ。
本当は6速MT仕様に乗ってみたかったのだが、スケジュールの関係で借り出したのはCVT仕様である。今回の試乗は都内のみで、一般道をメインとしつつ、短時間ながら首都高速にも乗った。
ドライブモードはノーマルのまま走り出す。思いのほかピックアップが鋭い。ピークパワーよりもリニアさを重視したセッティングらしく、腹の底から湧き上がるような力強さはないが、レスポンスがいいからシンプルに気持ちがいい。なおさら6速MTが試したくなる。ワインディングに持ち込んだらさぞかし楽しいはずだが、街乗りでもこの美味しさは十分に堪能できる。
スポーツモードに切り替えると高めの回転域を保つようになり、よりアクセルペダルのオンオフによるスピードコントロールが容易になる。スポーツモード選択時にパドルによるシフトチェンジを行うと自動的にMTモードになる。エコノミーモードを選ぶとノーマルモードよりもアクセル操作に対するエンジン側の反応が穏やかになり、なめらかで燃費重視の走りに貢献するが、もともとリニアで素直なエンジン特性を持っているだけに、ノーマルモードでも十分にスムーズで燃費に配慮した走りは可能だ。ノーマルモードやスポーツモードで、このエンジンフィールを積極的に味わって欲しいと個人的には思う。
ひとつ気になったのは、信号待ちなどでのアイドリングストップからのエンジン再始動時のショックだ。普通の使い方──つまりブレーキを離してそのまま発進するのであればまったく問題はなく、ショックもほぼ感じない。ただしブレーキを踏んで停止している状態でエンジンが掛かったとき──バッテリー保護のために車両側が自動でエンジンを始動させたり、信号が青になる直前にドライバーが意図的にブレーキを緩めて予めエンジンを始動させたり(筆者は無意識のうちにこれをよくやる)すると、エンジン始動による駆動力がトランスミッションを通じてタイヤに伝わり、それをフットブレーキによってむりやり押さえつけることで前後方向の揺れが発生する。これがけっこう大きな揺れなのだ。ただ、エンジンそのものの振動ではないので、6速MTでは発生しないかもしれない。
足まわりはしなやかのひと言に尽きる。首都高速の目地段差もタンッと一発でいなし、雑味を濾過して必要なインフォメーションのみをドライバーに伝える。18インチのタイヤ&ホイールを見事に履きこなしていると言うほかない。快適性だけに絞ってみても18インチにまったく不満は覚えないが、これで17インチのコンフォート仕様などが設定されたらどんな乗り味になるのかは興味がある。
こうして試乗を終えてわかったのは、新型シビックは極めて正統派のハッチバックだったということ。ドライバビリティに優れ、乗り心地はまろやか。そして広いキャビンとカーゴスペースを備える。先ほど外観がフランス製5ドアハッチバックを思い起こさせると述べたが、乗り味も含めて全体的によくできたフランス車のようなクルマだったのだ。
極上のフィールを持つという6速MT仕様にもぜひ乗ってみたいところだ。
さて冒頭の話に戻るが、結局のところ若者にウケている具体的な理由はわからなかった。どこをとっても、筆者のような中年のクルマ好きを唸らせるものばかりで、いかにも若者狙いという部分は見つけられなかったのだ。それでもシビックを選ぶ20代がかなりいるということは、それだけ彼らの目が肥えているということ?
それは本当にそうなのかもしれない。何しろ物心ついた頃からグランツーリスモ(プレイステーションのゲーム)に親しんできた世代である。バーチャルとはいえ、ビークルダイナミクスに対する理解を深める一助になっているのは間違いない。ゲームに夢中になっているうちに、リアルワールドのクルマへの興味も増すだろう。最近は新型車の撮影中に「写真撮ってもいいですか?」と10代や20代の若者がスマートフォンを片手に近づいてくることも少なくない。峠の駐車場や道の駅などではバイクに乗る若者の姿も目立つようになってきた。
ホンダがここまで真正面から走りを追求したハッチバックをつくってきたことはとても喜ばしいし、その心意気に若い世代が呼応していることはもっと喜ばしい。タイプRやハイブリッドなど、今後のモデル展開にも期待せずにはいられない。
ホンダ・シビックEX(CVT) 全長×全幅×全高:4550mm×1800mm×1415mm ホイールベース:2735mm 車重:1370kg サスペンション:Ⓕマクファーソンストラット式/Ⓡマルチリンク式 エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm 圧縮比:10.3 最高出力:182ps(134kW)/6000pm 最大トルク:240Nm/1700-4500rpm トランスミッション:CVT 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:47ℓ WLTCモード燃費:16.3km/ℓ 市街地モード:11.7km/ℓ 郊外モード:17.1km/ℓ 高速道路モード:18.9km/ℓ 車両本体価格:353万9800円