スバル1000(1966)満を持して開花した陸を疾走するライトプレーン【週刊モーターファン ・アーカイブ】

独創的技術というものは時として偏った評価を受けることも少なくない。
しかしポルシェと並びスバルが世界に誇るパワーユニットである水平対向エンジンは今もなお多くのファンを捉えて離さない。評価は結果が証明しているのである。

週刊モーターファン・アーカイブでは、これまでのモーターファンの懐かしい秘蔵データから毎週1台ずつ紹介していく。

解説●高山 正寛(60年代国産車のすべて より 2012年刊)
1965年第12回東京モーターショーで参考出品された、スバル1000。この年、ファストバックのコルト800など1000cc以下のモデルが多く注目された反面、4ℓV8のプレジデントなどが登場するという、層の厚さを見ることができる。

いまなお伝説として語り継がれるスバル360。このクルマで軽自動車ビジネスの足がかりを作った富士重工業が次に狙うのは小型車マーケット。その第一弾として開発されたのがスバル1000である。スバル360が発売される約4年前、同社は6名乗りのスバル1500(開発コードP-1)というクルマの試作を完了していたが、計画が中止になり市販化にこぎつけることができなかった。しかし、スバル360が発売される中、その後のA-5(1.5ℓクラス)やA-4(当時主流だった800ccクラス)などを計画し、市販化に向けて研究が続けられた。

そしてA-4から約3年後の1966年5月にスバル1000が誕生。開発総指揮は「スバルの父」と呼ばれる百瀬晋六氏が担当、デザインも同じくスバル360を担当した佐々木達三氏の協力を仰ぎ完成した。

ファストバックに近いともいえるほど傾斜したトランクリッド。小さくみえるトランクも、スペアタイヤのフロント配置やトレーニングアームのリヤサスによって広くとられている。

このクルマの最大の特徴は現代のスバル車の基礎ともいえる、水平対向エンジンを搭載したこと。駆動方式もFFを採用し、ライバル他社とはまったく異なるアプローチで注目を集めた。FF方式を採用したのは高速や悪路、また横風を受けた場合などの走行安定性が優れていること、さらにパワートレーンすべてをボンネットに収めることで室内の床もフラットにできるなど、現在でもクルマのセールスポイントとして使われる内容がすでにこの時に具現化されていたのである。水平対向4気筒エンジンは977ccで最高出力55ps、最大トルクは7.8kgmを発生、これに4速のマニュアルトランスミッション(コラム式)が組み合わされる。

またこのエンジンは当時は圧縮比9.0で高圧縮比とされたがレギュラーガソリンの使用も可となっていた。国内初となるデュアルラジエターを採用。これはエンジンから機械的に動力をもらう冷却ファンを持たないことで静粛性や燃費が向上するものだが(小型の電動ファンは搭載している)、逆にここで発生した熱を冬場など強力なヒーターとして使うことができるなど独創的なアイデアを満載していた。

余談だが、ボンネットを開けるとエアクリーナーの脇にスペアタイヤや工具類が収納されている。しかしこれはFF車の弱点であった、登坂力を補助するために前部重量を増やす(約60%)という理由があってのこと。さらにいえば、タイヤ類を積載できるスペースが確保できたのも、搭載位置が低い水平対向エンジンだからこそである。このクルマが現代のクルマ作りに与えた影響は大きい。

極めてシンプルなメーターまわり。FFにより広々とした足元を実現する。またダッシュボード下には左右にわたるトレイを設置。
ホイールハウスの干渉しないリヤシート。大きく開くドアで乗降性も良い。

SPECIFICATIONS:SUBARU1000 sdx(1966)

〈寸法重量〉
全長×全幅×全高:3900×1480×1390mm
ホイールベース:2400mm
トレッド前/後:1225/1210mm 
車両重量:685kg 
乗車定員:5人
〈エンジン〉
水平対向4気筒OHV
ボア×ストローク:72.0×60.0mm
総排気量:977cc
最高出力:55ps/6000rpm 
最大トルク:7.8kgm/3200rpm
〈トランスミッション〉
4MT 
〈駆動方式〉
FWD 
〈ステアリング型式〉
ラック&ピニオン式
〈サスペンション〉
前・ウィッシュボーン式、後・トレーリングアーム式
〈ブレーキ〉
前・デュオサーボ式ドラム(インボード)、後・リーディングトレーリング式ドラム
〈タイヤサイズ〉
5.50-13
〈タイヤサイズ〉
130km/h
〈価格・当時〉
54.5万円

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