フォルクスワーゲン(VW)のメインストリームはポロ〜ゴルフ〜パサートのラインだ。スポーティさやエレガントな要素もちりばめられてはいるが、軸を貫いているのは実用性である。ライフスタイルに合わせて好みの1台を選べるよう、小(ポロ)、中(ゴルフ)、大(パサート)を用意する念の入りようだ。もっと高い実用性が欲しいなら、ゴルフとパサートにはヴァリアントの選択肢もある。
2017年に日本市場に導入されたアルテオン(Arteon)は、実用性よりもスポーティに振ったキャラクターの持ち主だ。とはいってもVWブランドの一員であることに変わりはなく、実用性をおろそかにしているわけではない。安全装備についても同様だ。
そのアルテオンが7月13日にマイナーチェンジした。新型のポイントは以下の4点である。
- 1. デザイン刷新
- 2. 最新の運転支援システムを採用
- 3. コネクティビティの強化
- 4. 新たなボディタイプの設定
新型アルテオンは前後のデザインが一新されている。バンパーとグリル、ヘッドライトのデザインが変わっているが、基本的なイメージは受け継いでおり、スポーティな表情に変わりはない。新旧を並べて見比べないと相違点を指摘するのは困難だが、夜間ならひと目で違いがわかる。L字型のデイタイムランニングライトが二次元化された新しいVWバッジに向かって伸び、その伸びた部分がポジションランプとして点灯して一文字になるからだ。ゆえに、遠目でもひと目でアルテオンとわかる(夜間なら)。
リヤはコンビネーションランプの形状とランプのグラフィックが変わった。これも、並べて比較しないと識別は難しいだろう。インテリアはダッシュパネル全体、センターコンソール、ドアトリムの上部セクションが見直され、一気にモダンになった。先にマイナーチェンジしたパサートと同様、ダッシュパネル中央にあったアナログ時計はなくなっている。
センターコンソールには最新世代のインフォテインメントシステムが組み込まれ、空調コントロール部からはダイヤルが消え、タッチスライダーによるインターフェイスに変わった。アンビエントライトが全車に標準装備され、30種類のカラーから好みを選択できるようになった。
運転支援システムやインフォテインメントシステムを通じたオンラインサービスも、先にマイナーチェンジしたパサートやティグアン、モデルチェンジして8代目に移行したゴルフと同じで、最新技術を備える。0km/hから210km/hまでの速度範囲でステアリング、ブレーキ、アクセルの操作をシステムが行なうTravel Assist(同一車線内全車速運転支援システム)は全車標準装備。静電容量式のセンサーを採用しているため、ステアリングに軽く手を添えているだけで済むのはありがたい。ステアリングトルクによる検知方式の場合はかなりしっかり握らないと、本人は握っているつもりなのにアラート音で警告されるからだ。
ここまでで、新型の4つのポイントのうち、3つの主要な要素を説明したことになる。残る「新たなボディタイプの設定」が、マイナーチェンジの最大のポイントだ。シューティングブレーク(Shooting Brake)の追加である。ワゴンの機能性あるいは多用途性と、スポーティなイメージをミックスし、VWらしく解釈したモデルだ。ヴァリアントとせずシューティングブレークとしたところがミソで、ボディ形状的には、ステーションワゴンにクーペの要素を取り込んだ格好だ。
釣りやキャンプに行くならパサート・ヴァリアント、ゴルフに行くならアルテオン・シューティングブレーク。郊外のアウトレットモールに行くならパサート・ヴァリアント、おしゃれなショッピングストリートに行くならアルテオン・シューティングブレークなどという対比をしたら、偏見にすぎるだろうか。トラッドとカジュアル、真面目と遊びという対比が次々と思い浮かぶほど、パサート・ヴァリアントとアルテオン・シューティングブレークはキャラクターが異なる。
パワートレーンも違う。パサート・ヴァリアントでガソリンエンジンを選択する場合は1.5ℓ直4ターボで駆動方式はFFになるが、アルテオン・シューティングブレークは2.0ℓ直4ターボを搭載し、駆動方式は4MOITON(4WD)だ。動力性能面と運動性能面でもスポーティな設定がなされている。タイヤ&ホイールの設定もスポーティで、パサート・ヴァリアントが17〜19インチサイズを設定するのに対し、アルテオン・シューティングブレークは19〜20インチの設定だ。
試乗車はEleganceで245/35R20サイズのタイヤを装着していた。荒れた路面では足元がちょっとドタバタするが、20インチを履いていると思えば諦めもつく。パサートと同様に、巡航時の静粛性が極めて高いのが印象的だ。静かだからこそ、ドライブモードをスポーツにしたときのキャラ変ぶりが際立つ。ボロボロという野性味ある排気音が耳に届くようになると同時に、アクセルペダルの踏み込みに対する力の出方が俊敏になる。腹を空かせた猛獣が目を醒ましたような感じだ。獲物を捕らえる準備はできているぞと、ドライバーをけしかけるようである。
2.0ℓ直4ターボエンジンは272ps(200kW)/5500-6500rpmの最高出力と350Nm/2000-5400rpmの最大トルクを発生。出力は1.5ℓエンジンを積むパサートの1.3倍、トルクは1.4倍もある。だからアルテオン・シューティングブレークは、うなり声が勇ましいだけでなく、実際、かなりの俊足だ。
VWのメインストリームから外れたスポーティかつエレガントな位置づけのアルテオンは、「予想を上回る形で販売実績が進んでいる」という。その理由は、第1にスタイリング、第2にバリュー・フォー・マネーの高さだと、輸入元のフォルクスワーゲングループジャパンは分析している。先に導入されたファストバックは、欧州および国産のプレミアムブランドからの乗り換えが多いそうだ。こうした実績があるため、まだ潜在顧客がいると読んでシューティングブレークを日本に持ち込むことにしたのだという。実車を見、触れたうえで感想を述べると、「実にいい読み」だと思う。
VWアルテオン・シューティングブレーク TSI 4MOTION Elegance 全長×全幅×全高:4870×1875×1445mm ホイールベース:2835mm 車重:1750kg サスペンション:Fマクファーソンストラット R4リンク エンジン 形式:2.0ℓ直列4気筒DOHCターボ 型式:DNU 排気量:1984cc ボア×ストローク:82.5×92.8mm 圧縮比:9.6 最高出力:272ps(200kW)/5500-6500pm 最大トルク:350Nm/2000-5400rpm 燃料:プレミアム 燃料タンク:66ℓ 燃費:WLTCモード 11.5km/ℓ 市街地モード8.6km/ℓ 郊外モード11.6km/ℓ 高速道路モード13.5km/ℓ トランスミッション:7速DCT 車両本体価格:644万6000円 ラグジュアリーパッケージ29万7000円/有償オプションカラー13万2000円