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就寝定員の数と水道設備利用時の高さを変更…ってどういうこと!?
すでにいろいろなメディアで報じられているので、ご存じの方も多いと思うが、2022年4月1日より国土交通省が定めている8ナンバーの特殊用途車両の構造要項が一部変更された。これは主に、キャンピングカーをターゲットにしていると言える内容だ。長年にわたって、業界団体である「日本RV協会」の働きかけが、ようやく実を結んだ結果となった。
さて、今回の構造要項の変更で、どこがどのように“緩和”されたのだろうか。そして、それは我々ユーザーにとって、どのような恩恵をもたらすだろうか。メディアによってその内容はバラバラで、いまひとつピンとこない。そこで、今回はキャンピングカービルダーに取材をして、そのメリットについて教えていただいた。
まず、構造要項の変更は、次の通りだ。
その1:就寝設備の数
【変更後要項】 乗車定員の3分の1以上(端数は切り捨てることと し、乗車定員2人以下の自動車にあっては1人以上)の 大人用就寝設備を有すること。
その2:水道設備
【変更後要項】 洗面台等を利用するための床面から上方には有効高 さ1600mm(洗面台等の上端(蛇口、レバー及び浄水器等、水を供給する構造を除く。)が、これを利用する ための床面から上方に850mm以下の場合にあっては 1200mm)以上の空間を有していること。
役所の文書なので、わかりづらいこと甚だしいと思う。旧要項と比べてどう変わったのかを、かみ砕いてお伝えしたい。
まず就寝定員だが、実は乗車定員の3分の1というのは従来通り。ただし、従来は小数点以下の数字はすべて「切り上げ」だった。例えば5名定員のクルマの場合は、「5÷3=1.66666667」なので、2名分のベッドを作らないとならなかった。これが小数点以下切り捨てということに変更されたので、1名分のベッドがあれば8ナンバーに登録できるようになったのである。
次に洗面台、いわゆるギャレーであるが、従来はギャレーの前の天高が床から1600mmないとダメということになっていた。キャブコンは空間に余裕があるからいいが、バンコンはハイルーフのハイエースでも、そんな寸法は確保できない。そこでビルダーは、床下収納スペースを増設することで、その要項をクリアしてきた。
新要項は、基本的には天高が1600mmとないとダメだけど、座って使用する場合は1200mmの天高があればOK、でもその場合はシンクが85cm以下の高さでなければダメということになった。
実は85cm以下というのは、国交省が理屈を付けるのに紐付けた家庭用ギャレーの高さであり、キャピングカー業界ではそもそも、85cm以上のギャレーをインストールしていることは稀らしい。加えて、床を掘らなくても済むようになったので、この要項変更は「緩和」と見られているのである。
この緩和によって、各媒体はお祭り騒ぎで、「これからユーザーはトクをする!」みたいな論調が多いのだが、果たして本当だろうか。今回、いくつかのビルダーに取材を行ない、なかには今回の規制緩和を長年働きかけてきた老舗ビルダーにもインタビューを実施した。すると、こんなことが見えてきたのである。
バンコンと軽キャンパー
まず、今回の緩和の恩恵を一番受けるカテゴリーは、ハイエース、NV350、タウンエース、NV200などをベースにした「バンコン(バンコンバージョン)」だということだ。
就寝定員にしても、ギャレー周りの天高についても、バンコンはさまざまな工夫をしてきた。例えば、セカンドシートやサードシートのみで就寝スペースが確保できない場合は、2段ベッドという方法でクリアしてきた。ギャレー周りの天高についても、前述の床掘りやポップアップテントの装着で解決していたのである。
ちなみに余談ではあるが、今回の要項変更には、8ナンバー化にした場合にセカンドシート以降のシートベルト未装着リマインダーの装備が免除になったという。これもバンコンビルダーにとっては、大きな負担からの解放らしい。
こうした苦労がなくなると、ビルダーがラクになるばかりでなく、ユーザーはより自分のライフスタイルや予算にあったモデルを期待することができる。例えば、5名定員の車種でも1名のベッドがあればいいわけだから、お一人様でしかオートキャンプに行かないという人向けに、安価で無駄のないモデルを作れるわけだ。また、床掘りをしなくても良くなったことで、3列目シート付近のレイアウトにゆとりができるし、就寝定員の要項のことを考えれば3列シートレスのモデルもありえるということだ。
降雪地帯にユーザーには、こんなメリットがある。例えば、ハイエースのワイドミドルで4WDを選ぼうとすると、ガソリンエンジンで1ナンバーしか選べなかった。1ナンバーは1年ごとの車検もさることながら、高速料金がかなり高額になる。これが8ナンバーで登録できるとしたら、車検や高速料金などのランニングコストを低く抑えることができる。
それでは、軽キャンピングカーはどうなるのか。軽キャンにも、バンコンとキャブコンがあるが、現在8ナンバーを取得できるモデルの多くはキャブコン。ハイゼットカーゴやエブリイをベースにした軽バンコンは、そのままの貨物用軽自動車ナンバーとして登録される。実はこれが8ナンバーになったからといって、税制面では何ら変わりないのである。貨物用軽自動車の軽自動車税は年間5000円、そして軽キャンピングカーの税額も5000円。高速料金も変わらない。
かつてはアトレーが軽5ナンバーだったので8ナンバー化でメリットがあったが、モデルチェンジで4ナンバーになったので特に恩恵はない。トクなのはエブリイワゴンくらいであろうか。ただし、軽キャブコンは呪縛から解かれる部分があるので、より装備をシンプル化したモデルも登場するかもしれないし、そういうモデルを望んでいたユーザーにはメリットがあるかもしれない。
というわけで今後注目すべきは、間違いなくバンコン市場だ。特に、タウンエース(グランマックス)やNV200ベースモデルは、装備や価格でおもしろいことになりそうだ。ハイエースやNV350も、ベッドよりも居住空間の広さやレイアウトを重視したモデルが登場しそう。バンコンは日本では人気の(というかドメスティックの)カテゴリーなので、そういう意味ではユーザーに大きなメリットがあるのかもしれない。