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ソルテラは「シンメトリカルAWD」
ソルテラとbZ4Xは、スバルとトヨタの共同開発モデルだ。開発は、「ZEVファクトリー」という新しい部署が立ち上げられ、そこに両社のエンジニアが集まって進められたという。スバルは、強みである「AWD・安全・動的質感を」トヨタは「電動化技術」を持ち寄って開発が行なわれた。
MF:小野さん、ソルテラ開発の前は、なんの開発を担当していらっしゃったんでしょうか?
小野PGM:僕は、スバルに入社してからずっとエンジン設計部にいました。6気筒、4気筒、軽自動車用のNAエンジンの開発を担当してきて、ずっとNA(自然吸気エンジン)畑を歩いてきました。6年前、2016年にインプレッサがカー・オブ・ザ・イヤーをいただいた時がありました。あのときはエンジン開発のリーダーをやってました。FBを直噴にしたときです。
MF:エンジンをずっとやってこられた方が、バッテリーEVの開発責任者になった……。
小野PGM:変な話ですよね(笑)。
MF:それは、ある日「お前、やれよ」っていう話が急に降ってきたんですか?
小野PGM:そうですね。インプレッサがカー・オブ・ザ・イヤーを獲ったのは、2016年12月でした。じつは発表があったときは、もう新部署へ異動していたんです。「もうエンジンはいい。別の部署を新しく立ち上げてそこでやれ」と。「なにをやるんですか?」と聞いたら「EVだ」って言われました。EVのパワーユニットのとりまとめ、モーターや減速機、電池の取りまとめとしなさい、ということで、最初は、これはなにかの嫌がらせなのかなって思いましたね(笑)。ですが、いま思えば、あのときにEVに切り替わっていたことで、自分のなかのシフトチェンジが早めにできた。いま、エンジンの点火時期とか正直忘れてしまいましたから(笑)。
MF:おそらく、たくさんの人から同じ質問を受けていると思うので、「またか!」という質問です。「スバルって水平対向エンジンありき」、「水平対向エンジンとシンメトリカルAWDがスバル」。現在のスバリストは水平対向エンジンのスバルが好きで買っていただいていると思います。でも、以前からいつかは、水平対向じゃない電気のスバルを作らなければ、という課題は、あったと思います。「水平対向エンジンが載らないスバル」をどう作っていくかは、小野さんに課せられたすごく重い使命だったと思います。
小野PGM:僕は、水平対向エンジンは手段だと思ってます。水平対向エンジンを縦に置いたシンメトリカルAWDは、すごく記号性があると思うのですが、じゃあ横置きのFFベースのAWDがダメなのかって言われたら、全然そんなことはない。やりたいことを実現する手段の違いはあれど、当然一長一短あれど、同じように世の中に出ている以上は、その短所を最小化すること、長所を伸ばすことは、どんなシステムでもできるでしょう。正直、手段なので水平対向エンジンについてはあまり気にしてません。今回のEVもシンメトリカルAWDって言っています。なぜか? タイヤがあってドライブシャフトの長さが左右同じでモーター減速機ユニットがあって、前後別々のモーターですけど、結局そこは変わっていないんですよ。モーターは横置きだろって言われたら、まぁそうなんですけど(笑)。やりたいことは右側と左側の制御のバランスが悪いとか、たとえば、FF車でよくあるドライブシャフトの長さが左右で違う、そうするとねじり力が全然違うので、同じねじり力にするためにシャフトの太さを変えたりしなくてはいけない。そうすると左右の重量配分が変わってしまう……細かいところを気にするとそうなりますよね。なので、ソルテラのデフの位置はど真ん中にないのですが、デフケースの中で太いシャフトを通してあげてドライブシャフトの出る場所は、同じにして長さを左右対称にしています。そうすると右回り左回りの制御も違和感なく同じにできる。なぜシンメトリーにしたかったんだっけ? 左右の重心もできるだけ真ん中にあるし、左右の制御を同じようにしたい、だからシンメトリーにしているでしょっていう目的から考えれば、今回のソルテラもちゃんとシンメトリーになってますよって言えます。スバルのやりたい走破性とか制御性、走りの良さみたいなものは、電動車であってもできる。そういうふうに私は考えていたので、逆に「水平対向じゃないとどうしてできないんですか?」ってずっと思っていました。
トヨタとの協業はどう始まり、どう進められたのか?
MF:BEVを開発しろと言われたときは、e-TNGAと一緒にやるって決まっていたのですか?
小野PGM:決まってないです。
MF:途中でトヨタさんと一緒にやろうよってなったんですね。
小野PGM:そうです。BEVは膨大な開発コストがかかります。とくに電池関連ですね。ここは協業領域で競争領域ではないだろう、と。競争と協業をうまくバランスしながらやりませんか?っていう提案をトヨタさんからいただいたので、これはぜひ一緒にやるべきだ、と。一緒にやっていこうって決めたののが、4、5年くらい前ですかね。
MF:そこはトヨタのプラットフォームを使うことに対するメリットがある。もちろんネガも多少あるのでしょうが、やりたいことをより安くやるためには、こっちの方がいいとお考えになったんですか?
小野PGM:そこもじつは誤解があります。その時点でプラットフォームはなかったんですよ。プラットフォームから一緒に開発しましょうってなっていました。だからプラットフォームもそうですし、上屋もそうです。ZEVファクトリーっていう部署をトヨタさんが作って、トヨタとスバルから人数半々で集まって、そこでプラットフォームから開発が始まっているんです。
MF:たとえばVWのMEBのベースはRWDです。ヒョンデもそうです。BEVはリヤ駆動のところが多いです。ベースの駆動輪をリヤにするかフロントにするかみたいな議論からトヨタと一緒にやっているわけですか?
小野PGM:そうですね。たとえばサスペンション形式をどれにするか。今回、僕らフロントはストラットで、リヤはトレーリングウィッシュボーンにしています。フロントはだいたいストラットですが、リヤはさすがにリジッドはないですが、マルチリンクなのか、5リンクなのか、いろんなことを考えるなかで、最低地上高を確保したい、フロアの高さを抑えたい、となると薄さが決まります。そうすると搭載するモーターの出力は直径(高さ)でいくのか積厚(長手方向)で稼ぐか。当然、直径は稼げないので積厚でいくしかない。そうするとマルチリンクだと厳しい。トレーリングウィッシュボーンにするとスペースを稼げるよねっていうので、あの脚周りにしました。前後の脚周りが決まると、次はこの間をどうするって話になります。電池は隅々まで積みたいけれども、前面衝突、側面衝突を考えると本当に隅々まで積めるのか、みたいな話になって電池パックの中のリンフォース(補強)をどこに入れるだとか、前からのロードパスをどこに入れていくのかという議論、そういうところから本当にゼロから組み立てていって専用プラットフォームを一緒に作っていきました。
MF:じゃあ、トヨタが作ったプラットフォームにスバルが乗っかったってわけではないんですね。
小野PGM:まったく違います。僕らがいなかったらできてないとも思っています。
MF:それでは、かなりやりたことができたプラットフォームですね?
小野PGM:そう思います。やっぱりEVってお金がかかるって思われているので、できるだけ開発コストを抑えようと思うと既存の脚周りやパーツ、思想を踏襲せざるを得ない部分もある。専用と言いながら共用部品も多くて、そういう意味だと本当の専用プラットフォーム、専用ラインで組む専用プラットフォームではない。とにかくフルスイングと言いながらも全部は入れきれないないですね。
MF:まだまだ入れるタマ(技術要素)は持っている……?
小野PGM:そうですね。
MF:とはいえ、このソルテラはスバルで一番高いクルマです。
小野PGM:ホントですよね。買えません(笑)。
MF:バッテリーEVが現状では、高価なことはみんなわかっている。でも補助金が出たとしても600万円なりという大金を払うときには、600万円分の価値を求めます。600万円の商品はスバルにはいままでありませんでした。600万円のクルマをどう演出するか、には気を遣いますか?
小野PGM:はい。当然、気は遣います。600万円、このクルマ、AWDの最上級グレードで682万円です。それに値するだけの価値があるのかはやっぱりポイントで、その価値が、質の良さなのか目に見えるところ触れるところの上質感、高級感というわかりやすいところなのか。両面を追わないといけません。僕らのコンセプトは、「本物をほしがる人、そういうものを持っていることに満足をしていて、見せびらかしたりしない」そういう方をイメージしていました。見た目の質の高さはもちろん考えるのですが、乗ってみたり触ってみたりしたときの質の高さ、気配り、そういったところを意識しましたね。あとはガソリン車で打破できなかった走破性やAWD制御があります。内燃機関を搭載するクルマは指令出してからトルクが出るまでの応答遅れがどうしてもあります。対して、モーターはほんの一瞬でトルクが出せるので、飛躍的に制御性が向上できます。そうしたところにX-MODEみたいな派手な装備もあります。雪上などでクルマは普通に走っているのですが、ガンガンVDCランプがピカピカ光っていて、でもクルマの挙動は至って普通。要はお客さまが気づかないところでフィードバックして直していけるのが電動車。そういったところでコンベのクルマだとなんかガクガクガクガクしながら一所懸命クルマが上っていったり降りていったしていたところが、ソルテラは普通にいくねぇみたいな。そういったところで、なるほどね、と思っていただけるような質を想像していました。確かに価格に見合う価値はある、って思っていただけるようにはしているつもりです。