「e-SGPでWRXを作ってもいい」スバル・ソルテラ開発責任者インタビュー

水平対向エンジンの載らないスバルはどうあるべきか? “電気時代のSUBARU”の第一弾、ソルテラはこうして開発された

スバル・ソルテラ
スバルとトヨタが共同開発したソルテラとbZ4XはBEV用のプラットフォーム、e-SGP(トヨタ側の呼称はe-TNGA)を使ったバッテリーEV(BEV)だ。両社共催で行なわれた試乗会場でスバル・ソルテラの開発責任者、小野大輔さん(SUBARU商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャー)に開発の舞台裏を訊いた。
PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/SUBARU

e-SGPのポテンシャルは?

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MF:トヨタと一緒にe-TNGAを開発なさったというお話ですが、どのあたりの時間軸をエンジニアとして見通して考えるのですか? 2020年代、2030年くらいまでは、このプラットフォームでいけるようにしよう、なんでしょうか?
小野PGM:鉄板の部分とパワーユニットの部分は切り分けるみると、鉄板の部分、つまりシャシーの部分はいけるところまでいっていると思っています。当然、この先法規がどんどん厳しくなっていったり、違う法規が出てくるとアジャストできなくて修正が必要になりますが、プラットフォームのシャシーの部分はいまやれる最大限にはできていると思っています。モーターや電池、電池パック、サーマルシステム、とういったところが、この先はどんどん変わっていくと思います。どこまで見越せているのかというと、モーターの効率の話になると、SiC(シリコンカーバイト。現在使われているSi=シリコンを使う半導体より高効率)を入れてなかったりしますから、そういったところではもう1%、2%効率を稼げるって言われたらその通りです。ただ、ここも難しくてSiCは高価です。ご存知だと思いますが、1万円2万円単位で価格が上がってしまいます。それで得られるのが効率1%だとしたら、カタログの500kmの1%って5kmだよね、5kmで数万円価格が上がってお客さまから数万円いただくのがいいのか。電池やモーターやインバーターを考えると、原価を下げる頒価を下げるのは、なかなか企業努力だけでは難しい世界になっているのかって思っています。

MF:これもたくさん聞かれていると思うのですが、トヨタはKINTOで売って、スバルはいままで通りの売り方をする。これは戦略的に分けようぜって話じゃなくて……
小野PGM:そういうわけじゃないですね。トヨタさんがあくまでKINTOにする、フルリースにするって決めたのはトヨタさんが決めたことです。両方のことを知っているので、なんとも言えないのですが(笑)。あくまでスバルの立場でいうと、やっぱりクルマを所有することに喜びをお持ちの方々っていうのが多数いらっしゃると思っています。ですから、リースもあれば、購入もある。ただ、リースされている方はいまのところほとんどいらっしゃらないですね。5月12日に発売開始になって1週間くらいで、ソルテラは400台、500台くらいオーダーをいただいて、受注ペース的にはこれまで売ってきたレヴォーグ、アウトバックと同じくらいの出だしなんです。
MF:すごいですね。
小野PGM:えーっ!って感じなんです(笑)。

MF:トヨタがリースにした理由は?
小野PGM:トヨタさん側が考えたのは、電池のリサイクル・リユースです。いまのクルマの販売だと10年後に自分たちの手元に帰ってくる確率が限りなくゼロに近い。1回目は下取りで帰ってくるのですが、中古で売ったらもう帰ってこない。たいがい日本じゃないところへ行ってしまうみたいで、ノーコントロールなんです。電池を作らないのが、究極のサステナブル。1回作ったある量の電池をずっと回していって使い続けるのが、EVで得られるCO₂削減とサステナブルな社会だろうと考えていて、そうすると全数回収したい。そう考えたときに帰ってくる方法は、リースだよね、と。なので、全数リースに切り替えたっていうのが理由ですね。

充電はAC(普通充電)が基本。でもDC(急速充電)も工夫している

MF:ソルテラの話とは別なんですが、日産サクラ/三菱eKクロスEVが登場してBEVが増えてきます。そうすると、急速充電器が少なすぎるという議論になると思います。今回の試乗でも急速充電器は少ないなとは思いました。でも、個人的には世間の人が思っているほどたくさんなくてもいいなと思っているのです。BEVは急速充電ではなくて皆さんご自宅で充電して、家に帰るだけの急速充電を10分間でできればいい、っていうふうにしないと、みんなが30分間急速充電してたら、急速充電器は何基あっても足りないと思うんです。そこがまだ一般的な議論にならないのは、まだみんなBEVに乗ったことがないので、急速充電器が近くないと使えないでしょうと思っているからだと思います。開発側としては急速充電ってしてほしくないですよね? 電池が痛むから。
小野PGM:最初にAC(交流=普通充電)/DC(直流=急速充電)どちらに軸足を置いているのかといえば、当然ACに軸足を置いています。日本では集合住宅でAC充電ができない人は急速しか使えないという声が大きいんですけど、海外だと、たとえばヨーロッパでは路上にたくさんAC充電器がありますし、路駐基本の国たちなので、駐めて挿せばACですぐに充電できる。アメリカも集合住宅にAC充電器が意外とたくさん立っています。DC充電器もたくさんあるので気にしなくていい。そういう世の中なので、基本はACで考えています。DCはテンポラリー。で、じつはDCに軸足は置いてなかったですね。ただ、平日は通勤、週末どこかに行く、そのときにDCを使うことは考えていました。トヨタは10年20万km容量70%、スバルは8年16万km70%の容量保証をしています。それを下回ったらバッテリーを交換します。そういうバッテリー性能を保つように入力(充電)の仕方をちょっと工夫しています。SOC(State of Charge=充電状態)10%から80%くらいを連続で2回やるとバッテリーにダメージが溜まるので、しばらくあんまり入らないように急速充電をちょっと抑えたりする工夫をして充電の不便さを最小限にしながら、DCをやられても電池にダメージが残らないようにする工夫はしています。

MF:ソルテラのバッテリー容量は71.4kWhです。欧州のEV情報サイトを見ると、本当に積んでいるのは75kWhとなっていました。
小野PGM:積んでいるのは71.4kWhです。だから実際に使えるのが65kWhくらいだと思います。71.4kWhがグロスでネットが65kWhくらいですかね。

ソルテラ/bZ4Xは71.4kWhのバッテリーを搭載する。バッテリーは日本仕様はパナソニック製。

MF:WLTCモードの電費の計測方法では、「使った電力量」ではなくて使ったあとに、「使った後、フル充電までしたときの電力量」なんですよね。だから充電効率が良くないといけません。ソルテラは充電性能もすごくいい、ということなんですかね?
小野PGM:そうです。電費もめちゃくちゃ良いんです。FFが126kW/kmです。
MF:すごい数字ですよね。
小野さん:そうなんですよ。僕らAWDでも150kW/kmもいかないくらいです(ET-HSで148kW/km)。電費にはかなり気を遣っています。でも商品力、走破性のために車高の高さは絶対に守る。デザインもカッコよくするぞ。でも転がり抵抗、空力はすごく良いです。CDA値は0.28くらいですね。ベースで18インチ履いてホイールキャップつけて、リヤスポイラーをとると0.28とか0.278とかなんですよ。すごく気を遣っていて、走破性と航続距離を両立するようにしてますね。

MF:今日のお話でe-TNGAの成り立ちがわかってよかったです。
小野PGM:僕らはe-SGPって呼んでいます。

MF:これは言えないことかも知れませんが、スバルとしてもソルテラがe-SGPの第一弾でその先を考えながら開発しているってことなんですか?
小野PGM:そうです。どういう使い方になるかはわからないですけど、1回しか使えないプラットフォームってわけにはいかないです。e-SGP、e-TNGAの思想としては、フロントのオーバーハングは固定、リヤもモーター減速機ユニットとタイヤの関係性はホールドしておいて、オーバーハングを延ばせます。ですから、僕らだとアセントという一番大きいSUVもいるし、一番小さいのがXV、フォレスターくらい。今回はホイールベースがフォレスターが2670mm、ソルテラが2850mmなので、アセントとほぼ同じホイールベース(アセントは2890mm)なんだけど、全長はそんなに長くないという不思議なサイズになっています(アセントの全長は4998mm)。大きさ的にはちょうどアセントとフォレスターの間くらいなんです。e-SGPはどっちもいけるようなプラットフォームになっています。あとは商品企画としてどういったところへいきたいのか、それこそe-SGPでWRXを作ってもいいですしね。アメリカで売っているラギッドなウィルダネスにしてもいいですしね。
MF:可能性はいっぱいある?
小野PGM:そうですね。とにかく、モーターは走り出しのトルクが一番大きいので、我々のやりたいことはできますし、応答性の良さですべてがフィードバック、リカバリーも速いし、本当にスバルのやりたいことがさらに磨かれるような、そういった素性を持っている。我々のやりたいこととの親和性がすごく高いので、可能性は広がると思っています。

MF:楽しみにしています。ありがとうございました。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…