目次
その1、電気自動車はEVじゃなくて「BEV」と呼ぶ
電気自動車のことはElectric Vehicleを短くして「EV」と呼ぶのが半ば常識的でしたが、最近では「BEV」といった表現を使うことも増えています。BEVというのはBattery Electric Vehicleを短縮したもので、日本語にするとバッテリー式電気自動車といったところでしょうか。
「そもそも電気自動車はバッテリーに溜めた電力で走るのだから、わざわざB(バッテリー)をつけなくてもいいのでは?」と思うかもしれません。確かに、その通りなのですがクルマの電動化にはプラグインハイブリッドカー(Plug-in Hybrid Electric Vehicle=PHEV)を含めるという見方もありますし、ゼロエミッションでいえば燃料電池車(Fuel Cell Electric Vehicle=FCEV)も存在してます。そして、いずれもElectric VehicleというEV要素を内包しています。
そこで電動車両全般をEVと呼び、その中にBEV、PHEV、FCEVがあるといったふうに区別をするというのが最近のトレンドです。もっとも、EVという言葉はエンジン車がスタンダードである時代だからこそ使われているワードともいえます。電動車両が当たり前になれば、わざわざElectric Vehicleと断る必要もなくなりますから、どこかのタイミングでElectric Vehicleは、単なる「Vehicle」になる日が来ると予想しておくのが妥当でしょう。
その2、出力のkWと総電力量「kWh」は違う
さて、BEVのスペックを見るときに注目すべきなのはバッテリー総電力量です。その単位はkWh(キロワットアワー)となっています。この数字が大きいほど多量の電気を溜めておけると理解すればいいでしょう。
とはいえ、カタログをチェックするときには「kWh」の3文字が並んでいるかをちゃんと確認しないといけません。なぜなら、EVのみならずエンジン車でも最高出力の単位としてkW(キロワット)が使われているからです。こちらは、ご存知のように車両のパフォーマンスを示す数値です。
例えば、スマートフォンの話をしているときに、メモリー(記憶装置)のGB(ギガバイト)と通信制限に関わるデータ通信量のGBを取り違えているようなケースも見かけますが、BEVの話をしている人の中にもkWとkWhを混乱しているケースが少なからずあるようです。意外かもしれませんが、メカニズムに詳しい人同士が会話しているときほど、このあたりの単位については省略されて、徹底していない印象もあります。
なぜなら、最高出力のkWは3桁であることが多く、バッテリー総電力量のkWhは2桁となっているケースが多いので、数字を聞けばどちらのことを言っているかが大体わかるからです。最高出力130kW、バッテリー総電力量60kWhといった感じのスペックが、昨今のBEVにおいては標準的なスペックといえるでしょうか。
とはいえ、今後はバッテリー総電力量が3桁という大容量モデルも増えるでしょうから、kWとkWhという響きの似ている単位については話すときは、どちらのことを言っているのか明確にしていくことが大切といえます。
その3、日本の急速充電は「CHAdeMO」規格が主流
バッテリーといえば、忘れてはいけないのが充電方式です。これについては世界の地域によって規格が異なります。最近では海外での新車発表ニュースを読むことも増えていますから、その辺りの情報を整理しておくとBEVの理解が深まりやすいといえます。
覚えておきたい急速充電規格は以下の5つでしょう。
・CHAdeMO :「チャデモ」(日本)
・GB/T :「ジービーティー」(中国)
・CCS1 :「シーエスエス ワン」(北米)
・CCS2 :「シーエスエス ツー」(欧州)
・SUPERCHARGER :「スーパーチャージャー」(テスラの独自規格)
CCSについてはCOMBOという表記も使われますので、こちらも合わせて覚えておくといいでしょう。また、日本と中国の急速充電規格を「Chaoji(チャオジ)」として統一するという動きもあります。
たしかに、「(充電待ちの間に)お茶でも(どうぞ)」という語呂合わせから生まれた「CHAdeMO」という名前はグローバル展開するにはわかりづらい面もありますから、次世代では名称変更は必須かもしれません。ちなみにCHAdeMOというのは「CHArge de MOve(動くための充電の意味)」の略称です。
また、日常的に保管場所で使うことの多い普通充電については、事実上の世界統一規格となっています。こちらはSAE J1772という規格名で、J1772と省略して書かれることが多くなっています。識別する必要がないので覚えておくことはありませんが、家庭用の普通充電ケーブルを安価に手に入れるときなどにはJ1772で検索することもあるでしょうから、知っておいて損はないはずです。
その4、駆動方式はFRから「RWD」に変わる
あらゆるEVは駆動輪に搭載した電気モーターでタイヤを動かすのが基本となっています。そうなると駆動方式の表記方法も変わってきます。
なぜなら、慣れ親しんでいる「FF」や「FR」という書き方は、「フロントエンジン・フロントドライブ」「フロントエンジン・リヤドライブ」といった言葉の略称であり、あくまでもエンジン車を前提とした表記だからです。EVの場合はエンジンを積んでいませんし、バッテリーはたいていの場合床下に積んでいます。だからといって「フロアバッテリー・フロントドライブ」といった表記をすることはありません。
エンジンの搭載位置を表記しなくなるので、単純に前輪駆動であれば「FWD(Front Wheel Drive)」となり、後輪駆動は「RWD(Rear Wheel Drive)」となります。そして、四輪駆動についてはエンジン車と同じく「4WD」もしくは「AWD」が使われるというのが現時点でのトレンドです。
その5、電気自動車と何かをつなげることを「V2X」という
Vが示すのは「Vehicle」、2は「to」を示すスラングで、Xは「何か」という意味です。つまり電気自動車と何かをつなぐことを「V2X」は指しています。
ところで、最近では電力ひっ迫が話題となることが多く、節電が求められています。こうした電力供給体制においてEVを普及させるのは難しいという見方もあります。
現時点での普及率を考えると、BEVが急速充電を使ったところで電力網全体に対するインパクトはさほど影響しないという風にもいえますが、これからBEVが増えてくるとそうは言っていられなくなるはずです。
しかし、電力ひっ迫している状態だからこそBEVの普及はプラスになるという見方もあります。そうした意見を理解するキーワードが「V2X」というものです。
具体的にXの部分に特定の何かを当てはめる次のような表記がよく使われています。
・V2H(Vehicle to Home):電気自動車と家をつなぐ
・V2G(Vehicle to Grid):電気自動車と電線をつなぐ
・V2L(Vehicle to Load):電気自動車から電気を取り出す
身近なのはV2Lで、「電気を取り出す」とはEV全般に備わっていることの多い100Vコンセントを指す用語といえます。EVの電力で家電が使えたり、災害時の発電機として活用できるという機能を示すのがV2Lです。広義にはクルマから電気を取り出せればいいので、エンジン車であってもV2L機能を有しているものがほとんどともいえます。
V2Hというのは「家とつなぐ」でBEVのバッテリーを家庭用のバックアップ電源として使えたり、太陽光発電で余った電気を溜めておいたりできる機能をイメージするといいでしょう。日本ではCHAdeMOコネクタを使って専用機器につなぐケースが大半でしょう。専用のV2Hを用意しておけば停電時でもBEVのバッテリーを利用して電力供給を続けられることができるというのもメリットです。
V2Hをさらに大規模に展開しようというのが「電線とつなぐ」V2Gです。グリッドというのは電線、つまり電力供給網を意味します。たとえば、再生可能エネルギーというのは需要に応じた発電が難しいという特性があります。そこで、地域全体としてBEVの電気をバッファとして利用することで、安定供給を実現しようというものです。それなりの台数が必要になりますから、夜間にはあまり使われないシェアリングのBEVをグリッドに組み込んで電力供給を最適化するといったものがV2Gのイメージといえます。
電力ひっ迫だからBEVは普及しないのではなく、カーボンニュートラル社会の実現にはV2Xを前提とすることがマストと捉え、よきタイミングでV2Xを自分事として理解する必要がありそうです。