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しっとりとした質感は史上最高性能(オレ調べ)
ノーマルのサスペンションには制約が多い。フル乗車で泥道も走れて、立体駐車場にも入れられる最低地上高も必要、そしてもちろん高速道路も安定して走れなければいけない。
その最大公約数的な性能を持たせると、車高は高く、ふんわりとした乗り心地ながら、大きなロールは抑えたいのでダンパーを締め込み、結果として乗り心地はソフトなのに、コツコツと路面の突き上げは感じやすいサスペンションとなってしまう。そしてスポーツ性能については、なんとも微妙な……純正サスペンションができあがってしまうのも仕方がない。正直先代86後期のサスペンションもそんな感じだった。
ところが、だ。GR86は乗った瞬間から違った。
これまでのノーマルサスに比べたら硬めというか、硬くはないが、コールや前後方向へのピッチングの量が少ない。車体の姿勢が変化する量が少なくなっている。それでいて路面の段差などをコツコツと伝えてくる感じもない。ナニコレ、すごく快適。
サスペンションが動き始めた1mm単位のところから、減衰力がしっかりと効いているのでサスの動きを適度に規制している。それによって「しっとり」とした動きと、乗り心地が感じられる。
いうならば、アフターパーツのサスペンションの “セッティングの決まった高性能なもの” に近いのだ。アフターパーツのそれはサーキット向けにセッティングすると、相応にばねレートは高くなり、ロールやピッチングの量も少なく、一歩間違えれば乗り心地が悪くなるのだが、絶妙な減衰力によって「しっとり」としている。
だからこそ、普段から街乗りも快適にできるし、サーキットでも縁石に乗っても挙動を乱さず、路面コンディションの変化にも対応できる。
素晴らしい。でも、いただけない
そういったスペシャルな性能がこのサスペンションには宿っている。
すでにサーキット走行もしたが、ほとんど不満はない。
やや姿勢変化の量は大きいが、ノーマルらしい船のような挙動で、ひたすらアンダーステアからの、どこかの点から突如としてオーバーステアに切り替わるようなピーキーさはまったくない。
どこまでも安定してコントロールできる。だからこそ、意図的なドリフト走行も可能。
先代も「ゴルフで100のスコアを切れる人なら、ノーマルサスでドリフト走行ができるように仕上げたい」という話だった。
たしかに先代もスライドコントロールができるクルマだったが、それはどちらかというとリヤの限界が低いクルマだった。リヤタイヤが滑りやすいセッティングだったのだ。
ところが、GR86はそうではない。限界は非常に高い。そのうえで適切なクルマの動きがあるので、リヤのスライドができる。そこには高い志を感じる。ちょっとおったまげるくらいすごいサスペンションなのである。
筆者としてはノーマルにも良さはあるが、自分好みに仕立てることでもっとよくなると考えている。
そのためいろいろとチューニングをすることが多いが、GR86に関してはノーマルサスのセッティングが、このクルマのサスペンションセッティングの答えのなかのひとつであると思う。
もちろんこれがすべてではない。正解のなかのひとつ、だ。
ただ、車高だけはいただけない。
単純に見た目がこの車高ではイケてない。
自動車メーカーのコンセプトモデルがことごとく車高が低いことからもわかるように、スポーツカーは車高が低いとカッコいいのだ。
なので、この味つけは尊重しつつ、車高を下げていこうと思う。