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日産サクラ、絶好調である
5月20日に華々しく発表され、6月16日に販売開始となったサクラ、絶好調である。すでに2万3000台以上(7/24時点)の受注を獲得している。「軽の電気自動車(BEV)」「買いやすい価格」「一充電走行距離=180km」といった要素が多くの人にとってポジティブに響いたということだ。
サクラを注文した人たちの多くは2台目以降の複数所有者でBEVに以前から興味を持っていた人だそうだ。筆者も興味がある。個人的に「BEVの本領はシティコミューター」だと考えている。となれば、「サクラ、いいじゃん!」となるのは必定。さっそくサクラを借りだして数日間、生活をともにしてみた。借りだしたのは、最上位グレードの「G」。ボディカラーはシーズンズカラーであるブロッサムピンク/ブラックの2トーンだ。
まずは、外観。アリアと共通性を持たせたエクステリアは素直にカッコイイ。軽規格の全幅だとやや細くて背が高くなってしまうが、それを除けば軽自動車とは思えない上質感のある佇まいだ。
乗り込んでみる。インテリアも専用デザインでシートやインパネの質感が高い。手触りもいい。サイズを除けば「軽に乗っている感覚」はない。これも◎だ。
今回、サクラを3日間借り出して普段使いしてみた。テーマは「急速充電をしないで普段使いできるか?」「酷暑のなかエアコンをフルで効かせて航続距離はどうか?」「電気代は?」である。
驚異的に電費がいい!
いつものように横浜にある日産グローバル本社の地下駐車場でサクラを預かり、新宿にある編集部に向けてスタート。借り出した際はバッテリー98%で155kmの走行可能距離(ACをオンにすると146km)を示していた。もちろん、AC(オートエアコン)は常時ONだ。
走り出してすぐに感じるのは、アクセルを踏み込んでもエンジンが唸らないことの清々しさだ。モーター駆動って素晴らしい! 急なスロープ(日産本社の地下駐車場から地上に出るスロープも急傾斜だ)をなんなく登れるのは、195Nmという2.0ℓ自然吸気ガソリンエンジン並みの最大トルクのおかげ。
首都高速に乗ったら、プロパイロットをONにする。速度は制限速度(当たり前だ)に設定した。今回の試乗中、高速道路での最高速度は概ね上限を100km/h、巡航速度は75~80km/hに留めるようにしていた。BEVは延々と高速道路を巡航する乗り物では(いまのところ)ないし、全高の高いサクラ(1655mm)だから速度が上がれば上がるほど空気抵抗で電費は落ちていくと想像していたからだ。
横浜から新宿へ、さらっと44.4km走った際の電費は「9.4km/kWh」だった。この数値、非常に良い。1kWhの電力量で9.4km走れるということを意味しているから、サクラのバッテリー容量(20kWh)なら9.4×20=188km走れるわけだ。WLTCモード電費の一充電走行距離が180kmだからそれを上回る電費だ。しかも酷暑のなかエアコンを効かせての電費。
サクラの電費は
WLTCモード:124Wh/km
である。これは「1km走るのに124Whの電気を使う」ことを意味する。つまり、1kWh(1000Wh)で8.06km走れるわけだ。BEVの電費の計算は複雑だから、わかりにくいところが多い。が、日産はBEVのノウハウをもっとも蓄積している自動車メーカーだけに、モード電費とは別に、リアルワールドでの電費がいい。アリアもそうだった。どこかにきっと勘所のようなものがあるのだろう。
初日は60km走って、平均電費は8.6km/kWhだった。バッテリーの残量は60%で93kmの走行可能距離を示していた。つまり、153kmが走行可能距離だったわけだ(平均速度は29km/h)。エアコンは設定温度25℃で常時ON、ドライブモードはスタンダードだった。
スマホアプリが便利 エアコンは乗車前にON
電費に大きな影響を及ぼすのはエアコンだ。しかも酷暑。クルマを定常で走らせるのとほぼ同じエネルギーをエアコンが使うというから無視できない。かといって、エアコンをOFFにするという選択肢もない。
というわけで、今回は日産のスマホアプリ「Nissan Connectサービス」を使ってみた。これがなかなか便利。もっともありがたいのは、自宅を出発する前に、エアコンをONにして車内を快適な温度にできることだ。プラグを挿したままエアコンをONにすると、車載のバッテリーではなく自宅のコンセントからの電気でエアコンが作動するから車載バッテリーは減らない。
酷暑の東京で出発前の車内温度は、おそらく40℃以上になっているだろう。これを車載バッテリーを使って冷やすのは、ちょっときつい(というよりなんだかもったいない気分になる)。スマホアプリで乗車前にエアコンをONにできるのはとてもうれしいのだ。もちろん、毎日出発する時間が決まっていれば、タイマー予約もできる。
乗車前にエアコンをONにして快適な状態で出発した3日目。今度は都内から三浦半島方面へ撮影に出かけた。この日は
109km走って9.3km/kWh
という素晴らしい電費データを叩き出してくれた。乗車前エアコンONも多少はこの電費に貢献してくれているだろう。
3日間でトータル226km走行して平均電費は8.0km/kWhだった。サクラは単純計算で160km(エアコンONで)走行可能な性能を持っているわけだ。日産によれば軽自動車ユーザーの半数以上の1日の走行距離が30km以下だという。100km以下まで入れれば84%になる。160kmもあれば、まったく不自由することない。逆に言えば日常使いで毎日150km走る人はサクラを選ばないだろう。
今回の試乗テーマのひとつは「急速充電をしないで普段使いできるか?」であったが、これは満点だ。でも、時々は遠出することもあるだろう。ということで、最後に急速充電もしてみた。場所は首都高速・大黒パーキングエリアである。
サクラの急速充電器(受け側)の性能は30kWだから、いまどきのBEVとしてはミニマムな性能だ(もちろん、あえてそうしているのだろう)。だから、日本全国ほぼどこの急速充電器を使っても、その性能をフルで発揮できるというメリットがある。車載側の急速充電性能が90kWあっても、給電側の急速充電器の性能が30kWだったら(そして30kWのものが現在のところ圧倒的に多い)、30kWでしか充電できないからだ。
大黒PAで30分急速充電して充電できたのは10kWh分だった(バッテリー残量29%→85%)。単純に70km走行分ほどが30分で充電できたわけだ。急速充電は、やはりエマージェンシー用(つまり帰宅できる分だけ充電する)、と思っていた方がいいし、本来BEVとはそういうもの。シティコミューターとして、電気の軽・サクラは、まったくもって現在のところの「あるべきBEVのひとつのカタチ」だと思う。
電気代はいくら? ガソリンより安い?
最後に電気代の計算をしてみよう。実験のための急速充電は考えずにすべて自宅での急速充電で運用したとしたら。そして電気料金を30円/kWhだとしたら、次のようになる。
225.9kmを8.0km/kWhで走ったので、使った電力量は28.2kWh
1kWh=30円だから846円の電気代
ガソリン車のデイズだったらどうなるか。
レギュラーガソリン代=165円/ℓで計算して
ガソリン車のデイズ(FF)のWLTCモード燃費は21.2km/ℓ。実燃費がその90%だと仮定して19.1km/ℓとする。
225.9kmを走行するには11.8ℓのガソリンを使う。ガソリン代は1947円になる。
というわけで、電気代の方がガソリン代より圧倒的に安いのだ。
これから注文した人の元へ続々とサクラが納車されていく。2万人以上のBEV所有者が生まれていくわけだ。この人たちがサクラとどう付き合い、BEVを使いこなしていくか? サクラは、日本でのBEV普及の起爆剤になる。そんな予感が確信に変わった3日間だった。
日産サクラG 全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm ホイールベース:2495mm 車両重量:1090kg 乗車定員:4名 サスペンション:Fマクファーソン式/Rトルクアーム3リンク式 駆動用モーター MM48型交流同期モーター 最高出力:47kW(64ps)/2302-10455rpm 最大トルク:195Nm/0-2302rpm 駆動用バッテリー 総電圧:350V 総電力量:20kWh WLTCモード:124Wh/km 市街地モード 100Wh/km 郊外モード 113Wh/km 高速道路モード 142Wh/km 一充電走行距離:180km 車両本体価格:294万300円 メーカーオプション(32万5600円) 充電ケーブル(コントロールボックス付き、200V、7.5m) 5万5000円 プロパイロットパーキング 5万5000円 プレミアムインテリアパッケージ 4万4000円 ブロッサムピンク/ブラックの2トーン 6万6000円 165/55R15+アルミホール 2万2000円 LEDフォグランプ+ホットプラスパッケージ 8万3600円 ディーラーオプション(11万1315円) ウィンドウ撥水 1万1935円 日産オリジナルドライブレコーダー 7万7380円 フロアカーペット 2万2000円