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ボディサイズを縮小しながら空間は拡大
今や外資系メーカーでもある日産は、日本市場においては良くも悪くも“選択と集中”がハッキリしている。軽自動車やコンパクトカー、ミニバンなど、日本での量販が見込まれる商品はきっちりと日本専用に開発するいっぽうで、グローバルモデルは地元だからといって日本市場がひいきされることはない(笑)。
エクストレイルは北米や中国をはじめ、中東、欧州、そして日本でも販売されており、日産でも随一のグローバル商品である。日本でもファンが多い人気商品だが、新型の日本導入は、最大市場のアメリカ(現地名はローグ)から約2年、中国からも1年以上遅かった。市場規模をクールに判断したマーティングは、いかにも日産らしい。もっとも、日本導入が遅くなった表向きの理由は「e-POWERの開発に時間を費やしたから」というもので、同じくe-POWERのみの設定となる欧州市場と同時期のデビューとなった。
エクストレイルが属するDセグメントSUVは、世界的にもっとも競争が厳しい市場だ。そして、2000年に初代が発売されたエクストレイルは当時どん底だった日産の経営をV字回復させた立て役者でもあり、絶対に失敗の許されない基幹車種である。それゆえに、今回もいかにも力作なオーラがただよう。
すでに世界中で定番の地位を築いているクルマなので、ボディサイズは全幅以外はわずかに縮小しながらも、後席や荷室の空間はうまく拡大している。質感も素直に高い。塗装品質は高く、グリルの仕上げも精緻で繊細だ。今回の試乗車は最上級にして4WDの「G e-4ORCE」で、ダッシュボードがレザー張りなのはこのクラスではいくつか例があるが、右端エアコンアウトレット周辺の小さなパネルにまでステッチとレザーがあしらわれる手の込んだ仕立で、このセグメントとしては内装の質感はマツダと双璧といいたい。
3気筒とは思えない静かさ
パワートレーンは日産得意のe-POWERで、日産が世界で初めて実用化した可変圧縮比(VC)ターボの1.5リッターエンジンが発電に徹して、前後のモーターで駆動する。内部では複雑なリンク機構で負荷と回転数に応じて圧縮比を変化させているのだが、以前に純粋なVCターボエンジン車に乗ったときも、実際の走行感覚にギクシャクしたカラクリ感は皆だった。低負荷では高圧縮+低過給圧で効率よく、高負荷になると低圧縮+高過給圧でパワフルに発電するVCターボはシリーズハイブリッドとの相性もいいという。
それにしても、1.5リッター3気筒とは思えない静かさだ。ロードノイズが小さい速度域では極力エンジンを止めるなどの工夫はノートにも共通するものだが、エンジンがフル稼働するような場面でも、エンジン音は遠くからかすかに聞こえるにすぎない。つまり絶対的な静粛性が高く、音質もあまり3気筒らしくないので、なおさら静かに感じられる。アクセルを荒っぽく扱っても、無粋なショックなどを出さないのは、純粋な電気自動車も含めた電動パワートレーンの経験が深い日産ならでは……である。
リヤモーターのスペックは136PS/195Nm。数値だけなら2.0リッターエンジンを思わせる強力なものだが、フロントモーターはさらに強力な204PS/330Nmをうたう。場合によっては最大30:70というリヤ優勢トルク配分になることもあるが、今回のような舗装路だと基本的に安定感の高いフロント優勢配分で走るという。いかに振り回そうとしても、三菱アウトランダーPHEVみたいにリヤからグリグリと曲がっていくような挙動にならない。
今回は埼玉県長瀞周辺の高速道とせまい山道とで1時間弱……という限られた試乗だったので、あまり断定的なことはいえないが、スムーズでパワフルなパワートレーンに加えて、ボディ剛性感もすこぶる高く、ステアリングも堅牢で正確だった。つまりは日産主導で開発されてルノーや三菱も使うCMF-C/Dプラットフォームの素性のよさがうかがえた。
あえて気にになったところをいえば、今回の19インチタイヤの場合、細かい不整路では予想外に強く揺すられて、ステアリングの利きも少しばかり鋭く強力すぎる感があったことだ。今回は試乗できなかったものの、開発陣の話もうかがったうえで予想だと、「X」以下のグレードが履く18インチのほうが、乗り心地はよりまろやかに、ステアリングレスポンスは穏やかになるようだ。
高級感が増した新型エクストレイルには、個人的には18インチのほうが合っている気もする。ちなみに、タイヤ銘柄は各サイズごとに決まっており、19インチがハンコック、18インチがファルケン、「AUTECH」専用の20インチがミシュランである。
というわけで、乗り心地ではグレード選びにちょっと迷うところはあるものの、新型エクストレイルはさすが渾身の力作らしい完成度である。とくにこのセグメントに高級感や静粛性をお望みなら、現時点では国産の筆頭候補だと思う。
日産 エクストレイル G e-4ORCE 全長×全幅×全高 4660mm×1840mm×1720mm ホイールベース 2705mm 最小回転半径 5.4m 車両重量 1880kg 駆動方式 四輪駆動 サスペンション F:ストラット R:マルチリンク タイヤ 235/55R19 エンジンタイプ 水冷直列3気筒DOHC エンジン型式 KR15DDT 総排気量 1497cc 最高出力 106kW(144ps)/4400-5000rpm 最大トルク 250Nm(25.5kgm)/2400-4000rpm フロントモーター BM46 最高出力 150kW(204ps)/4501-7422rpm 最大トルク 330Nm(33.7kgm)/0-3505rpm リヤモーター MM48 最高出力 100kW(136ps)/4897-9504rpm 最大トルク 195Nm(19.9kgm)/0-4897rpm 燃費消費率(WLTC) 18.4km/l 価格 4,499,000円