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航空祭の新しいスタイル?
2022年9月19日、航空自衛隊小松基地(石川県)で「令和4年度 航空祭」が開催された。これは既報したとおりで、小松基地所属の各飛行隊などが戦闘機などの地上展示やデモフライトの実施を始め、その他の装備品展示や格納庫での制服試着、パネル展示なども行なう大イベントだった。
小松基地によると来場者数は3万人。コロナ感染拡大防止策として入場希望者には事前申し込み・抽選制を実施し、従来よりも人数を絞ったうえでの開催となった。過去、たとえば2016年の来場者数は7万2000人だったそうで、これからすると今回は人数面でコンパクトになっている。
一方で、小松基地と向かい合う小松空港の展望場や公園などの近隣施設で見た方々も多く、外部地域にいた人数は筆者の体感だがかなり多かったと思う。これは抽選に外れたり、当初より事前登録制を選ばず場外での見学で臨んだ方々が多いことなどを表すのではないかと思う。
先の松島基地祭も同じく事前登録制であり、抽選にハズれた方や最初から場外で見ることを選んだ方々はやはり多かったように感じた。
混雑や密集等を避ける意味でも『基地の柵の外で見る』スタイルはコロナ禍での航空祭のありようを示す特徴のひとつなのかもしれない。
催事運営の難しさ
同時に、自家用車などで周辺地域にアクセスした場合、基地近隣施設や駐車場が満車で停められないまま、周辺道路や国有地、私有地への違法駐車や無断駐車をしてしまう問題も発生している。
小松駅前の有料駐車場は本番当日早朝から順番待ち、あるいはすでに満車などの状況が見て取れた。
地元に被害を与えないよう、最寄駅からは公共交通機関やタクシーなどの利用が肝要になるが、用意されたバスやタクシーがフル回転している状況でも、待ち時間は長かったようだ。
自前の折り畳み自転車を持参し、現地で活用する方々も多く見たが、これも増大すれば交通事故や無断駐輪などが増えてしまうかもしれない。
地元へストレスを与えず、交通混雑にも影響しないのは徒歩でのアクセスしかなくなるが、これは基本的にツラい。となると、臨時駐車場の増設が良さそうだが、年に一度の催事のために遊休地を探し、運用管理コストをかけることは、現実的に考えるとできないだろう。
イベント会場へのアクセス性向上や周辺混雑解消など、催事の運営の難しさや課題は、小松基地祭を体験して感じられた。
インパルスの長旅のはじまり
さて、小松基地祭には空自のアクロチーム・ブルーインパルスも参加した。前日18日の予行日にはホームベースの松島基地から飛来し、予行・本番ともに展示飛行を行なうのが小松基地祭の目玉のひとつだった。
だが、この日程に合わせるように台風14号が接近中。筆者を含むファンの間には「中止」の心配が湧き上がっていた。
筆者は気を揉んだあげく一度諦め、宿泊先やレンタカーの予約をキャンセルした。しかしその後、台風の進路予想や接近時期を見ながら実施の可能性はまだあると考え直し、再度各種の予約を取り直して現地に向かったという有様だ。
結果的には台風14号の進路と速度、上陸時期は基地祭の実施に影響を与えないものと前日18日夕刻に小松基地は判断し、予定どおり航空祭を開催した。
ブルーインパルスが小松基地上空へやってきたのは18日午前9時すぎ。所定の着陸経路をたどって滑走路へ1番機から降りてくる。1番機から6番機までと、予備機1機の計7機だ。

各機とも左右の主翼下には増槽(燃料タンク)を吊り下げている。これは松島~小松間の移動よりもさらに遠征する状況を思わせるもの。というのは小松基地航空祭のあと、シルバーウィーク後半の23日には、西九州新幹線開業記念飛行が長崎で予定されている。
小松祭を終えたあとインパルスは松島基地へ戻らず、そのまま九州・築城基地へ移動する計画なのだろうと、この増槽を見てインパルスの長旅を想像した。
後日、長崎での記念飛行(本番日)はあいにくの雨模様のなかではあったが、フライトしている。
18日の小松予行ではインパルスの展示飛行は午後3時頃から予定され、そのとおりに離陸。

快晴ではないが、彼らの飛来に合わせて少し好転した小松の空を飛んだ。5機や6機編隊で大きなループを描いたり、空にハートを描き、その中心を1機が貫く人気の課目「キューピッド」なども行なった。精彩に欠ける空模様だったが、あとは明日19日本番の空に期待するしかない。
その翌日19日の小松航空祭本番日、空模様は相変わらず悪く、風も強い。これでは焚いたスモークも消し飛んでしまいそうな感じだ。しかしインパルスは準備を始める。会場正面で、詰めかけた観衆を前にプログラムを開始。順次離陸してゆく。
展示飛行は4機で密集しダイヤモンド型のフォーメーションのまま会場上空を旋回する「ファンブレイク」から始めた。その後、密集隊形のままでの大きな各種のループ、単機や2機でのロールなどを挟みつつ、会場奥から進入し正面で急上昇、散開して上空へ向かう「サンライズ」、予行同様に「キューピッド」など人気の課目を披露する。

小松基地は航空自衛隊と民間航空が同じ滑走路を使う供用飛行場だ。だからインパルスの展示飛行が民航機の離発着時間に差しかかるとプログラムは一時停止、インパルスは上空の別空域で待機、そして旅客機の離発着後にプログラムを再開するという供用空港らしい展開も見られた。


そうした調整具合によるものなのか気象状況の変化なのかは定かでないが、一部課目の割愛などを経て展示飛行は続き、プログラム終盤には5番・6番機による「コークスクリュー」だ。強風にスモークは流されてしまい、キレイな直線と螺旋状の航跡が崩れがちだったことは残念だった。

やがてプログラムは終了、全機着陸しパイロットは降機、すべてを終えた彼らがエプロン地区で手を振ると観衆もそれに応える。展示飛行全体でみると定番的な人気アクロを展開し、観衆にとって満足度の高いものを披露していたと思う。
台風にヤキモキしたせいか、小松のフライトが無事終わったことに筆者は観衆のひとりとして安堵感のようなものを覚えた。

今年は9月の連休のふたつともが台風の影響を受け、被害も起きている。そもそも9月は台風シーズンだ。来年の各地の航空祭は台風シーズンを避ける開催時期へと見直す必要がありはしないか。
しかしながら自衛隊には催事を行なう日程的な制約や事情も抱えているだろうし、開催時期を見直すとして、気候が変動している状況の我が国で空模様が安定する最適時期や季節などが来年には訪れるとの確証もない。筆者は不案内だが、検討なく慣例として同じ時期に継続するだけの状態に陥るのは国民にも自衛隊にも得策ではないと感じるが、どうだろうか。
ブルーインパルスのフライトが予定される行事はこのあと、10月1日に第77回国民体育大会「いちご一会とちぎ国体」(栃木県宇都宮市)、同15日に今治港開港100周年記念事業「みなとフェスティバル100」(愛媛県今治市)、同23日エアフェスタ浜松2022(静岡県・浜松基地)などと続いてゆく。
この先の空模様が好転、安定することを願い、筆者はインパルスを追う修行を続けようと思う。