映画『トップガン マーヴェリック』スペシャルマーキング機が飛ぶ!【自衛隊新戦力図鑑|航空自衛隊】

第306飛行隊のスペマ・トップガン マーヴェリック機のフライト。
航空自衛隊の小松基地で約3年ぶりに航空祭が行なわれた。台風14号が接近、予想では北陸地方を直撃するコースを進もうとしており開催が危ぶまれたが、予行・本番ともに無事実施、全国から多くのファンが集まり、主力飛行隊の各種展示や記念塗装機の展示・飛行などに熱中した。

TEXT&PHOTO:貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

3年ぶりの開催!

2022年9月19日、敬老の日。石川県にある航空自衛隊小松基地で「令和4年度 航空祭」が開催された。小松基地に置かれた各飛行隊などが所属機などの地上展示やデモフライトを行ない、空自のアクロチーム・ブルーインパルスも飛来しダイナミックな展示飛行も行なった。

小松基地の発表による来場者数は3万人。少ない印象を受けるが、コロナ感染対策として入場の事前申し込み・抽選制の実施など絞り込んだ規模での開催実態だったからだろう。

この日程は、台風14号が九州を襲い、続いて中国・山陰・北陸地方を北上する進行予想コースが発表されていた。一時は航空祭開催も危ぶまれたが、小松航空祭は前日18日の予行、19日の本番とも開催。

F-15J戦闘機による機動飛行。機動飛行とは、戦闘機のハイパワーを活かして急旋回や急上昇、急降下や急横転などの戦闘行動を再現するもの。

これは台風14号の実際の進行コースと通過するタイミングが、航空祭の実施日時である19日午前9時~13時に影響を与えないものだったからだ。実際に18日の空模様は現地の体感で曇り時々晴れ、気温は30度を超える高温(風向きはコロコロ変わった)、19日は曇り。風は強いがフライトは可能なものだった。

小松航空祭の開催可否判断は前日18日夕刻まで延ばされていた。ギリギリの判断だったことが推察される。コロナ禍による中止を経て3年ぶりの開催という熱のこもった状況を邪魔する台風の襲来。開催可否の意思決定を行なった空自小松基地司令や気象隊など関係者らのさまざまな苦労がしのばれる。

「救難最後の砦」を有する小松基地

小松航空基地は日本海側に唯一置かれた基地で、F-15J戦闘機を擁する戦闘機部隊が置かれた大拠点だ。小松が日本海上の空の守りを固める態勢は昔もいまも変わらない。小松は重要拠点なので戦闘機パイロットは猛者揃い、それを見に来る観衆も「ガチ勢」のマニアと言って差し支えない老若男女が主力となる。小松の航空祭はこんな図式で長年展開されてきたという。

小松に置かれた戦闘機部隊はふたつ、第303飛行隊と第306飛行隊だ。ともにF-15J戦闘機が配備されている。さらに「飛行教導群」という部隊も置かれている。

救難捜索機U-125Aがフライト、救難活動の一端を再現する。機体には援助物資投下機構を装備し、遭難者に対する延命も含めた援助能力が向上している。これは援助物資を投下した瞬間。援助物資はパラシュートで降下する。

この部隊はいわゆる仮想敵機部隊で、独特な塗装を施したF-15DJ(複座機)を運用する。空自のなかでも優れた技量を持つパイロットが配属されていて、全国の戦闘機部隊などを巡回指導する役割だ。これら3つの部隊がF-15J/DJを使うことで小松はF-15のメッカとなり、本格や本物といったものを求めてファンは集う、そういう様相であることが現地へ行って感じられた。

さらに「救難最後の砦」とも言われる小松救難隊も置かれる。

救難ヘリUH-60Jから救難員が地上へ降下、遭難者の吊り上げ救助を再現。救難隊は24時間体制で航空機搭乗員の救出を主任務とする部隊。また山岳救難や海難捜索・救助、離島など遠隔地からの急患空輸等の災害派遣を要請に応じて行なっている。

救難ヘリUH-60J、救難捜索機U-125Aが配備される。遭難者を救助する役割の救難員はこれまた猛者揃いだ。その訓練は陸海空自衛隊のなかでもっとも厳しいなどと噂されている。実際、事故や災害派遣で小松救難隊が実働する現場は相当厳しい状況が多いと聞く。そんな厳しい状況下でも救助任務を完遂する高い能力を持つので「救難最後の砦」と呼ばれている。

飛行教導群も機体展示とフライトを行なった。教導群の使用機体は複座機のF-15DJで、機体には独特の塗装が施される。塗装は隊員らで考案しているそうだ。写真の機体は茶色系の雲型迷彩で、マニア間では「砂漠」と呼ばれる。

ちなみに、19日本番の会場アナウンスで救難隊を紹介する一節には「キツイことがたまらなく好きだというかたは、どうぞ救難隊ブースを訪ねてください」といったリクルート放送が行なわれていて唸った。

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目玉展示は大人気映画の、アレ

こうした、F-15J戦闘機部隊と飛行教導群、小松救難隊を主に展開されるのが小松航空祭なのだが、今回の目玉といえるのが「スペシャルマーキング機(通称:スペマ)」の展示と、空自アクロチーム・ブルーインパルスの展示飛行だった。

スペマ機は2機あった。1機は垂直尾翼などに龍を描いた第303飛行隊の機体。同飛行隊の愛称は「ファイティングドラゴン」で、龍は同飛行隊のシンボルだ。地元「白山」に棲むという龍をモチーフにし、『「ドラゴン魂」の精神を胸に、日々精進しています』という。この機体はマニア間で「ドラゴン」と呼ばれている。

第303飛行隊のスペマ・ドラゴン機の離陸。なにかの不調が発生したのか、離陸前には大勢の整備員が機体を点検・調整していた。

さて、もう1機は現在大人気公開中の映画『トップガン マーヴェリック』で劇中の主人公ピート “マーヴェリック” ミッチェル海軍大佐の乗機F/A-18のカラーリングレプリカ機を第306飛行隊が造ったもの。第306飛行隊はF-15近代化改修機というアップグレードされた最新機体を運用する部隊だ。同飛行隊は選抜された空自パイロットを集めて戦技教育を行なう戦技課程を実施する、日本版「トップガン」部隊だという。

写真手前左が第306飛行隊のスペマ・トップガン マーヴェリック機、右手が第303飛行隊のスペマ・ドラゴン機。2機の特別塗装機の展示と飛行、そしてブルーインパルスの展示飛行が今回の小松航空祭の目玉と言える。

飛行隊は「ゴールデンイーグル」を名乗り、こちらのシンボルは石川県の県鳥である「犬鷲」がモチーフとしたものだ。
『「犬鷲魂」の精神を胸に、日々精進しています』という。精悍な塗装がF-15Jのフォルムを一層惹きたて、人気だ。

第306飛行隊のスペマ・トップガン マーヴェリック機のフライト。やはり少し調子が悪かったのか、前日18日の予行には飛ばず、19日だけ飛んだ。

地域の協力も素晴らしかった

これら2機のスペマを小松のエプロンに並べて展示し、その手前ではファンが重なり合って撮影し見学している。スペマは各々デモフライトも行ない、航空写真愛好家と報道陣の望遠レンズの砲列が追従、一般層のスマホなども連写で唸りをあげ、会場にいるファンはほぼ「撮影ガチ勢」と化した。

その後、ブルーインパルスが展示飛行を行なう。しかし曇りがちで風も強いので曳いたスモークも早く消えてしまう。台風直撃も懸念された状況下だから空模様が悪いのは仕方がない。それでも3年ぶりのブルーインパルスのフライトを小松の人々は楽しんでいた。

航空祭の格納庫では大小様々な催事が行なわれる。これは「マーヴェリック」塗装したヘルメット等の試着・記念写真撮影コーナー。かなり人気コーナーだった。

インパルスのフライトが終わると多くの観衆が帰り始める。台風の進路を考えると早めの撤収は賢明だ。このあと、JR小松駅を発着する北陸線は減便や終電を早めるなど災害対応の運行調整を行なったので、帰宅の足がなくなる前に帰るのは安全策。

小松基地~小松駅間のシャトルバスも当然ながら混み合ってしまい、待ち時間も多くなるから早めにしたい。大勢が一気に動くこうした大規模イベントではこれまた仕方のないことだが、北陸鉄道によるシャトルバスの運行は素晴らしかった。

多数のバスを投入することに加え、たとえば朝の基地入場時、正門前で開門を待つ大勢の人の列の最後尾付近に合わせてシャトルバスは停車、乗客を降車させた。続いて、後続車は長さが変わる行列の最後尾に随時合わせて小松駅からの乗客を降車させるピストン輸送方式を行なった。

従来は入場待ちの行列の長さや位置に関係なく、正門などのバス停に小松駅からの乗客を降ろしてしまい、降車した人々はすでに入門待ちの長い行列の最後尾を目指して戻るように歩かねばならなかったそうだ。こうした不便・不合理の声も挙がっていたのだろう。そういった意見を真摯に受け止め、柔軟な輸送オペレーションを実行したのだと思う。うん、移動もイベントも、大満足!

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…