使えるヨンク! 非装甲の「高機動車」は人員等輸送用4WD【自衛隊新戦力図鑑|陸上自衛隊】

高機動車は輸送艦などに載せて遠隔地へ送ることも当然可能だ。高機動車は輸送艦内でホバークラフトLCAC(揚陸艇)へ自走で乗り移り、そのまま海上を運ばれる。そしてLCAC海岸線へ上陸する。写真はLCACからトレーラーを牽引しつつ降りる高機動車。写真/陸上自衛隊
人員等輸送用の「高機動車」後部には約1.5トンの資機材を積載可能なほか、人員なら前後席合わせて8名を乗せることもできる。戦闘単位での移動に加え、火砲やトレーラーの牽引にも使われ、荷台に装備ユニットごと載せた派生車もある。高速道路や一般道路の走行性能は高く、オフロードでも優れた走破性・機動性を発揮する。使い勝手の良い4WDだ。

TEXT&PHOTO:貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

開発と納入はトヨタ自動車

人の移動や物資の運搬、戦闘への投入など、ミリタリー分野で4WDのニーズは常に大きい。いわゆる『使えるヨンク』は古今東西の軍事組織で必需品だ。
1980年代から90年代にかけて新世代・軍用小型四輪駆動車のニーズが高まり、米軍でその具体化がなされたのが「Humvee(ハンヴィー)」(HMMWV: High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle=高機動多用途装輪車両)だった。ハンヴィーの量産開始は1985年。非装甲だが大型で頑丈な車体に大パワーの心臓部、高い走破性を持つ脚周りの組み合わせは、便利な軍用四駆として一気に普及した。

自衛隊も同様に新世代の軍用小型四輪駆動車を開発、導入を開始した。それが「高機動車」だ。部内では「コウキ」などと呼ばれる車両である。人員輸送用車両の位置づけで1980年代後半に登場。開発と納入はトヨタ自動車。製造は日野自動車が行なった。

モーターファンフェスタ2022での高機動車。富士スピードウェイの西ゲートから入場、外周路のタイヤメーカー・アーチをくぐり、パドック内の展示会場へ向かって静かに走る。

高機動車は陸上自衛隊向けの専用開発車両だが、同時期にトヨタはその民生版として「メガクルーザー」を登場させ、大きな話題となったことを憶えている読者もいるだろう。航空自衛隊では消防車両系統の「場外救難車」という名称と用途でメガクルーザーを導入、現在も使っている。
高機動車は1993年から現場部隊で使い始めた。まずは普通科(歩兵)部隊へ導入されてゆき、現在では普通科全部隊への配備が完了。普通科に続いて特科(火砲やミサイル部隊)や施設科(戦闘工兵部隊)、通信科部隊など、職種をまたいで導入されてきた。

高機動車のエンジンはトヨタ・ダイナやトヨエースなどに使われた「15B」を基にするものだそうだ。その直列4気筒直噴ディーゼルにターボ/インタークーラーを装備した「15B-FT」を本車の当初モデルに積んだ。その後は、排ガス規制に対応する「15B-FTE」へ変更されているという。

エンジンの主要スペックは排気量4104㏄、約170馬力。オンロードでは最高速度105km/hを出せる。これは後部6名と前席2名を含めた人員8名のフル乗車時やトレーラーなどを牽引する場合の値で、運転席と助手席に2名のみの乗車時なら125km/hが可能だという。

高機動車は牽引能力も高く、さまざまな装備を牽引することができる。これは120mm迫撃砲RT(重迫)を引く「重迫牽引車」。荷室は迫撃砲の備品を積むために細部が通常の高機動車と異なっているという。

車体サイズは全長4.91m、全幅2.15m。駆動系はフルタイム4WDで、ロック機構付きセンターデフを持つ、電動デフロック機構付きLSDだ。脚周りは4輪ダブルウィッシュボーンサスペンション。ハブリダクション機構もついていて最低地上高を向上させている。後輪には「逆位相4WS」機構を搭載したことが当時話題となった。

大柄な車体なのに小回り性能はすこぶる優秀だ。最小回転半径は6.5m以下となり、演習場内の勾配のキツいタイトターンをグイグイ曲がる。最大積載時の総重量は約4トン。輸送機での航空輸送や、輸送ヘリが機外に吊り下げての空輸も可能だ。

タイヤサイズは「37×12.50R 17.5-8PR LT」、ブリヂストンのマッドデューラーを履いている姿を見かけることが多い(銘柄等は納入時期や交換時期などで差異はあると思う)。タイヤはランフラットタイヤだ。空気圧調整装置も積んでいて、被弾し空気圧が低下したとしても、ある程度の走行が可能だという。全般的にトヨタ・ダイナなどの基礎構成や技術を使っているから一般路での走行性や使用性も良好で、定評ある汎用トラックの信頼感を持っている。

派生モデルには装甲の施されたものも

高機動車を利用した派生モデルの一例。これは地対空ミサイルを積んだ「93式近距離地対空誘導弾(近SAM)」という装備品。高機動車はこうした装備のベースとなっている。

高機動車には多くの派生モデルがある。地対空や地対地ミサイルを積んだものや、通信装置、レーダーを積んだものなどだ。これは後部荷室が平床で、コンテナを積み易いことが関係している。モジュール仕様とされたコンテナ装備・装置をそのまま搭載できる設計が優秀で、汎用性も大きい。

これが120mm迫撃砲RT。迫撃砲の砲口(写真左手)に専用接続具を着け、高機動車の後部と接続する。荷台には迫撃砲の関連用具・資機材などを積み、操砲担当班員も乗車する。普通科の迫撃砲部隊が運用。

また、装甲が施された高機動車もある。「国際任務仕様車」と呼ばれるものだ。主要改修点はフロントガラス内側に防弾ガラスを追加、車内への防弾板の追加。さらには車外へ身体を出す隊員保護のためのワイヤーカッターを装備、前席へのエアコン装着など。外観はほぼ国内仕様のまま、海外任務に合わせた改修をしているそうだ。

国際任務仕様車はイラク復興支援で初めて使われた。イラク派遣終後も生産され、その多くは国際活動教育隊(静岡県)などに置かれているが、海外派遣の先遣隊となる中央即応連隊(栃木県)などにも配備されているという。

モーターファンフェスタ2022でも高機動車は展示され、後部荷室への体験乗車が行なわれた。希望者は昇降台を昇って荷室のベンチシートに座り、担当員の解説を聞いた。左右のベンチシートに3名ずつ、計6名で座るとやや窮屈な感じはあるのだが、荷室内の高さや車幅が広く、車内空間にはゆとりがあって、居住性は意外と良いことに気づいた方も多いと思う。

モーターファンフェスタ2022での高機動車の体験乗車の様子。写真手前に置かれているのが昇降台。希望者はこれを昇って高機動車の室内へ入った。高機動車の荷室は意外と高い位置にある。路面から荷室の床面までは人の腰ほどの高さがあるのがこの写真でわかると思う。通常、隊員らの乗降手順は、牽引フックの位置にある格納式ステップを出して足がかりとするが、ステップは小型で、これを出してもまだ路面との距離は大きい。それでも隊員たちは滑らかに駆け上がり、軽やかに降車するが、一般層には踏み台のようなものがないと乗り降りは難しい。だから見学者などには昇降台の出番となるわけだ。昇降台はこうした展示機会での使用を目的とした手作り品と思われる。

高機動車は最初期型の登場から約30年が経つが、後継車両の計画は聞こえてこない。それだけ素地も使い勝手も良い車両なのだろうし、今後も使い続けてゆくはずだ。

著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…