96式装輪装甲車(WAPC)は、静かで滑らかな走りが特徴!【自衛隊新戦力図鑑|陸上自衛隊】

現場へ進行した96式装輪装甲車(WAPC)の後部の大型ドアから武装した普通科隊員が降車、小銃等を使った戦闘へ移る。これが下車戦闘と呼ばれる手法。下車後の人員は素早く散開し、射撃などを行なう。
2022年、3年ぶりにリアル開催となったモーターファンフェスタ(MFF)では、陸上自衛隊のタイヤ式(装輪)戦闘車両や装甲車、オートバイなど7種類の車両などの「防衛装備品」が初展示された。今回はそのなかから96式装輪装甲車WAPCを見てみよう。

TEXT&PHOTO:貝方士 英樹(KAIHOSHI Hideki)

全8輪、そして全輪駆動!

2022年4月24日、富士スピードウェイ(FSW)で行なわれた「モーターファンフェスタ2022」(MFF)で、陸上自衛隊が車両などの「防衛装備品」を初めて展示した。このコーナーでは先に、出展車の16式機動戦闘車(MCV)の搬入から撤収までの様子に注目し、その次は87式偵察警戒車(RCV)を、そして3回目となる今回は、全8輪の装甲車「96式装輪装甲車(WAPC)」に密着する。

陸上自衛隊:戦闘装甲車両上に、立つ?! モーターファンフェスタ2022に登場した87式偵察警戒車(RCV)

今春、富士スピードウェイにて行なわれた『モーターファンフェスタ 2022(MFF)』では初めての試みとして陸上自衛隊の車両が展示され、タイヤ式(装輪)の戦闘車両や装甲車、オートバイなど7種類の車両、「防衛装備品」が来場者を迎えたことは既報のとおりだが、今回は第二弾として、87式偵察警戒車を見てみよう。 TEXT&PHOTO:貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

まず本車の名称に関して。96式装輪装甲車は陸自内で「96WAPC(きゅーろくダブリュエーピーシー)」や「WAPC」、さらに縮めて「APC」と呼ばれる。WAPCとは「Wheeled Armored Personnel Carrier」の略語で装輪装甲車を意味している。
「APC」は諸外国軍での装甲兵員輸送車を指している言葉だ。

WAPCは見たとおり全部で8輪のタイヤが装着されている。
全輪を駆動させられるが、通常走行時は後部の4輪(3・4軸)のみを駆動輪とする方式だ。操舵は車首側の4輪(1・2軸)が担う。
それぞれのタイヤはいわゆるコンバットタイヤで、ある程度の被弾等に耐えられる。仮に2~3輪がダメージを負ったとしても残存した車輪で走行可能だという。また、タイヤの空気圧を車内から増減するなど制御することもできる。

FSWのパドック、自衛隊展示区画へ進入し、展示位置決めをした直後のWAPC。

ボディには装甲が施され、詳細な能力は公開されないが小銃弾や砲弾の破片などは防ぐことができるそうだ。
WAPCの諸元は、全備重量約14.5トン、全長 6.84m × 全幅 2.48m × 全高 1.85m。この車内に10~12名の人員を収容し、舗装路であれば約100km/hの最高速度で走行可能、行動距離は500km以上とされる。車体は小松製作所が製造した。

エンジンは三菱製の水冷4サイクル6気筒ターボ・ディーゼル(6D40)で、三菱ふそう「ザ・グレート」などと同様なものだという。トランスミッションと一体化したパワーパックとして車体前方左側に搭載され、360ps/2200rpmを発生する。

人員10人を乗せ舗装路や不整地を自在に駆ける、車中泊は意外と快適な「96式装輪装甲車」

「96式装輪装甲車」は、防弾・装甲化された車体の内部に多くの人員を乗せ、高速で走行、自在に移動することができる車両だ。つまり、つまり前線兵士の足となるクルマなのだ。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

車体上面には12.7mm重機関銃、または96式40mm自動擲弾銃(グレネードランチャー)のどちらかを搭載可能。
本車の特徴は、8輪タイヤで遠距離を高速で自走でき、装甲ボディで相手の火力脅威下でも10数名の人員を乗せて進行が可能な点にある。使用性や汎用性、なにかと使い勝手の良い車両として評価されている様子だが、古くなっているのも事実で、時代に合わせた装備へ更新するべく後継機の選定(後述)も行なわれている。

MFF当日のWAPCは、他のタイヤ式(装輪)車両と同様、静かにFSW外周路などを走ってパドックの展示場所へ入場している。走行中の様子を見ていて気づいたのは、エンジン稼働音や排気音、タイヤノイズなど各種の騒音が極力低減されている点だ。

2022年4月24日の早朝、富士スピードウェイ(FSW)西ゲートを通過後、外周路を会場へ向け走る96式装輪装甲車(WAPC)。

16式機動戦闘車(MCV)や87式偵察警戒車(RCV)も同じだったが、低騒音なのは装輪車両の利点なのだと思う。そして多数の出展車両と混走しながらの入場だったが、乗用車などと同じようにスムーズに走っている。本コースに沿うように作られたFSWの外周路は勾配や加減速する区間も多いが、WAPCは大型車・装甲車だからと、モタつくことなどなかった。こうした、一般道を「普通」に走行できる点がいいと思う。

戦車ではこうはいかない。戦車を舗装路で自走させると路面を損傷させ、自車のキャタピラも傷めたり脱落させてしまうこともある。仮に、富士山麓の駒門駐屯地からFSWまで戦車を運ぶならトランスポーターが必要だ。その後パドック内へ搬入したとしても、40トン前後の戦車の重量が展示場所の路面や路面下の諸設備にダメージを与える可能性は非常に高い。

つまり、当然なのだがタイヤ式(装輪)車両は舗装路・一般道の走行に長けていることが、MFFの展示を通じて納得できた。これらの装輪車両や装備は必要な場合、一般道や高速道路などを自走して現場へ急行することができる。これは現在の我が国の国土整備状況や道路網を考えれば当然必要な能力。これが改めて実感できた(もちろん、だから戦車は不要だ、などと言っているわけではありません)。

今後、機会が訪れることに期待

WAPCの左側面。写真左手が車首側。第3・第4輪の上方に車内から外部を視察するための小窓が設置されている。

WAPCの展示状況はというと、8輪タイヤは迫力を持って目に飛び込んでくるが、あとは四角いボディがそこにあるだけなので理解しにくかったかもしれない。WAPCの隣ではRCVが車両上面への乗降体験を行なっていたが、WAPCは静かに停車していただけだったからだ。そのため、装輪装甲車というものを掴み取りにくかったかもしれない。

WAPCの後部。大型油圧式ランプドアが設置され、車内にアクセスできる。ランプドア自体に手動式の小型ドアが埋め込まれるように設置されている。油圧ドアが被弾するなどして故障した場合にはこれを利用するという。
戦闘で負傷者が発生すればWAPCは救急車となり、後方へ負傷者を運ぶ。担架ごと運び込める車内の広さが利点だ。

車両後部のランプドアを開放し、車内左右に設置されたベンチシートへ着座するなどの乗車・着座体験があったとしたら装輪装甲・人員輸送車を体感できたかもしれないが、現用の装甲車ゆえに内部の公開は難しいのだろう。
仮に車内へ着座できたら、ボディ左右に設置された外部視察用の小窓から差し込む自然光が白い内装と相まってある程度の車内の明るさを確保している様子がわかったり、居住性の良さも体感できたかもしれない。今後こうした機会が訪れることに期待するばかりだ。

WAPCは後継機種の選定作業を実施中だ。そもそも防衛装備庁が次期装輪装甲車を開発していたが、うまくいかなかった。基本の装甲車体にモジュール機構でバリエーションを設けたファミリー化構想があって、通信車や救急車、施設車両などを設けるプランだった。しかし連接構造部分の防弾性能などの確保が難しいとされ、開発の継続は高コスト化と車体の大型化による走行性能の低下などが予測・指摘され、計画は中止。しかし次期車両が必要なのは変わらず、2019年から「次期装輪装甲車導入候補車種の選定」作業を開始。国内外メーカー製の試験用車両を後継車両とするテストが陸自富士学校で始まった。候補車両は三菱重工「機動装甲車」、フィンランド「パトリアAMV」、ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステム・カナダ「LAV6.0」などだ。このうち外国製の2両はすでに国内に運ばれ演習場で試験中と噂され、富士学校でテスト中の「パトリアAMV」が目撃されてもいる。

「次期装輪装甲車」の選定作業が進行中、パトリア社「AMV」と三菱「MAV」が最終候補か?

陸上自衛隊はタイヤ式の装甲車「96式装輪装甲車」の後継車両を選んでいる最中だ。先ごろ、候補車両のひとつを試験走行するさまが富士山麓の陸自施設で目撃されている。後継車両「次期装輪装甲車」の決定は山場を迎えているようだ。 TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…