陸上自衛隊:本日は「令和4年度富士総合火力演習」を実施中、演習ライブ放送はYouTubeで見られます!

戦車砲を射撃する16式機動戦闘車。本車の主砲は74式戦車と同じ52口径105mmライフル砲を搭載している。写真/陸上自衛隊
「富士総合火力演習」略して「総火演(そうかえん)」は陸上自衛隊が行なう実弾射撃を含む演習のこと。年に一度のビッグイベントが本日5月28日に行なわれているところだ。ライブ配信も実施中で、YouTube「陸上自衛隊 広報チャンネル」で見ることができる。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

本日28日AM10:00スタート!

「令和4年度富士総合火力演習」のポスター等に使われる主イメージ。キャッチコピーは「陸上防衛力は新たなステージへ。」であり、従来領域と宇宙・サイバー空間・電磁波領域などマルチドメインでのオペレーション能力を表現している。写真/陸上自衛隊

本日、2022年5月28日は陸上自衛隊「富士総合火力演習」が行なわれている。総火演は一般公開される陸自の大演習だ。場所は静岡県の東富士演習場。同演習場は富士山東麓に造られていて、御殿場市や小山町、裾野市にまたがり、面積約8809ヘクタールと本州最大の演習場だ。ここの畑岡地区と呼ばれるエリアが総火演の会場となっている。現地で戦車砲や榴弾砲などの実弾射撃を多く含む演習を展開するのが総火演だ。そもそも総火演は新入隊員等の教育・研修を主目的としており、現場での知見獲得を本質としている。

本日28日午前10時からYouTube「陸上自衛隊 広報チャンネル」でライブ配信が始まっているところで、工夫を凝らした迫力映像が視聴できているはずだ。

今回の記事は総火演のライブ配信等の視聴をお勧めするもの。なぜなら総火演はコロナ禍により生で(会場で)見ることができなくなっているから。新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から一般公開をやめたのが2年前の2020年。この年は東京オリンピックも予定されており、従来8月に行われていた総火演は前倒しされ5月に据えられたが、結局、無観客での開催となった。

しかしこの年の総火演の様子はライブ配信され、近接映像や空撮映像を多く採り入れた映像は迫力があって大きく注目された。従来、会場で見るのは戦車等の射撃をその背後から眺めていたわけだが、ライブ映像はドローンを飛ばし、戦車等を上空から俯瞰、射線に迫るようなアングルで映した斬新で画期的なものだった。この「令和2年度富士総合火力演習」のYouTube同チャンネルでの再生回数は現在まで1072万回を数えている。

総火演は配信映像で見るのがお勧めの理由

射撃陣地に進入中の16式機動戦闘車などを映した総火演ライブ配信の空撮映像。右手奥が観客席になる。新視点で見る総火演は新鮮な驚きがある。写真/陸上自衛隊

総火演を配信映像で見るようになってからの利点はいくつか挙げられる。低空の空撮映像などによる従来にない新しい視点、これがまず大きい。そして当たり前なのだがそもそも現地に行かなくても視聴できる点だ。コロナ禍を逆手に取ったような新機軸を展開、定着しようとしている。

反面、生の体感や体験ができないのは残念だ。たとえば10式戦車や90式戦車が目の前で実弾射撃したとき発生する衝撃の伝播を観客席で受け止めるとどんな感じなのか、ヘリコプターがホバリング中のダウンウォッシュ(吹き下ろす風)で飛ばされてきた砂礫まじりの熱風はどんな匂いがするか、偵察バイクが大ジャンプののち着地したときの軋みはどんな音か、小銃を抱えて走る普通科隊員の個人装備がたてる擦れ音はどうか。砲弾や銃弾はどんな音をたてて飛翔し、目標に命中しているか。映像配信ではこうしたことを五感で感じ取ることはできない。

また、畑岡会場の天候変化にモニター越しでは影響を受けない。富士山麓の演習場、山の天気は変わりやすく、晴れれば暑く、雨が降れば体は冷え切るような季節と環境だ。8月に行なわれていた頃の総火演は、気象変化により酷暑と寒冷が1日の中で起きたものだった。どんなに好天でも雨具は必須だった。

稜線射撃をする74式戦車。観客席から見る従来の総火演はこういう視点だった。ライブ配信でもこうした射撃シーンを捉えたものが多くなるが、空撮や車載カメラをも駆使した機動的な映像も盛り込まれる。写真/陸上自衛隊

富士山に向かって緩やかに登り勾配になっている地形を会場へ向けて駐車場から歩けば息は切れるし、地面は火山由来の砂礫・土質でグリップの悪い部分も多く足元が空回りしてなおさら疲れる。こうした現地ならではの楽しいがシンドイ状況を体験することもできない。コロナ禍による無観客措置、映像配信の実施がもたらすものは様々で、総火演の見方や捉え方も変わってきたと感じる。どちらかだけが良い、悪い、という話ではないが。

今年の総火演の見どころ

会場正面に進入してくる水陸両用車AAV7。煙幕にするスモークを焚き、沿岸部への上陸を模している。島嶼防衛をイメージさせるもの。写真/陸上自衛隊

本日の総火演の見どころだが、まず演習シナリオの大テーマは島嶼防衛だ。演習場を離島に見立て防衛行動を展示する。これはここ10年ほど展開している定番シナリオとなっているもの。島嶼防衛は自衛隊・日本のテーマだから、富士山麓をして『ここは島です』との説明アナウンスを聞いても違和感は大きいと思うが、ここはそのまま受け止めてください。そして空自・海自の航空機参加や離島防衛・奪回の主力である陸自水陸機動団の行動などを追う。水陸両用車AAV7の機動走行・展開などだ。

個別の注目装備は16式機動戦闘車や19式装輪自走155㎜榴弾砲、12式地対艦誘導弾やドローン類、そしてV-22オスプレイなどだろうか。

輸送ヘリCH-47JAの機内から高機動車が降りる。車両や人員等を迅速に輸送・投入するヘリボーン手法を見せることも総火演の定番展示となっている。写真/陸上自衛隊
偵察隊はオートバイKLX250で踏み板を使った大ジャンプを披露する。大ジャンプは隊員の技量と装備の性能を伝える手法として長年行なわれているものだが、総火演や各駐屯地祭などの展示でのみ行なわれるもので、実際の運用ではこうした派手な走行はしないという。写真/陸上自衛隊

機動戦闘車は74式戦車の後継となる「装輪(タイヤ式)戦車」。今後の装甲戦闘車両の主軸に据えてもいる装備だから、本車の走行や射撃には注目したい。もちろん10式戦車や90式戦車も参加するから、戦車との動きの違いや運用方法も確かめておきたい。地対艦誘導弾は島嶼防衛での陸上発射遠距離火力の主力だからこれも注目だ。19式自走榴弾砲とオスプレイは今回が初参加の予定だという。スキャンイーグルなどドローン類の飛行はズームアップされるだろうからしっかり見ておきたい。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…