600台限定のコンプリートカー「WRX STI Sport #」

新たなSTIコンプリートカーシリーズとして、2020年より投入されてきたのが、「STI Sport#」だ。先代WRX S4ベースを皮切りに、2023年には、現行型レヴォーグ初のコンプリートカーを。さらに2024年には現行型WRX S4をベースにも送り出された。そして、2026年に送り出されたのが、今回の限定車だ。

前モデル同様に、WRX S4 STI Sport R EXの特別仕様車という点は共通しているが、名称が「WRX S4 STI Sport#」ではなく、「WRX STI Sport#」に変更されている。これは現行型WRXシリーズの日本仕様として初採用の6速MTであることが大きなポイント。

実は、現行型もWRXシリーズの海外仕様にはMTモデルが存在しており、その駆動システムが同モデルにも使われているのだ。それでは同仕様が実質的に「WRX STIでは?」と思う人もいることだろう。

しかし海外モデルでもMT仕様は「WRX STI」を名乗っておらず、上級仕様ではSTIチューンを示す「tS」の名称に留まる。その理由は、駆動システムの違いにある。

スバルならでは?多様なトランスミッションとAWDシステムの組み合わせ
そもそもスバルのAWDシステムは、MTとAT(CVTを含む)のトランスミッションだけでなく、クルマのキャラクターでも複数のシステムを使い分けている。
現行型WRX S4の駆動システムは、CVTの「スバルパフォーマンストランスミッション」に、VTD-AWD(Variable Torque Distribution All Wheel Drive=不等&可変トルク配分電子制御AWD)と呼ぶシステムを組み合わせる。

このシステムの特徴は、センターデフによってトルクを前45:後55に不等配分すること。つまり、リヤの駆動力を強くすることで、コーナリング特性を高めているわけだ。
1991年に登場したスペシャルティクーペ「アルシオーネSVX」で初採用され、レガシィでは、2代目のターボモデルのAT車より搭載。さらに初代レヴォーグ2.0Lターボ車や現行型レヴォーグの2.4Lターボ車にも使われている高性能車向けのシステムという位置づけだ。

一方、先代WRX STIでは「マルチモードDCCD方式AWD」を搭載。前41:後59を基本にトルクを不等配分し、遅れのないリニアな制御が可能なトルク感応機械式LSDと、緻密な制御が可能な電子制御LSDを組み込むことで、より大きな駆動力を発揮しながら高い安定性を確保する。このDCCDとは「ドライバーズコントロールセンターデフ(Drivers Control Center Diffferential)」の意味だ。


このシステムは、初代インプレッサWRXの1994年11月の改良で用意された受注生産モデル「WRXタイプRA STi」に初採用されたもので、電子制御によりセンターデフのトランスファーレシオをデフフリーからデフロックまでマニュアルでコントロールできる機構だった。


さらに2002年11月には、DCCDに自動モードを追加。2007年10月7登場の3代目インプレッサWRX STIより、任意設定に加え、3つの自動モードが選べるマルチモードDCCDへと進化している。


シンプルで軽量なDCCD未装備のAWDシステムを採用
意外にも、現行型WRXシリーズのMT車の4WDシステムは、このマルチモードDCCDではなく、「ビスカスLSD付センターデフ方式AWD」なのだ。

ベベルギヤを用いたセンターデフとビスカスLSD を組み合わせた機械式4WDシステムで、前輪50:後輪50のトルク配分によりトラクションを最大限に引き出し、安心感のある走りからスポーティな走りまで幅広くカバーするという。

初代レガシィシリーズのMT車で初採用され、初代インプレッサWRXシリーズでもDCCD付きモデル以外は同システムを採用している。その後、DCCD方式AWD車以外のMT車に幅広く採用されてきた。シンプルな機械式ゆえ、軽量であるのも強みなのだ。
トランスミッションは伝統の「TY75」型を採用
さらに違いはマニュアルトランスミッションにもある。いずれも6速MTではあるものの、現行型WRXシリーズのMTが「TY75型」であるのに対して、先代WRX STIは「TY85型」を採用している。

よりマニアックな話となるが、「TY75型」は、フルタイム4WD用のマニュアルトランスミッションで、3代目レオーネのフルタイム4WD車向けに開発されたもの。その後、現代のスバル人気の基礎となった初代レガシィと初代インプレッサにも使われ、現代まで改良を重ね、使い続けられている大定番なのだ。

当初は5速のみだったが、後に6速化されている。強みとしては軽量コンパクトが挙げられ、その素性の良さから、幅広いスバル車で使われてきた。

対する「TY85型」は、モータースポーツシーンで活躍したインプレッサWRX STiモデルの高出力化で弱点となったトランスミッションの対策として、2000年登場の「WRX STi」シリーズより採用された強化型トランスミッションだ。

当初から6速のみだが、TY75型の5速のレンジをカバーするクロスレシオとすることで、スポーツドライビングに対応。さらに、ゆとりのあるTMケースのサイズと高剛性化を始め、クラッチ径のアップ、ケース内へのオイルポンプの内臓、トランスミッションオイルクーラー設置を考量するなどモータースポーツを意識した設計となっていた。そのため、市販車ではWRX STI系専用で、スバルのレーシングカーにも使われているほど。

試乗経験がある人しか分からないが、「TY75型」と「TY85型」ではシフトフィールも異なる。これは主にシフト方式の違いによるもの。シフトレバーとトランスミッション本体との接続方法が違うというわけだ。TY75型はケーブルシフト方式だが、TY85型はロッド式。

その結果、TY75型のシフトフィールは、軽やかで動きもスムーズ。TY85型では、カチッとした剛性感のあるシフトフィールの代償として、操作は重めに。もちろん、TY75型と比べての話で、操作性の良いトランスミッションといえる。その操作感は、好みで分かれるだろうが、個人的には、日常領域なら、軽快なタッチのTY75型に分があると思う。

ただスポーツドライビング愛好家がトランスミッションの違いを懸念する気持ちも分かる。TY85型が搭載された先代WRX STIのEJ20ターボの最大トルクは422Nmだが、TY75型が搭載れる現行WRXのFA24ターボの最大トルクは350Nmに留まる。排気量アップを図りながらも、現行型WRXの方が72Nmのトルクが抑えられているからだ。
2代目インプレッサWRX STiでは、仕様により両方のAWDシステムにもTY85型を組み合わせた実績があるので「なぜTY85型にしてくれないのか」とファンが考えても不思議ではない。
もちろん、先代WRX STIのようなハードチューンに想定すると厳しいところもあるはずだ。スバルから対応トルクに関するデータは得られなかったが、TY75型も進化を続けており、かつてのような耐久性に不安を感じることはないはずだ。
実際に、高トルクと軽快な駆動系の組み合わせのお陰で、クルマの動きにも俊敏さが増したと思う。そこにSTIチューンが加わる限定車「WRX STI Sport#」の走りは、かなり期待できる。スポーツ走行時に気にすべきは、シフト剛性の違いによる操作感かもしれない。

WRX STI Sport # はMTカタログモデルの布石になるのか?
今回のWRXのMT復活は限定車のみで、カタログモデルの動向については不明だ。しかし、2026年5月18日で現行仕様の受注はストップとなり、WRX S4 STI Sportのグレード展開が終了となると公式サイトに記載されている。

現状、WRXシリーズは「GT-H EX」と「STI Sport R EX」のみ。単に絞り込み、モノグレード化されるとも考えにくい。TY75型のMTモデルが、いよいよ日本市場にも展開される布石か。それとも異なる提案のためか。現時点では全く不明だが、スバルはモータースポーツと深い結びつきがあり、安全性能と同等に運転の楽しさを追求するメーカーでもある。そこでスバル販売店を探ってみると、何らかの形でWRXに、MT車グレードの投入される可能性が濃厚であることが分かった。これは嬉しいニュースだろう。

「WRX STI Sport#」の抽選に外れた人も、近いタイミングで別の選択肢が提案されることを期待して良いのではないだろうか。これはスバルユーザーである筆者の希望であると共に、スバルというメーカーを見てきたジャーナリストとしての期待でもある。如何なる答えを提案してくれるだろうか。胸を膨らませて待ちたい。
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