HRCらしいレース由来の機能美を市販化へ。目指すのは“本物志向”

ラッピングなしの状態で初めて展示された「PRELUDE HRC Concept」

−−「PRELUDE HRC Concept」は2026年1月の東京オートサロンで初公開され、こちらはホンダ・レーシングとともにホンダアクセスさんが開発を担当したことも明らかにされました。HRC(ホンダ・レーシング)の名を冠したこのモデルは、ホンダアクセスが手掛けてきた「Modulo」ブランドに対し、どのような点が異なるのでしょうか?

湯沢さん Moduloとは異なり、HRCらしいレーシーなテイストが入ったもの、例えば空力が見える形にして、機能美を強く表現しています。あくまでもHRC PERFORMANCE PARTS のありたき姿を表したスタディモデルとして提案しました。

PRELUDE HRC Conceptのリヤウイング

−−「PRELUDE HRC Concept」が展示された東京オートサロンや大阪オートメッセ、そして今回のモーターファンフェスタでの、お客さんの反応は?

湯沢さん ビックリするくらい非常にいいですね。ただ、「見た感じがもう高そうだな」と(笑)。「カーボンパーツがお高いんでしょうね」と皆さんおっしゃいます(笑)。しかし、空力を意識したボディワークや、カーボン表現など、HRCらしいレースシーンとのつながりを意識させるディテールに対する関心が高いことも実感しました。

今回のモーターファンフェスタでは、オートサロンなどでご覧になっていない、初めて見る方も多く、「何これ!?」という反応を示す方も多くいらっしゃいました。

オートサロンなどでは、同時に展示した「Honda HRC PRELUDE-GT」とのつながりを意識させるラッピングを施していましたが、今回は外したので、造形の美しさ、一台のクルマとしての魅力がしっかり伝わっているのだと思います。

オートサロン出展時のPRELUDE HRC Concept

−−これを市販化する場合は、デザインが少し柔らかくなり、価格も現実的になるという未来図が想像できます。

湯沢さん これはあくまでもHRC PERFORMANCE PARTSのスタディですので、そのまま市販化されるわけではありません。そして、F1やスーパーGTなどトップカテゴリーのモータースポーツに参戦する“Honda Racing”の名を冠するパフォーマンスパーツブランドですので、その名に見合ったものにしていきたいですね。その製品は確実に性能を備えさせ、材質や形もレースに直結したものにしたいので、それに見合ったプライシングになるでしょう。

もちろん、HRCとともにレースで磨いた技術を幅広いHonda車で楽しめるレベルに落とし込んでいくことも考えています。それは我々ホンダアクセスがModuloで培ってきた得意分野ですから、HRCとの共同開発でさらにパフォーマンスレベルの高い製品をお届けしたいです。

ホンダアクセスが長年にわたって実効空力®で培ってきたノウハウを活かしてデザインされている
エアロパーツにはCFRP(炭素繊維強化樹脂)を積極的に使用

HRC PERFORMANCE PARTSで“自分仕様”に仕立てる楽しさ

−−ユーザー視点で気になるのは、やはり売り方だと思います。たとえば、ホンダアクセスが開発を手掛けている「Modulo X」シリーズはコンプリートカーとして販売されていましたが、それはトータルバランスへの強いこだわりもあってのことだと認識しています。「PRELUDE HRC Concept」を市販化する場合も、部品単位での販売よりコンプリートカー販売の方が相性が良いと感じていますが、どのようにお考えですか?

湯沢さん 本当に一台分の価値として提供するのがベストな製品であれば、そういう売り方もあり得るかもしれません。

コンプリートカー販売もHRC PERFORMANCE PARTSの世界観を表現するひとつの手段かもしれませんが、部品単位での販売にも車両一台分だけではない世界があると思っています。

それは、お客様が自分の好きなパーツを選んで購入していくことで、自分好みのクルマを作り上げていく。その楽しみは、カスタマイズの世界ならではのものです。

特にモーターファンフェスタのようなイベントにいらっしゃるお客様はどちらが好きかを考えると、部品単体での販売も喜んでいただけるでしょう。

「Modulo X」の際は、「Modulo」というブランドを認知してほしいという狙いがあったので、車両一台分のトータルでいいクルマを作るメーカーとして見ていただくため、コンプリートカーにこだわりました。

ですが今となっては、「Modulo X」や「Modulo」で培った「実効空力®」やホイールの剛性バランスなどが認知され、ホンダアクセスが技術的ノウハウのある会社と見ていただいています。

そうしたホンダアクセスが培ってきた独自技術を、HRCとともにレースの知見を活かしながら、さらに高いレベルへ引き上げた「HRC PERFORMANCE PARTS」としてお届けしたいと考えています。

将来的には、パーツの組み合わせによって、一人ひとりに合ったセッティングができるようにしたいですね。

一台分トータルでセッティングすると、合う人と合わない人がどうしても出てしまいます。運転のしかたによってクルマの動き方も変わりますので。

ホンダ・S660 Modulo X

−−それはすごく面白いですね!

湯沢さん カスタマイズの世界はそうではないかと。さらにHRCとなればサーキットを走る方も多くなると思いますので。サーキットでは、絶対的な一つの正解はありません。ドライバーによって操りやすいセッティングは様々ですので、そのドライバーが本当に自分の力を出せるようなパーツにする、という役割はあると思っています。

−−当然コースによってもセッティングは変わりますよね。

湯沢さん そうですね。鈴鹿はいいけど富士ではダメ、ということもあると思います。

−−「PRELUDE HRC Concept」は車高も下がっているとのことでしたが、サスペンションキットを発売する計画もある、ということでしょうか?

湯沢さん ホンダアクセスとしては最近ご無沙汰していますが、走り好きなお客様からは要望があるパーツではあるので、HRC PERFORMANCE PARTSでは、チャレンジしてみたいパーツのひとつですね。

“走る実験室”で磨かれるHRCの技術。スーパー耐久で鍛える空力と足回り

−−2025年シーズンからスーパー耐久(S耐)のST-Qクラスに参戦している「CIVIC TYPE R HRC Concept」に、HRCとともにホンダアクセスさんも関わっているとのことですが…。

湯沢さん ST-Qクラスは、この中で競うというよりはむしろ、メーカーが技術と人を磨くという目的のカテゴリーになっています。我々はそこに入り、ホンダアクセスのエンジニアとHRCのエンジニアが共にレースに出ることで、技術をHRC PERFORMANCE PARTSの市販化に活かしていきたいと考えています。

−−その開発は、空力と足回りが中心でしょうか?

湯沢さん はい。まずは2025年シーズンから、ホンダアクセスの強みである空力技術を活かして開発したリアウイングを271号車に装着して参戦しています。自分たちの技術がレースで通用するのか、ということの検証もあります。

スーパー耐久ST-Qクラスに参戦している#271 CIVIC TYPE R HRC Concept

−−サーキットレースを通じてしか得られないノウハウとは?

湯沢さん 例えば空力では、高い次元での高速コーナーでの安定性や、直進時の安定性ですね。そういう状況だからこそドライバーから出る言葉を読み取りながら、それにどう空力で対応すべきか、そこから得た知識が市販車に役立つのか、エンジニアの挑戦としてフィードバックさせるのが、まず一つあります。

ホイールの剛性バランスに関しては、ただ硬ければよいのではなく、少ししならせることでタイヤをしっかり使い、ドライバーを安心させるというのが、市販車向けの方向性でした。

これがレースでもドライバーの安心につながり、コーナーの立ち上がりでアクセルを踏んでいけるのか、剛性バランスのレベルをどの程度にすればレースで通用するのか…という形で、市販車で得た知識をレースに活かし、さらにそこから得たノウハウで市販車をより良くできないかと考えています。

2026年シーズンのスーパー耐久第2戦鈴鹿5時間レースに参戦する#271 CIVIC TYPE R HRC Concept

−−進化のスピードに関しては…?

湯沢さん 毎戦進化させていきたいですね。レースは一発勝負で、結果がその日に出るので、自分たちが作ったものがどうだったかもすぐに分かります。では次のレースに向けて何をしなければならないかと、PDCA(Plan、Do、Check、Act。計画・実行・評価・改善を継続的に行うフレームワーク)を早いサイクルでどんどん回せるのも大きいですね。

レース開発は市販車開発よりもはるかに短いスパンで、いろいろなトライアルが必要なので自分たちの技術をどんどん上げるためにもレースを活用して、エンジニアの知識をどんどん増やし、成長を促したいですね。

−−ST-Qクラスのレギュレーションでは、チューニング上の制約はどうなっていますか?

湯沢さん 制約はありません。どういう技術を投入するかを主催者側に申請し承諾が得られれば、新しい技術を投入できます。

2025年の最終戦では、#271 CIVIC HRC Conceptに新型レース用HRC K20Cエンジンをテスト搭載。こうしたトライが可能なのも、ST-Qクラスならではだ

−−まさに「走る実験室」ですね。

湯沢さん はい。そもそもホンダアクセスとしても、こうしたレースを活用した市販製品開発は今にはじまったことではなく、レースを「走る実験室」と捉える風土がありました。2007年~08年シーズンのS耐にホンダアクセスとして参戦し、そこで得たノウハウをフィードバックして開発したのが、2008年に発売した「Sports Modulo CIVIC TYPE R」です。これは、実効空力®エアロパーツの第一弾モデルで、S耐を通じて空力性能を磨き上げました。とくに08年シーズンは市販前のエアロパーツを実戦投入し、その性能をレース現場で検証しました。

FD2型 Sports Modulo CIVIC TYPE R(手前)と現行FL5型 CIVIC TYPE R 純正アクセサリー装着車(奥)

HRC強化の先に何がある? 他車種展開と新たなラインナップに期待

−−そうしたHRCとのコラボレーションはもちろんのこと、次の「モデューロX」にも期待したくなりますが…。

湯沢さん 我々は少数精鋭で開発していますし、これまで以上にこだわったものを開発していくことになりますので、しばらくの間はHRC PERFORMANCE PARTSの開発に注力することになるでしょう。

ただ、Modulo Xの開発を通じて培ってきた“実効空力®”エアロパーツなどの独自技術をHRCとの連携によって、これまでよりも高いレベルに進化させてお届けしたいと考えておりますので、ご期待いただきたいです。

それからPRELUDE HRC Conceptはあくまでも“HRC PERFORMANCE PARTS”ブランドを表すスタディであって、PRELUDE用に開発している製品を装着しているわけではありません。このクルマで提案したものを別の車種で展開する可能性もあります。

−−最近、ホンダさんに関しては暗いニュースも少なくありませんが、一方でクルマ好きをワクワクさせてくれる車種も増えてきました。だからこそ、HRC PERFORMANCE PARTSにも、すべてのクルマ好きの期待に応える存在になってほしいと思います。ありがとうございました!

PRELUDE HRC Concept