いすゞD-MAXがヨーロッパ市場を重視する理由とは?

「人とくるまのテクノロジー展2026 YOKOHAMA」で展示されたいすゞD-MAX EV(欧州仕様)。

いすゞD-MAXは、2002年より市場投入されている1トンピックアップトラックだ。グローバルで展開されるモデルだが、日本には未導入。歴代モデル全てがタイで生産されている。現行型は、2019年にフルモデルチェンジされた3代目。これまではディーゼルエンジン車のみだったが、2024年3月に初のBEV仕様を世界初公開。2025年4月より、D-MAXの生産工場であるタイでの製造が開始された。

いすゞD-MAX EVだが、エンジン車との外観上の違いは限定的だ。

D-MAX EVは、左ハンドル仕様から製造が開始され、欧州市場から投入を開始。右ハンドル車が求められるタイでは、2026年3月より販売が開始された。生産国よりも欧州市場が先行した背景を尋ねると、ノルウェー市場が大きな理由のひとつという。

左ハンドル仕様のいすゞD-MAX EV。インテリアもエンジン車とほぼ共通という。

ノルウェーでは、政府による電動車シフトが推進されており、、乗用車の場合、2025年の新車販売では、96%がEVだったという。商用車の場合、まだ主力はエンジン車のようだが、商用車にも税制優遇などのメリットがあるため、今後、EV比率が高まるとみられる。

いすゞD-MAX EV

現在、いすゞはD-MAXのみを投入しており、ディーゼルエンジン車の販売比率が下がれば、存続の危機となりえる。つまり現地ではビジネスカーといえど、BEVはマストな存在になろうとしている。

EV化はエルフEVのシステムを流用して開発

そこでいすゞは、ディーゼルエンジン車のD-MAXをベースに、既に発売済みだったEVトラック「エルフEV」のシステムを流用し、ピップアップトラック向けのものを開発した。ただし、駆動方式や対応する走行環境が異なるため、独自開発もしっかりと行なわれている。

いすゞエルフEVのプラットフォーム(PHOTO:ISUZU)

まずひとつが、4WD化だ。エルフEVは車体中央にモーターを配置したプロペラシャフト付きの後輪駆動だが、D-MAX EVでは、前後に専用のeAxleを備えた2モーターのシステムを構築し、フルタイム4WD化している。

いすゞブースのD-MAX EV解説パネル

悪路走行に対応するタフさを始め、1010㎏の最大積載能力や3500㎏の最大牽引能力などエンジン車同等のものを与えたという。そのため、電子的なデフロックも備えている。

最大積載量1010㎏とし、エンジン車と同等の性能を有する。

注目の性能だが、システム最高出力は140kW(約190ps)・最大トルク325Nmとした。最大トルクこそディーゼルエンジン車に劣るが、3.0Lのガソリン車並みのトルクは持つので必要十分といえる。最大の関心事である駆動用リチウムイオンバッテリーは、66.9kWhを搭載。その航続距離は、263km(WLTP)と少なめ。働くクルマのなかでも、厳しい環境下での仕様も想定されるピックアップトラックだけに、ちょっと物足りない気もする。
その背景には、エンジン車とラダーフレームを共有し、居住性能及び積載能力を維持したことがある。

展示された欧州向けいすゞD-MAX EVの主要諸元

開発者によれば、EVシェアが急拡大する市場に対応すべく、急ピッチで開発したため、内外装デザインや構造はほぼ共有だと話す。同様の仕様環境で使えることを重視し、駆動用バッテリーは、ラダーフレームの中央部に配置し、ボディ下部には、駆動用バッテリーの保護部材も追加されている。限られたスペースを有効活用するため、エンジンルームもフル活用。フロントeAxleの上部には、電動化システムがぎっしりと収められている。

エンジンルームに収められたEVシステム。

ボディタイプは、地域により異なるが、展示のダブルキャブに加え、フロントシート後部にスペースを設けたスペースキャブの2種類があるそうだが、今後ニーズによっては、荷台部の架装に対応するべく、シングルキャブも用意する可能性もあるとのことだった。

展示車両は後席を備えたダブルキャブ。

ただ最新のピックアップトラックは、デジタルメーターパネルも採用していることもあり、メーターの変更がし易いことやAT車用のパドルシフトを、回生ブレーキの強弱変更に使用しているとも説明を受けた。またキャビンスペースも全く同じだという。

いすゞD-MAX EVのハンドルまわり。ぱっと見では、EVとは気が付けないだろう。

航続距離と価格は課題だが中国製ピックアップEVはライバルにならない

正直な開発者が挙げた弱点は、大きくふたつ。
まずは短い航続距離だ。上記したように、エンジン車を構造共有し、同等の使い勝手を与えたため、駆動用バッテリーの搭載スペースの制約が大きい。

左ハンドル仕様のいすゞD-MAX EV。高価格なので、D-MAXの中でも装備も充実。

もうひとつが価格。生産地のタイでの価格は、159万1000バーツ(約780万円)。最も高価なディーゼルエンジン車の4WD仕様「V-CROSS」の最上位グレードが129万7000バーツ(約636万円)となるが、ただ後輪駆動車とはいえ、ダブルキャブのエントリー価格が74万9000バーツ(約367万円)であることを鑑みれば、確かにお高く、ビジネスカーとしては厳しい面も垣間見える。

いすゞD-MAX「V-CROSS」は全車4WDとなる上級仕様だ。

意外だったのは、市場参入が増える中国EVピックアップトラックは直接的なライバルとはならないという見解であった。
その秘密は基本性能にあるという。中国製EVピックアップトラックは、積載能力や牽引能力がエンジン車の1トンピックアップトラックの性能には及ばないそう。どちらかといえば、ライフスタイルで選ぶSUVに近い存在なのかもしれない。そのため、市場での直接的な競合はないとのこと。つまり、用途によっては、D-MAX EVではなくてはならないということである。

中国EVピックアップトラックの一例。吉利汽車(Geely)のEVピックアップ「Riddara RD6」。あのBYDも「SYARK」というモデルを投入している。(PHOTO:Riddara)

スピード感のあるEV化の対応には、EVでもピックアップトラックとしての性能を重視するユーザーの期待にしっかりと応えることこそが、最大の生き残り戦略だったのだ。もちろん、市場や顧客によりニーズは異なるので、今後もディーゼルエンジン車も供給していくとしている。

ピックアップトラックEVの今後の可能性

いすゞD-MAX EVの外観上の特徴は、青い加飾が追加されたフロントグリルと、各部のEVを示すエンブレム程度。

配送用車両など、街中の短距離や固定ルートの移動に関して、EV化のメリットは大きいが、ピックアップトラックのEV化の必要性は疑問を感じていた。しかし、既にノルウェーのようにEV化がマストという市場があるのも事実。内外装の差別化をせず、投入を最優先した行動は、急激な市場の変化を象徴するものだろう。そのいすゞD-MAXの努力は評価したい。

いすゞD-MAX EVの給電口。コンパクトな普通充電タイプ2/急速充電CCS2を採用。

因みにD-MAXには、姉妹車のSUV「MU-X」がある。こちらはホイールベースが短いため、現時点でのEV化は難しいとのことだった。

いすゞMU-Xは海外展開されるPPV。つまり、ピックアップトラックベースのSUVである。日常の使い勝手から、トラックよりもコンパクトなのだ。

今後、D-MAX EVは、新たに豪州にも投入される。日本にも、やってこないのかという声もあるだろうが、そもそも日本市場でのピックアップトラックのニーズは限定的なので、エンジン車を含め、投入の可能性は極めて低い。また厳しい環境下にも応えられるEVの1トンピックアップトラックの技術も、まだ商品として未熟な面があるのも事実だ。ただ世界市場に置いて、早期の挑戦は、今後の強みとなる可能性は十分にある。D-MAXと市場が、どのような発展を遂げていくのかにも注目だ。